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論理的思考力を鍛える33の思考実験(2017/4/27)/北村良子【読書ノート】

思考実験とはある特定の条件の下で考えを深め、頭の中で推論を重ねながら自分なりの結論を導き出していく、思考による実験です。例えば、ニュートンは落下するりんごを見て、この現象が宇宙の他の星にも働いているのではないか、なぜ月は落ちてこないのかと着想したという説があります。この思考が、有名な万有引力の法則につながっていくわけですが、これもりんごが落下するという事象を頭の中で拡大解釈していった、一種の思考実験といえます。
本書では、「トロッコ問題」「テセウスの船」「アキレスと亀」「ギャンブラーの葛藤」「モンティ・ホール問題」「エレベーターの男女」「マリーの部屋」「ありえない計算式」…など有名どころからオリジナルまで、33の思考実験を掲載しています。
最初に出てくるのは思考実験を一躍有名にしたトロッコ問題です。 暴走したトロッコの先には5人の作業員がおり、線路を切り替えれば1人の作業員がいる。このときあなたは線路を切り替えますか?
という1つの場面からいくつもの設定が加わり、シナリオが多岐にわたって展開していきます。
その他、俊足の男が亀に追いつけないはずだという「アキレスと亀」に代表されるようなパラドックス問題、数字を扱った極めて論理的な問題、過去と未来を想像したり初めて色を見た瞬間を想像したりと脳の中で世界観を作り出す必要のある問題もあります。
物語やトリックのような世界を楽しんでいるうちに自然と論理的思考力が鍛えられ、思考の中の新たな発見や気づきが生まれることに気がつくでしょう。

意思決定の挑戦

人生や事業の中で、時々大切な選択の時が来る。状況がどの選び方にも困難を伴うこともあるし、速やかに判断する必要があることもある。こんな場面で、自分は冷静に正しい判断ができるだろうか?もし自信がなければ、「思考実験」を利用して、思考の「深さ」を育てるのはいかがだろうか。

この本では、「トロッコ問題」を含む33の魅力的な思考実験が取り上げられている。「テセウスの船」や「モンティ・ホール問題」「エレベーター内の対話」「不可能な数式」といったトピックも触れられている。これに加え、イラストや図解を交えた分かりやすい解説と、著者独自の視点が付与されている。これにより、思考実験のアプローチが容易になる。

「物の見方を変えると、全体像が変わる」
この本は、人生の困難やパラドックスを論理的に解決するためのガイドとして理想的である。単に「おもしろい」と感じるだけでなく、真の思考力を育てるためには、考えながらアクションをとることが重要だ。これを繰り返すことで、物事の核心を捉える能力や、不測の事態でも冷静に行動するスキルを身につけることができる。そして、直感と論理のギャップを体感するであろう。もし、柔軟な思考を持ち、判断の質を上げたいのなら、この本は必読だ。

本書のキーポイント

  • 思考実験とは、特定の状況下での深い推理と結論の形成プロセスであり、論理的な思考を磨くのに役立つ。

  • 「トロッコ問題」は、望ましい結果を追求する過程で、自らの主観的な判断の傾向を浮き彫りにする。

  • 「テセウスの船」のようなパラドックスを用いた思考実験は、好奇心を喚起し、思考を深める助けとなる。

倫理的なジレンマを考える思考実験

思考実験って何?

思考実験とは、特定の状況を設定し、それに基づいて理論的に考察を進める手法である。その"実験室"は私たちの心の中に存在し、道具となるのは我々の道徳感、知識や論理的思考、そして想像力だ。思考実験は、ビジネスシーンでの論理的な思考能力を高めるためにも非常に有益である。

「救うのはどちらか一方のみ」。生命の選択を迫られる瞬間、我々は自らの倫理観や価値観に直面する。異なる意見や多数派の考えを知ることで、自らの思考の幅が拡がる。ただし、多数の意見が常に正しいわけではない。以下、具体的なケースを紹介する。

