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エッセイ

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「ご自愛」の終焉と「根性」への回帰

「ご自愛」の終焉と「根性」への回帰

2019年に「ご自愛するという戦い方」(https://note.com/getsumen/n/ndae83ec26be4)というnoteを書いて結構バズって、Twitterトレンドに入ったり芸能人にRTされたりして大きく広がった。それ以降いろんなところで「ご自愛」ってワードが言われるようになったと思う。

「ご自愛◯◯」にいろんなビジネスが乗っかり、さまざまなものが売られるようになった。コロナ禍

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「ご自愛する」という戦い方

私はハードワークが好きな若者だった。

大卒で「忙しい」「激務」と言われる業界に入って4年、「生活」らしい生活をないがしろにして最近まで過ごしてきた。

深夜まで働いてタクシーで帰るとき、車窓から見える誰もいない街は嫌いじゃなかったし、仕事仲間と夜更けに飲むビールは美味しかった。

社会に自分のやるべきことがあり、ちゃんと必要とされていて、そこに身を投じる毎日は刺激的だ。文句も愚痴ももちろんあるけ

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「JKブランド」なんてなくなればいい

 3月になり、高校の卒業式の写真をTLで見かけるようになった。卒業証書と笑顔、盛り髪やティアラをする子、しない子、花束、最後の制服。

 そんな中で高校3年の女の子の誰かがSNSで「JKブランド無くなっちゃうのが悲しい」と言っているのを見た。

「JKブランド」という単語に少し立ち止まる。

 高校生の自分たちを尊ぶ風潮は昔からあったと思う。中学の頃は早く高校生になりたかったし、可愛い制服に憧れた

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寝台列車で家出した夜

寝台列車で家出した夜

家出をしたことがある。大人になってからのことだ。

18で実家を出てからもう8年もひとりで暮らしているので厳密には「家出」ではなくただの「旅行」なのだが、あのときの心持ちはたしかに「家出」だった。家出がしたかった。

東京も、毎月安くない家賃を払っている部屋もなんだかもう一旦どうでもよくて、誰も私のことを知らない土地に行きたかった。深夜の3時、私は薄暗い部屋で、Instagramで見かけたとある島

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パターン青、生理です

パターン青、生理です

人類のだいたい半分は「生理が来る側」の人間だ。半分の人間は毎月股から血を流しているか、これから流すフェーズになるキッズか、流すフェーズが終わった先輩に分類される(ざっくり)。

生理が来ている(血が出ている)日数を合計すると、平均で7年間になるらしい。人類の半分は、一生のうちの7年間分の時間、股から血を流しているのがこの世の真実である。

けれど、そんなことなかったかのように、血を流しているなどと

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こんなときあの人ならどうする?

こんなときあの人ならどうする?

宇多田ヒカルの「道」という曲が好きだ。

なかでも好きな一節は

転んでも起き上がる 迷ったら立ち止まる そして問う あなたなら こんな時どうする

という歌詞。

失敗したり恥をかいたり、どうしたらいいものか分からなくてひとりで立ち止まってしまったとき、「あなたならどうする?」と心のなかで問いかけられる相手がいたら、ひとりであることに変わりはないけれどもきっと心強いのだろうと思う。

この曲は宇

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私たちはオンラインで「密」になる。

私たちはオンラインで「密」になる。

毎日、区の防災無線のボヨンとした声の響きを聞いている。

「しんがたころな かんせんぼうしのため きんきゅうじたいそちを じっしちゅうです」

「ふようふきゅうながいしゅつは やめましょう」

「みっぺい みっしゅう みっせつを さけましょう」

いつもと同じ部屋で寝起きして、日差しがあったかくなってきたなあとか、

育てているサボテンが芽を出してきたなあとか、そんなことを考えながら朝、仕事の準備

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私の上京と、そのしばしの終わり

私の上京と、そのしばしの終わり

はじめて自分のお金で借りた東京の部屋を明日引っ越す。

大学4年で東京に就職先が決まり、内定者としてアルバイトをさせてもらえるということで、地方の国立大のそばのアバートを引き払って東京に来た。

アルバイトで稼げるお金にしては少し背伸びした家賃と立地だったけれど、半年後には初任給も入るし、会社のそばに住んでたくさん働くぞという意気込みもあって、渋谷近くの部屋に決めた。

