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食べ物がでてくる話

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お腹が空いている人も空いていない人も読んでください。
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健康なお肉

健康なお肉

わたしの父は獣医さんである。
と言っても、今では実家で腰をさすっているただの爺だ。もうしばらく会っていない。

父はよく、食卓で本日の食材紹介をしてくれた。

「このお肉は佐藤さんとこのやから美味しいぞ〜」

「この卵は嶋さんとこのやから新鮮や、ほら黄身の色がちゃうやろ」

わたしは何でも食べる子どもだったので、とりあえずふぉんふぉんと相槌を打って、目線はご飯から外さなかった。

「お前は俺のお陰

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第一次豚汁論争

第一次豚汁論争

皆さんは「豚汁」という存在について、いかがお考えだろうか。

先日親友と呑みに行った際、私は長年の悩みであった「豚汁の付け合わせに何を据えるか」について、ついに打ち明けた。

「晩ごはんに豚汁を作ったとして、お米とそれを並べるとあまりに見た目が簡素やんか?やからそれにお浸しとかお漬物を添えるんやけど、それでも何かが足りひん。やからいつも焼いた厚揚げを並べてそれとなくスペースを稼ぐねんけど、あまりに

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いらんエンターテインメント

いらんエンターテインメント

先週だけで結婚指輪を失くし、前歯が折れた。

その日はひどく指が浮腫んでおり、これはしんどいと思い、ベッドサイドに指輪を置いて寝た。

起きると指輪は跡形もなくなっていて、マットレスを剥いで、ベッドを逃し、ありとあらゆる手段で血眼になって探したが、結局姿を現すことはなかった。

神隠しにあったとしか思えない。

こんなに探してないのなら、あとはもう探偵ナイトスクープに頼む外、方法が見当たらない。

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ドーナツ(短編小説)

ドーナツ(短編小説)

 赤子に乳を吸わせる仕草が母なれば、この仕草はなんぞやと思いながらも、懇切丁寧にうちは股を拭いている。トイレットペーパーに赤いもんが付かんくなったのを確認して、小さいパンツにこれまた小さいおむつみたいなんを貼っ付けて履く。しょうもない。
この一連の所作が女たらしめるもんかと言われると、どうもピンと来んけれども、これがメスの所作かと言われてもよく分からん。こんな情けなく股を拭いて始末している他の動物

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サムシング 2022

サムシング 2022

改めて今年一年を振り返ってみると、なんにも覚えていないことに気が付いた。

先日友人と散策中、茶色い猫の写真をふたりして鯛焼きに見間違え、そのあと近くにあった鯛焼き屋さんでとっても素敵な鯛焼きを食べた。
これが私の最後の記憶となる。

年の瀬になると、みんな今年一年を振り返ろうとするものだから、私もノリノリで首をぐいんと捻ってみたら、後ろには鯛焼きしかなかった。

きっといろいろ沢山あったはずなの

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LOVE 小松菜 #呑みながら書きました

LOVE 小松菜 #呑みながら書きました

やっぱり今年一年を振り返った時、一番に思い返されるのは4月の結婚よりも11月の退職(現在有給消化中)よりも、12月の小松菜が美味しいことに気が付いた、これですわな、ですわなヤバい。

いやー、小松菜おいしいや。
ここんとこ毎日、小松菜食べては寝て、小松菜食べては寝てですわ、小松菜もたぶん私に付いてくるのに必死やわなー。
今までなんとも思ってなかったクラスの男子に突然ときめいて、ひとりで勝手に大恋愛

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「ろうそく本当に宜しいんですか?」

「ろうそく本当に宜しいんですか?」

仕事終わりに慌てて旦那さんの誕生日ケーキを予約しに行った。

時計はすでに20時を回っており、この時間に開いているケーキ屋さんと言えば、ショッピングモール内に常駐しているチェーンのあそこしかない。

チェーンの物でも無いよりは良いか。

「僕ホールケーキをひとりで食べるのが夢なんよ〜」
と話していた彼のニコニコを思い浮かべながら、私はケーキ屋さんへと向かう足を速めた。

ケーキ屋さんに着くと、ショ

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ペラペラな人生 肉厚な牛タン

ペラペラな人生 肉厚な牛タン

牛タンが食いてえ。

思えば去年の春から、ずっと同じことを言っている気がする。
不思議なもので「牛タンが食いてえ」という想いは、決して他の何かで埋まることはなく、ずっと欲しかったバッグを手に入れても、どれだけ好きな人にハグをしてもらっても、牛タンは食いてえ。

退勤時の電車の中、朝目覚めの瞬間、上司に注意されている最中など、生活の中で牛タンが食いたい瞬間というのはいくらでも訪れる。
私はその都度、

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「バフンウニ!」

「バフンウニ!」

前を行く人が、何の脈絡もなく放屁した。

後ろを歩いていた私は咄嗟に息を止め、
なんとなく悪い気がして極力気配を消すことに順じた。
もしも誰もいないと見込んだ上での放屁なら、こんな所に出会してしまった私の方に非が有る。

しかし、本題はその音がどう考えても、
「バフンウニ!」
であった点にある。

私はこれまでこれほどまでに華麗な「バフンウニ」という音を耳にしたことがない。
(過去に自分の腹の音が

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「フグ刺しの次に好き」「は?」

「フグ刺しの次に好き」「は?」

「私のことどれぐらい好き?」

長い人類の歴史で、面倒な女たちが幾度となく恋人に投げかけ、困らせてきた質問の代表格である。

私もその面倒な女の端くれにある。

自分に自信がない私は、若い頃よくこの質問を恋人に投げかけていた。

「これぐらい」

両手で大きさを表すタイプ。

「これまで出逢った人の中で一番」

経験から語るタイプ。

「好きって言ってるねんからそれで良いやん」

聞かれるだけで半

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「あれが地下で寿司を売る女ね」

「あれが地下で寿司を売る女ね」

大学時代、デパ地下の寿司屋で一年半ほどアルバイトをしていた。

デパートのアルバイトというのは、働き始めるまでに様々な試験がある。使える商品券と使えない商品券、株主優待にポイントカードの併用、クレジットカード決済に一部ポイントでの支払い、それら幾通りものパターンを覚える必要があり、三度ほど試験もあった。あとは申し訳程度に言葉遣いやお辞儀の訓練もあった。
そして何より、デパートは女の園でもあった。従

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ジャガイモの芽が凄まじかった

ジャガイモの芽が凄まじかった

ジャガイモの芽が親の仇の様に凄まじかった。

その日は一週間前から予定を立てていた。
急に堪らなくサボテンが欲しくなった私は、仕事でお世話になっている造園さんに、「サボテンが手に入る良い店を知らないか」と脅迫気味に聞いた。
優しき造園さんは戸惑いながらも直ぐにGoogleマップを開き、お洒落なサボテン屋さん(サボテンだけではないだろうが)を、行き方から何から丁寧に教えてくれた。
そのサボテン屋さん

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サーモンと私の進化論

サーモンと私の進化論

一時期私は狂った様にサーモンばかり食べていた。

サーモンはどうしてこんなに美味しいのだろう。
特にお寿司におけるサーモンは最高だ。
黄味がかったオレンジ色に光刺すあの艶。
柔らか過ぎず、それでいて頼りない訳ではない、あの独特の歯通り。分厚いと尚良い。
声高らかにサーモンを注文し、濃いオレンジ色のカサついた鮭を出された日には、この世の終わりといった気分になる。
鮭じゃねえ!!!サーモンを食わせろ!

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