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【自工程完結編5:自工程完結をスタッフ部門に浸透させる】

本マガジンの過去の投稿は上記に入れています。

ご存じのようにこれまでトヨタは、トヨタ生産方式を展開し、世界で確固たる地位を築き、その生産方式自体米国でも研究され体系化されリーン生産方式としても名をはせています。そんなトヨタがさらに仕事の質を改善するため、10年以上にわたって取り組んでいる「自工程完結」について対話形式で解説していきます。自工程完結とは、「良い仕事しかできない(やり直しがない)、良いものしか作れない(作り直しがない)という条件は何かということを徹底的に科学的に実現しようとする」考え方です。

さて、今回は過去のマガジンで心理的安全性を学んだ、製造課長の正輝‍が再登場します。

ある時、課内の工程主任であるの流星(若手)が現場への仕事指示の仕方、仕事の進め方で苦労しているところを目にします。そこから下記の本をベースに自工程完結の指導を実施し、実際の導入に取り組んでいきます。


・・・・・・・・・・・

👨‍;おはよう。

👱;おはようございます。前回、事務スタッフにおける自工程完結のポイントについて教えていただきました。今回は、具体的にどう落とし込んでいったかというところですね。

◆まずは6人のプロジェクトチームから

👨‍;ああ、そうだ。本に記載されているトヨタの実際の例を解説しよう。一つの工場から始まった自工程完結という取り組みは、成果を生み出しスタッフ部門まで広げようと経営会議で決まったのは話をしたな。

👱;はい。それが2007年だったのですよね。

👨‍;ああ、その時佐々木さんは、スタッフ部門に自工程完結を広めるに当たってプロジェクトチームを発足した。事務を担ってくれる女性を含めて6名。メンバーは佐々木さんが選んだ。そのメンバーのバックグラウンドは、製造、品質管理、設計など様々だったという。

👱;6名。最初だからとは思いますが、全社に広げようって取り組みが6名とはなかなか心細いですね。

👨‍;まあな。でも、社外の知恵も入れるということで、トヨタ車体と豊田自動織機の人もアドバイザーとして来てもらったそうだ。

👱;なるほど。でも、何から手を付けていけばいいのですかね。ちょっと見当がつかないです。

👨‍;まずは、スタッフ部門における「自工程完結」とは何なのかを明確に定義しなければならない。「品質は工程で作りこむ」と工場でやるのはイメージができるけど、スタッフ部門の「品質は工程で作りこむ」とはなにかを決めたんだ。前回も話をしたが、その定義が「意思決定」だ。意思決定の精度を高めることが「品質を工程で作りこむ」ことなんだと明確に決め指導を進めていったそうだ。

👱;なるほどです。そして、その定義をどのように浸透させていったのでしょうか?

👨‍;当然、スタッフ部門に自工程完結なんて言っても知名度は低いから、ただ、教育するといっても、暖簾に腕押しになる可能性が高い。そこで、各組織で推進者を任命してもらうことにしたという。トヨタのスタッフ部門の従業員は約3万人だそうで、部にわけると250にほどになる。その250の組織から中堅の役職者を一人「自工程完結」の推進者として出してもらうことにしたそうだ。その推進者に理解してもらってそこからまた広めるという作戦だ。

👱;おお、すごい。会社方針だから、250の部長は推進をしなければならない。そこで適任と思われる推進者を部長に指名してもらったと。それも中堅ということはまさにバリバリの中心人物というわけですね。この辺の仕掛けは浸透させるには最も重要になってきますね。

👨‍;その通り。まずその中心人物たちを仲間につけて、宣教師のような役割を担ってもらうということだ。その上で、集合教育を行った。教材を作り、メリットをしってもらう。そして各組織で新しい取り組みで何ができるかも考えてもらったんだ。

👱;なるほどです。新しいことを始めるには非常に有用な情報ですね。順風満帆ですね。

◆仕事のプロセスを深く認識しないまま、働いている

👨‍;いやいや、実際にはそんな簡単に浸透はしなかったそうだぞ。スタッフ部門の自工程完結を実現するには何より、それぞれの仕事のプロセスを明らかにしなければならない。端的に言えば、お客様のためにゴールを決め、必要であれば自分の仕事のやり方をゼロベースで見直し、プロセスを洗い出し、正しい仕事が継続できようにその知見を積み重ねることだ。

👱;確かに聞いただけで大変です。ただでさえみんな忙しいはず・・。

👨‍;そう。忙しいのもあるのだろうけど、最初にスタッフ部門に製造でプロセスを洗い出したように「その時々の意思決定とは何か」を書き出してもらおうとしたが、すぐに書ける人はほとんどいなかったというんだ。もちろん日々仕事はしていて結論も出しているのだけど、それがなぜ結論が出たのか、どんな順番をたどってこの結論が出たのか実は簡単に書くことができないんだ。

