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服選びはPR戦略、味方にすべきはMyジャケット:NY流ビジネスの第一印象を制するイメージマネジメントvol.02:『FUMIKODA JOURNAL』寄稿

※本記事は『FUMIKODA JOURNAL』に掲載された日野江都子コラムからの転載です。

男性のドレスコードにおいてジャケット着用が規律のボーダーラインとなるように、特にビジネスシーンでは女性であってもジャケットが威力を持つことは疑いようもありません。しかし、どれだけの人が「My ジャケット」と言えるだけのものを持っているかと言えば、ほんの一握りでしょう。とりあえず百貨店で「無難」なものを選び、ちゃんとした格好をしたはずなのに、どこかしっくりと来ないおかしな仕上がりになった…。そんな経験をされている方がほとんどなのではないでしょうか?

キャリアを重ねれば重ねるほど、人それぞれの違いや特徴が大きくなります。世の中に既製品の体型がないのと同じで、すべての人にとって最適なジャケットも存在しません。大人としてビジネスプロフェッショナルとして生きる女性であればなおさら、年々その人という存在の輪郭が明確になる訳ですから、十把一絡げに、一般に言われる基準の中に自分を嵌め込むことなどできないのです。

それ以前に、これまで一つの形に押し込められまいと歩み自分を築いてきたはずなのに、今さら「一般的な情報」に頼ろうとすることからして、自信のなさの告白そのものです。そして、そのような判断基準に従って選んだジャケットを着た時点で、言動と行動(選択)の矛盾がその人の見た目に顕著に反映され、プロフェッショナルとしてのプレゼンスのパワーを低下させてしまうのです。

とはいえ、Myジャケット選びはある意味一大プロジェクト。何度も選んで着ることで、自分の体や顔つき、業種や立場に最適なものを見つけることができるようになります。それは、あなたの自己理解と覚悟の表明であり、相手からの期待値をコントロールする戦術です。だからこそ、自分だけの一着「Myジャケット」を見つけ出さなくてはならないのです。

私はニューヨークで自分の会社を立ち上げ、現在14年目です。10年ほどのフリーランス時代を経て、小さいながらも会社のCEOとなったあの時から、他者の私に対する見方や期待の種類が変わったことを肌で感じていました。私自身だけでなく会社として信頼してもらうため、常にスーツもしくはジャケットを着ていたのは、それがどれだけ自分を助けてくれているのかを分かっていたからです。今でこそ、場面とテーマ、対象者によって緩急をつけ、ジャケットなしのワンピースで講演に登壇することもありますが、ビジネス色が強い場面や男性が大勢いる中に入っていく時には、その場での共通非言語であるダークカラーのスーツかジャケットを必ず着用します。そんな私が、会社を設立してから今日までの間に、心からの絶対的信頼を寄せたジャケットは3着でした。

私の服選びは、仕事柄もありますが、かなり厳しく、中でも仕事ジャケット選びは特にうるさいことを自負しています。似合っているではなく「適している」理由をきちんとロジカルに述べてくれたら話は別ですが、店員や友人がどれだけ似合うと褒めてくれても、その言葉に乗って購入することは皆無です。ですから、私の服選びは、決して楽しいショッピングではなく、仕事の戦略に則ったツール選びだと言えるでしょう。とてもクリティカルで真剣になってしまうため、申し訳なくて友人とは一緒に行けないのが実情です(苦笑)

その昔、NYに遊びに来た友人の希望でスーツを買いに百貨店へと案内した時のこと。きっと自分の買い物に付き合わせてしまっていることを気にした彼女が「ニーナも買えば? これとかいいじゃない」と、しきりと勧めてくれたので、その心配は不要であり、私にとってここにあるものを手に取る意味がない理由を、模範解答かのように50文字位で簡潔に述べたところ「それに当てはまるものなんて、ないんじゃない?」と呆れられたことを思い出します。しかし、それでいいのです。「あれば着るかも」と思って買ったものは、結局着ないか着ても納得いかないことを経験上知っていますから。「よし、これで(私)大丈夫」と自信を持って着られるもの以外は、あるだけで場所を取り、視覚的に瞬時の選択を混乱させるため、ストレスの元になります。だったら最初から選ばない。「あったらいいな」は往々にして「無くていい」のです。

そのようなわけで、私の求めるジャケットはそうそう見つかりません。わざわざ探しに行っても見つかるか分からないので、少し時間が空いた時や移動の途中、何となく目の端に引っかかった「!」を逃さず、躊躇せず店に飛び込みさっと試着する。この瞬間的なアンテナ感度も、今までの成功と失敗のデータの蓄積によるものです。

そんな感じで今までに手にしてきたMyジャケットですが、決して高級なものばかりではありません。でも、私の譲らない条件をクリアしたそれらを着ていると、私自身のプレゼンスが向上し、自己評価以上に高くかつ的確な他者評価をもらえると感じます。ジャケットが私の言葉を代弁してくれる、まさにそういう感じです。そんなMyジャケットも、効果を発揮してくれるのは3〜5年(ピークは1〜2年)。やはり人とは毎時進化・成長しており、またその時の社会背景との相性もあるので、「いいものを買っておけば、いつまでも着られる」というセオリーは、ビジネスシーンにおいては通用しません。現役感が何よりも重要な世界では、今を生きている人の持つ艶やかさが他者に認識されない限り、どんな高級な服も無用の長物でしかないのです。

