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くすんだ煙 【短編】#8

くすんだ煙 【短編】#8

蓋を開け一本取りだそうとしてここが禁煙だったことを思い出し箱に戻した
ここだけじゃなく日本全国路上では喫煙はダメになった気もする
煙草が吸えない場所が増えた今吸える所を探すのにも腹が立つ

いつからこんな小さく狭くなったしまったのだろう?
除夜の鐘を鳴らさなかったり、ノートの表紙を変えたりと
矛盾が平気でまかり通るこの時代、大切なものが失われていく

煙草をポケットにしまおうとした時
若い男が近寄

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タマムシ   【短編】#7

タマムシ 【短編】#7

大きいと次の日学校に持っていき自慢するのが恒例行事見たいになっていた

夏休み直前にそこそこ大きいのが取れたので持って行くといつものように男子が集まってきて品評会が始まる

この中に珍しく遠藤がいた
いつもは休憩時間でも勉強してるのに
「どうだ けっこうデカイだろ」
「カズくん…」
「なに?」
「触ってもイイ?」
「いいよ」
「ありがとう」と言って持ち上げて
「思ったより硬いんだね」と
「えぇ~

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おばあちゃんとの約束【短編】  #6

おばあちゃんとの約束【短編】 #6

ここの施設で働いてもう16年目の秋を迎えようとしている時あの女の子が入所してきた
名前は美麗 4歳
暗い表情で上目遣いで一瞬だけ人を見るがあとは一切眼を合わさない
ただの人見知りとは違い
全く人を信用できない目付きには悲しみの感情は無さそうだ
でもここに入所してきた理由を聞けば納得してしまう
小さな村で両親と暮らす美麗
愛情たっぷり注がれ 近所の人達からも
その可愛さと人なつっ子さから誰からも愛

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貴方のなら 【短編】#5

貴方のなら 【短編】#5

私は黒島怜菜 企業の研究室が職場で入社4年目の25歳
ここの研究室には私を含め5人でチームを組んでいる
主任研究員の音尾さんは研究以外興味がなく服装などもほぼ毎日同じ物だし髪型は短くさっぱりしてるけどお洒落などとはほど遠い
お昼休みも食事も取らず研究に没頭してる
質問などの問いかけにも「それは…」といったまま返事が返ってこないなんて当たり前
そんな時 横から「黒島さんどうした?」とカバーしてくれ

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笑みがこぼれる  【短編】#4

笑みがこぼれる 【短編】#4

6回表ノーアウト満塁 スコアー1対4
不動の中継ぎと抑えがいるので7回から点を取るのは難しいので今日の試合最後のチャンス

第3打席 前の2打席は三振だが
今回は打つ自信がある
しかもホームランを

相手ピッチャーはメジャーリーグを代表する大エース
それに加え今日の球は切れもよく伸びもある
初回先頭バッターのホームランで目を冷ましたのかその後塁に出た者はいない

この6回表の攻撃も何でもない内野

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見習い死神くん 【短編】#3

見習い死神くん 【短編】#3

2025年12月2日(火)  田中 数江 88歳 
担当者 オルクス(ローマ系) 過去0回 今回初担当

ちょっと緊張気味で4日後に故人となる数江さんの前に姿を現すと
以外に元気だったのに驚いた
てっきり病院のベッドで横たわっているもんだと思っていた

「はじめまして 死神のオルクスです。」
「・・・死神って事はもうすぐ天国に行くのかい?」
「4日後の 12月5日の午後11時8分に老衰でお亡くなり

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兄貴  お帰り【短編】#2

兄貴 お帰り【短編】#2

久しぶりの実家
三年前に帰って来て以来

今回も三年前も帰って来たくてではなく
仕方がないと言うかしょうがないと言うか
どうしても帰らざる理由で来ただけだ

前回は父、今回は母の葬式
さすがに長男の俺がいない訳にはいかない

俺は弟と二人兄弟
俺は東京で妻と娘、息子の
四人で暮らしてるサラリーマン
弟は奥さんと息子二人と娘の五人暮らしで
福井県の実家で父の跡を継ぎ里芋農家

子供のころから農家にな

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Jaula(ハウラ)【短編】#1

Jaula(ハウラ)【短編】#1

コースターを見てこの店の名前が「Jaula」と知った
意味はもちろん何語さえも分からない
だいたいこの店の場所さえも分からない

グラスをバーテンダーの方に傾けると黙って
ワイルドターキーを注ぐ
むやみに話かけずに相手のタイミングで仕事をする
そうゆう感じが好きだがこの店には二度と来ないだろう

少し前 一人の男の最期を見届けた
男の苦しそうな表情にはまだ未練がありそうだった

まだグラスを傾けて

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