暴走するトロッコのジレンマ

最初に紹介するのは、「暴走するトロッコの問題」として知られるもの。この問題は、1967年にイギリスの哲学者フィリッパ・フットによって提案され、以後多くの議論を巻き起こしてきた。基本の問題の設定は、「1人を犠牲にして5人を救うべきか」というもので、具体的なシチュエーションによって、人々の回答が変わることが知られている。

シチュエーションの1つ目。あなたは暴走するトロッコの前に5人の作業員がいるのを見ている。もし何もしなければ5人は死ぬことになる。しかし、あなたの前には線路の切り替えスイッチがあり、それを操作すれば5人を救うことができる。だがその場合、別の線路にいる1人の作業員が犠牲になる。この場合、多くの人々は「スイッチを操作して、5人を救い1人を犠牲にする」選択を取るとされる。

その一方で、以下のような変更されたシチュエーションを考える。あなたは橋の上から暴走するトロッコを目の当たりにしている。その横には大きな体の男性が立っている。この男性を突き落とすことでトロッコを止めることができるが、その場合、男性は死ぬこととなる。このシチュエーションでは、多くの人々が男性を突き落とすことを選ばないとされる。

公平な臓器提供のくじ引き

「暴走するトロッコの問題」と同じ「1人を犠牲にして5人を救う」というジレンマを持つ問題として、「臓器提供のくじ引き」というものが考えられる。ある医師が5人の患者の命を救うために、1人の健康な人の臓器を使うかどうかの選択を迫られる。もしこの選択がくじ引きによって決定される場合、多くの人々はそれを許容しないだろう。なぜなら、自らや愛する人が犠牲になるリスクを考慮すると、くじ引きによる選択は道徳的に許されないと感じるからである。
このように、思考実験を通じて、私たちの道徳や倫理についての感覚や考えを詳しく探ることができる。

矛盾を伴うパラドックス

パラドックスとジレンマの違い
パラドックスは、一見合理的な推論を繰り返すことで得られるが、信じがたい結果をもたらす命題のこと。
一方、ジレンマは2つの選択肢があり、片方を選ぶことで他方が損失を受けるような状態を指す。例: 家計を助けるために仕事を選ぶか、育児に専念するか。これらの思考の実験は、我々の好奇心や思考能力を高める助けとなる。

テセウスの伝説の船

「テセウスの船」のパラドックスを探る
伝説の「テセウスの船」は、アテネの伝承に登場する船で、劣化した部分を新しい木材で置き換えて保存されていた。結果、オリジナルの部分は完全に置き換えられてしまった。そこで、ある者が「全ての部分が置き換えられた船は、オリジナルの船ではない」と主張。そして、古い材料を使用してオリジナルの船を再現した。問題は、どちらが「真のテセウスの船」なのか?

「同じ」の基準は?

この思考実験は、「同じ」とは何かを探求するものである。「同じ」という考え方は状況によって異なる。例えば、書籍の「同じ」の定義は、目的によって「タイトルが同じ」となるか、一つしかないユニークなものとして定義されるか変わる。船の文脈では、「同じ」は決められた時間と場所での動きを意味するかもしれない。テセウスの船の場合、どちらの船が「本物」とみなされるかは、どういう基準で「同じ」と見なすかによって変わる。

直感と数値のギャップ

エレベーターの中の男と女
あるシチュエーションを想像してみよう。10階のレストランで働いていて、男女が半々の頻度でエレベーターを利用する。女性客に新しいデザートを勧めたいので、女性がエレベーターから出てくるたびに声をかける。しかし、エレベーターは男性しか表示しない特殊なもので、今、2人の乗客が男性であることが示されている。この場合、女性が乗っている可能性があるか?

直感と統計の違い

多くの人は、1人が男性であれば、もう1人も男性の確率は半分であると直感的に考えがちだ。しかし、実際の組み合わせを考慮すると、もう1人が女性である確率は3分の2で、男性である確率は3分の1だ。この事実は、直感的には受け入れがたいかもしれない。

他の興味深い思考実験

この本には、モンティ・ホール問題やタイムトラベルの話、共犯者に関する問題など、多くの刺激的な思考実験が含まれている。これらの問題に取り組むことで、思考力が向上し、日常の問題にも応用できるようになるかもしれない。最も大切なのは、考えることの楽しさを感じることだ。



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