👱;実は、私も今自分の事務業務のプロセスすべて書けと言われても、、書けないです。だから効率がよくないのか・・。

👨‍;だから、反発も起こったそうだ。プロセスを書き出すのに時間がかかるし、そもそもこんなことやって意味があるのか。やらなくてもいいのではないかってね。だけども佐々木さんチーム、「これをやれば生産性も上がるし、モチベーションも上がる。だから信じてやってほしい」と言い続けていったそうだ。

👱:そこをやり切れるかもポイントだったのでしょうね。

👨‍;ただ、そうした活動を進める中で、改めてわかったことがあったという。それは、多くのスタッフ部門の社員がプロセスというものを誤解していたそうだ。プロセスというと、すべてアウトプット単位で出てきたのだという。図面を描く、部品を作る、テストをするなどのイメージだ。

👱:え、プロセスというとそういうようにイメージしますね。

👨‍:でも、ちがうんだ。そうではなくて、図面を描く中にも意思決定が複数含まれているだろう。何をどういう順番でどういう項目を一つずつ意思決定しなければならないのか、どういう順番で意思決定しなければならないか、それがプロセスなんだ。

👱:なるほど、思考の順序も見える化していくわけですね。

👨‍;その通りだ。例えば材料の選定の時に、なぜその材料にしようと思ったのかという部分に踏み込んでみると、「前任者が使っていたから。理由は特にない」ということがよくある。ここを分解していかないと、もしかしたが今回は全く違う使われ方をして問題になってしまうかもしれない。

◆正しいマニュアルならマニュアル人間で通用する

👱:なるほど。なぜの部分も含まれてくるのですね。でもそこまで分解して、思考を決めてしまったら、創造性の幅が狭まるというかマニュアル人間になってしまうのではないでしょうか?

👨‍:そんなことはないさ、確かに自工程完結はすべてのプロセスを洗い出して、誰もがその仕事をわかるようにする。移動してきた人が見てその仕事を理解しすぐ業務に活かせるようになる。そういう意味ではマニュアルだ。だが、日本人はマニュアルという言葉にネガティブな言葉を持ちすぎだ。マニュアル人間というと、言われたことしかやらないというイメージもある。しかし、それは裏を返せば、マニュアルが不整備だったというわけで、しっかりしたマニュアルができていればマニュアル人間でも十分に通用するんだ。

👱:確かに、新しい取り組みで業務手順書を作ったら、どんどんアップデートしていって、優れた業務手順書にしていけばいいですよね。マニュアルというか形式知化しているといったほうが伝わりやすいかもしれませんね。

👨‍:ただ、実際にスタッフの仕事を洗い出していると、おおよそ8割は共通のプロセスを繰り返していることが分かったそうだ。新しいミッションでレベルの高い仕事をしたりチャレンジングな仕事をする中にも、本当に新しいプロセスや新規に必要なものというのはごく限られていたんだ。落ち着いて情報の整理・整頓ををしていけばスタッフ作業のポイントも自工程完結ができるということがわかってきたんだ。

👱;なるほど、「確かに毎日ちがうことやっているだよ!」と息巻いていても、分解して本質を探っていくとほぼ同じことの繰り返しであるのですね。確かに、わかる気がします。そういうのを見せつけられると、やっぱり導入していこうってなりますよね。

◆「自工程完結」推進を評価に組み込む

👨‍;そして、落とし込みのところで重要な部分が残っている。この活動の推進を評価に組み込むということだ。いった通り、最初はスタッフ部門からは反発があった。会社方針にもかかわらずね。

👱;勉強してくれば自工程完結は、正しい仕事のやり方を見つけるものと理解はできますがいきなりは難しいですよね。最初のエネルギーは必ずいるし。

👨‍;自工程完結は上司にとっても生産性を上げるものだから、その部分も理解してもらう必要があった。そして、2007年の全社取り組みを開始した年から、モデルケースとなる組織を作り進めたり、進まない組織(自工程完結を信じていない組織)には、深くコンサルに入ったりしたそうだ。そして、自工程完結の活動で優れた成果を出した職場を表彰する発表会も全社で開いたそうだ。これは、自工程完結の推進が組織や個人の評価につながっていくということを意味するんだ。

👱;なるほど。個人の評価にも繋がるとなると必死でやり始める。裾野広く浸透していきますよね。

👨‍;そうだ。そうして徐々に浸透させていったそうだ。よし。今日はここで終わりにしよう。今日で浸透をさせていった過程はざっくり理解できただろうから、次回はスタッフ部門での具体的な事例を成果含めて紹介したいと思う。

👱;お願いします。

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今回は、どう浸透させていったかという部分に注目して解説しました。これは自工程完結というのものだけでなく、新たな活動を始める際のポイントになりますね。トップ方針を明確にする、推進者(仲間)作る、成功事例を作る、評価に入れ込む。このあたりは重要ですよね。さて、次回は、スタッフ部門での事例について複数紹介したいと思います。(なお、このそこまで長くならず残り3回で終了予定になります。)

下記の固定記事に、このnoteのコンセプト、これまでのマガジンについて説明しています。ご興味あればスキ・フォローいただければ嬉しいです。


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