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【誕生ヒストリー】東大教授への道が拓けた研究史『協同組合と農業経済』を紐解く

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(今回は、最後に鈴木教授のサイン本の案内もございます📕)


優秀な方は、優秀な道を歩まれ、優秀な道を行くもの、自分とは“絶対的に別世界の人”。権威や肩書き、政治についてなど、“自分と相手の世界”を切り分けて考えてしまう人も多いと思います。

一方で、努力を惜しまず、気持ちを切らさずに“新しい道を拓く”人達もいます。

過去のインタビューで、東大・鈴木宣弘教授が農水省官僚から九州大の教授に転身した当時について「自分は、九州に骨を埋めるつもりでいた」と語って下さったことがありました。

その言葉に、とても驚きました。

私のイメージは、東京大学の教授になるような方は、東大教授を目指して突き進んできた方々だとばかり思っていました。鈴木教授自身もそのような道を辿り、現在の東京大学大学院の教授職に就かれたと思っていました。

でも、そうではなく自身の研究を磨き上げることに邁進してきた人が、結果として“想像以上の道が拓けた”というのは、なんて希望のあるエピソードだろうと思いました。しかも、鈴木教授の研究は「買い叩き」「農家の所得向上(発展途上国の貧困問題含む)」など、弱者に寄り添ったテーマを扱っています。研究熱心で良心のある学者の方が評価をされ、日本最高峰の研究機関(大学)の教授職に就くことができるなんて、日本の教育界においても明るい兆しの一つだと思います。

そんな研究の集大成について綴られた『協同組合と農業経済』について、出版の背景等についてお訊きしたいと思います。

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■ 『協同組合と農業経済』の出版経緯を教えて下さい。

2011年10月29日に、日本経済学会で行われたパネル討論「日本の農業をどうするか」(伊藤元重・甲斐野新一郎・木村福成・神門善久の各氏と筆者が登壇、大垣昌夫ほか編集『現代経済学の潮流2012』東洋経済新報社、に所収)の内容が興味深かったこと、それと『食を読む』(日経文庫)をベースに、より専門的に内容を膨らませるイメージで東大出版会から出したい、との打診がありました。


◼「東大出版会から出したい」理由は、本書が鈴木先生の研究内容に重点を置いているからでしょうか

東大出版会としては、通説を覆すような視点・論理に基づいた展開で、かつ、一般の人々にも関心が高いトピックを探しています。パネル討論「日本の農業をどうするか」の発表は、食料危機のメカニズムの冷静な捉え方日本農業過保護論の間違いが主題で、それに合致した内容が報告されていたので「それをふくらましてみてほしい」ということでした。

私は、じっくり時間をかけて、自身のこれまでの研究を“1つの大きな物語”に構成して、常識に挑戦するような内容にできないかと考えました。

◼️本書で、鈴木先生が絶対にお伝えしたいことは何でしょうか?

市場原理主義経済学による規制緩和の主張は、理論的に間違い。規制緩和は社会の利益を増やすのでなく、農家や消費者から、一部企業が利益をもっと多く吸い上げて格差を広げていく。それを是正するには、協同組合に代表される“共生システムが有効に機能する必要があることを、可視化する”」ということです。

『農業消滅』 『食の戦争』と比較して、本書が明確に異なる点は何でしょうか?

①一般書において主張していることの、理論的バックボーンを説明すること
②研究史の“集大成となる研究書”として位置付けること

◼️出版の打診は2011年、10年以上前なんですね。最近になり、研究史のストーリーを整理できたきっかけは、何かあったのでしょうか?

若いときの理論的・実証的な研究は、学会誌に論文を掲載して実績をつくることが主眼ですが、後半は現実の現場の“農業・農村の問題をどう解決するか”という現実問題に足を突っ込み、あまり研究的なことができなくなったかに見えて嘆いていました。

しかし、実はそれが、これまでの研究の意義を「そうだったのか、こう考えれば、あの研究は、こういう現場の問題とつながっいてたのか」と、研究意義を再発見・再整理できるようになりました。

“最近の現場とのつながり”は、
研究の意義を明確にする意味でも無駄ではありませんでした。


◼研究時間が減った背景は、TPP以降、参考人等で公的な場に招致される機会が増えたからでしょうか?

