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【詩】ほろ酔いの唄

ほろ酔いの唄

 ほろ酔いの唄

高校の時だった
誰とも口をききたくなくて
図書室に入り浸りだった
分からないことがやたらとできて
グーグルもヤフコメもなかったからね
おれの心の中はわだかまりばっかりだった
父親も母親も友だちも学校も教員も社会とか国家とかいうものも
ややこしい幾何学不規則多面体みたいに 分からないまま
ザラザラゴツゴツして突っ立ているんだよね おれの至近距離にさ
まあ それが「実在」が実在するってことなんだって思ってもみたけどね
だからかな それから、本中毒になってしまった
すると しばらくしてさ 世の中が本に思えてくるんだ 
だから丹念に一枚一枚読み始めたさ
辞書なんてないから 
読めば読むほど分からないことが増えてくるんだ
笑っちゃうよね そんな時だった
三島由紀夫が市ヶ谷で割腹自殺ときたもんだ
みんないろいろこねくり回して騒いでいたけど
笑っちゃったよ
だって あまりに分かりやすいだろ
世の中が思い通りじゃないから派手に死んで見せますなんてね
チープにして 陳腐 三文芝居以下
不道徳教育講座を書いてたのに
 
すまないね ウヰスキーを飲んでるんだ
娘の北海道土産のチーズをおともに ニッカをね
 
それから おれは苦海浄土をもう一度読んだのさ
石牟礼道子と中村哲さんが受賞しない
ノーベル賞なんて クソ喰らえさ
 
いけないなあ 三杯めとなると汚い言い方になっちまう
奥さんはもう付き合いきれないってさっき寝ちまった
 
さみしいなあ あとチーズ半切れ
 
そうさ こんなふうだから おれの頭はいつも曇っている
これがまともな証拠さ 晴れてたまるか
痩せガエル一茶ここにありだ
ミラボー橋に隅田川は流れ
汚れちまった悲しみはほろ酔い三拍子
ああ 夢で
中也とでも踊ろうか
 
 #詩 #現代詩 #自由詩 #ウイスキー #中原中也 #汚れちまった悲しみに #一茶 #石牟礼道子 #中村哲 #三島由紀夫

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