同じマンションの5つ上の階

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走馬灯にむかって歳をとる

走馬灯にむかって歳をとる

ひとつ歳をとった。

そのこと自体にはとくに感慨も焦りもなく、いつもどおりの日常が続くのみである。

けれども今年は家族に好きなご飯を作ってもらい、町の美味しいワイナリーのワインを開けてもらい、私と家族が日本一美味しいと思っているケーキ屋さんのケーキを食べて、東京の大好きな花屋さんからブーケを贈ってもらった。いろんなところで出会った人たちがくれたお祝いのメッセージを読んだ。
少し奮発して、お婆ちゃ

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かえるの恩返し

かえるの恩返し

母がかえるを助けたという。

庭の池で、網に引っかかっていた瀕死のひきがえるを見つけ、網を切って放してやったらしい。
(家の池には金魚がおり、時折やってくるシラサギが金魚を捕食しつくして絶滅に瀕した悲しい過去があることからサギよけの網が被せられるようになったのだ)

救出劇以来、庭の池からは時折ゲコゲコと奴の鳴き声が聞こえる。どうやら息災のようである。

昔から我が家の池には大量のひきがえるが年一

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謎の柑橘『チャッピーポドロ』

謎の柑橘『チャッピーポドロ』

実家に大きな柑橘系のくだものがある。

いただきもののそれはダンボールいっぱいに入っており爽やかな匂いをさせているのだが、なんというくだものなのかわからない。

いただいた母もなんという名前だったかど忘れしたらしく「ラッキーポメロだったかハッピーポメロだったか……なんだったかしら」という始末。

母と妹と私は毎日のように名前のわからない巨大な柑橘類をパクパクたべながら、それのなまえを適当に言い合う

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ピアノの先生との思い出

ピアノの先生との思い出

木曜日が好きになれない。
木曜日は「ピアノ教室にいく日」だったからである。

幼稚園のときに友達が習っていたから真似してやりたいと自分で言い出して習わせてもらっていたくせに、私はちっともピアノに向いていなかった。

コツコツ練習する、とか、譜面通りに弾く、とかが元来苦手な子どもだったのだ。

しかしピアノという楽器は好きだったので、アニメの曲を適当に弾いたり、課題の曲を好きに変えたりして弾いて(そ

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「安全なキャリア」なんて存在しない荒波で

「安全なキャリア」なんて存在しない荒波で

この文章は、panasonicとnoteで開催する「#この仕事を選んだわけ」コンテストの参考作品として主催者の依頼により書いたものです。

「この仕事を選んだわけ」を書いてくれないかと言われて、声をかけてもらえて嬉しい反面申し訳ない気持ちである。

私は何者か?というと「新卒でIT業界に入ってめちゃくちゃに働いた末に体を壊して休職したり転職したりして今は地元に戻ってリモートワークをし、たまにコラム

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冬季うつ迎撃作戦 俺・冬の陣

冬季うつ迎撃作戦 俺・冬の陣

昔から冬が苦手である。
何が嫌ってまず「暗い」のが嫌。

10代の頃は冬の部活(女子バスケ部)が本当に嫌いだった。ただでさえこれから走らされるのが嫌なのに、朝練のために起きた時の空の暗さに絶望したし、放課後練が始まる時間にはすでに日が沈んでいてやはり暗い空にまた絶望したものである。私の場合、日が短いと本当に気分がノってこないため全てが終了してしまうのだ。情緒が野生動物のそれなのである。

さらに言

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