ましてや悲しいかな、大人の女性が着る服を「社会人としてきちんと見せる服(マナー編)」のような情報に則って選ぶと、妙齢の転職活動か、お受験ママ・入学卒業式ママ、「女性何とかの会」の集まりに参加している奥様のようになってしまいます。そこからは、現代社会で生きる女性を知らない人が作り上げた「きちんと」の基準が、いまだに引き継がれているのが見て取れてしまうのです。

だからこそ、スマートな女性は惑わされることなく、今の時代と自分の内面の有り様や自分の外見の状態を客観的に判断し、総合的な自分という人間の仕上がりを冷静に把握した上で、そこから目指す自分と自分のビジネスの姿をターゲット層に伝達するために効果的なものを常に追い求める必要があります。

これも重要な仕事のひとつです。自社戦略PRの素材探しという観点でツールとしてのジャケットを探し選ぶという考え方こそ、女性ビジネスプロフェッショナルが基準として持つべきことです。そこに、「その人」の意思表示の一部としての「好み」がふくまれることも大切ですが、一番優先すべきは、役割と目的を一発で認識させ、相手の期待値をコントロールできるジャケットであることです。それを着ることで、ビジネスパーソンとして、人として、そして女性として、どんなに孤独な時でも、自信を持って凛とたたずむことができる。そのように、気持ちをも強化してくれるのが、あなただけのMyジャケットです。

ここで、大人の女性のビジネスシーンで通用するジャケット選びの際に「テイラード・ジャケット」を選ぶにあたってのスタンダード、Myジャケットの条件、Myジャケットを探す心得を挙げます。

大人のジャケット選びのスタンダード


色:紺・グレー(女性の場合は黒も可)
紺かグレーかで迷ったら、紺。艶やかで、信頼感を感じさせ、現役感がある。自分の肌のトーンに合うネイビー。素材感に夜ニュアンスのあるものも自分に合わせて探す。自由度のある職業の女性の場合や硬い場面でなければ、アイボリー、ベージュ、茶系も可。

丈:大人の女性のジャケット丈は短すぎないこと
短めの丈のジャケットは、余裕のある姿に見えない。しかし時代はカジュアル化しているため、従来のスタンダードな長さは、重すぎる時もある。それを踏まえ、立ち姿がバランスよく見えるものを選ぶ。

素材:あまり分厚すぎず、硬すぎないこと
体のラインがまろやかになってくるため、厚みがあると不要に大きく見え、硬すぎると体のラインとのバランスがとりにくくなる。

Myジャケットの条件


・肩幅がきちっとある(顔が引き締まって見える、信頼感がある)
・肩のラインがすっきりしている
・肩から胸にかけて体に吸い付くような面を描く(浮き上がらない)
・前開きの深さは、みぞおち前後に第一ボタンが来るものでベストなものを
  ※一番上のボタンの位置はバストの大きさや位置ともバランスをとる(1つボタンでVが深すぎると、体が薄く瘦せ型タイプは貧相に見える)
・背中から腰にかけての曲線ラインが綺麗
・顔つきが凛とし、艶やかに見える
・美しい上半身のシルエットを作る
・ジャケットを着ている方が脱いでいる時よりも体型をすっきり見せる
・背が高く見える
・全身バランスの平均点を上昇させるもの
・長時間着ていても疲れない

Myジャケットを探す心得

・その手間と値段は惜しんではならない
・シルエットが合っているものが最優先、そしてサイズ、最低限の直しも完璧にする(袖の長さ等)
・適当に買うと、ビジネスツールとして効果がないだけでなく、“適当なものを選ぶ人”であることを宣言したことになり、自分の価値を落とす結果につながる
・きりりと見えることを怖がってはいけない(色気が見えれば良い)
・丹精さ優美さ、これが大人のジャケット着用した姿に求められることを心せよ
・ジャケットを自分の日常に存在させることこそ、ジャケット選びが身につく一番の近道。習慣に落とし込むことで、適合ポイントと自分の立場を踏まえたTPOが自ずと分かるようになる

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男性のように、最低限スーツを清潔に着ておけば良い(本当は違いますが)では済まないのが女性。でも、その選択肢の多さというのは、女性の仕事の仕方や生き方が多種多様であり、選ぶ権利と責任が同時に与えられていると思えば気合が入るというもの。ただ「好きだから」「なんとなく」ではなく、自分の言動・行動とそのジャケットのメッセージが一致しているか? まずはそれをチェック。そして、自分だけの一着を見つけ出したら、その次は自分なりの着こなし方などなどと、道は果てしなく続きます。だけど、千里の道も一歩から。一歩前に進めば、必ずや小さいけれど確実な良い評価が得られるはず。

そんな皆様に、かのトム・フォードの言葉を。

“Dressing well is a form of good manner”

きちんと装うことは、礼儀正しきことである。

あなたにとってのMyジャケット、クローゼットに何着ありますか?

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