九大から東大に移ったときには、農水省の一番大事な食料・農業・農村審議会の実質的なトップの企画部会長に任命され、基本計画を策定する座長などになり、財務省、経産省を含め、公的なポストが急増しました。その後、政権交代で、10年間やるはずのポストが3年弱で終わってしまったのですが、その直後、TPP問題が起こり、引退運動に尽力することになりました。

国会もそうですが、全国の農家・市民運動のため、全国を駆け回る日々となりました。


◼️鈴木教授は研究者なので、そんな日々の中で勿論“葛藤”もあったのですよね?

あの時は「誰かがやらねばならない」という気持ちでした。自分自身は喋るのも嫌いだし、反対意見の立場の方々から発言を受ける矢面にも立つし、大変でした。

それでも「誰かがやらねばならない“国難”」と思いました。確かに、学者として"小難しい"研究はできませんでしたが、現場の実態や大枠の流れを掴むことは研究の原点であり、何よりも“「心」こそが研究の源泉”ですから、心に基づいた行動で、現場や大枠が見えてきて、従来からの"小難しい"研究の意味が体系的につなげられた気がします。


◼“「現場の問題」と「研究」”の繋がりを再発見した事柄はなんでしょうか?

TPPで貿易自由化、規制緩和を主張している政治家のバックにいる人達(巨大企業)は、政府を動かして、実は、自分たちがもっと周りから収奪して、儲けられるようにするルール変更を画策していることがよくわかりました。それは、市場支配力をもつ企業は、弱い人々を守るルールを撤廃してもらえば、もっと買い叩いたり、生産資材を高く売りつけることができるからです。

つまり、「一般に言われている、規制緩和はみんなを幸せにするという理論は間違っているということ」、それは、その理論が前提とする「誰も市場支配力をもっていない=完全競争」という前提が間違っているからです。これは、私の研究テーマの「不完全競争モデル」を用いて説明できる、ということで、繋がりました。


■鈴木教授の研究は、東大教授に抜擢される実績になっていますよね?学会誌への掲載にあたり、具体的にどのような点が評価されたのでしょうか?

特にレベルの高い学会誌は新規性を重視します。二番煎じでなく、単に別分野にモデルを適用したとかでなく、モデルそのものが理論的に新しいことが重要で、そのことが認められたということかと思います。


◼️新規性の高い論文を発表する中で、当時は九州大学に在職中の鈴木教授に、東大側から教授職のポストについてどのように声がかかったのでしょうか?

東大からは「業績が群を抜いているので応募してはどうか」、との示唆はありました。


■どのように群を抜いていたのですか?

AJAE(The American Journal of Agricultural Economics)という農業経済学分野で最も権威があり、掲載されることが非常に難しい学会誌に3本の論文を掲載できた日本での現役唯一の学者であること、査読付き学会誌への掲載論文変数が平均レベルの10倍くらいもあることなどでしょうか。

▶︎The American Journal of Agricultural Economicsに掲載された論文

ただし、私が東大に移った2006年時点では、ということです。その後、若手で一人同じ3本、掲載された人が出て、その人が私の研究室の准教授になりました。


■鈴木教授の研究史の全体像を教えて下さい。

生乳市場の需給モデルを「完全競争モデル」で構築した論文を学会発表で叩かれてから、「不完全競争モデル」がテーマになりました。それは、農家側が農協を結成することで、自分たちも一定の価格形成力を持つことによって、買手側の買い叩きに対抗できることを示す、最初の一歩でした。

その後、農家側ではなく、買手による買い叩きの程度も測れるモデル分析も、途上国の貧困緩和を名目にして規制緩和を強要して買い叩きを強めている構造の把握などのために進めました。

次に、農家と買手との双方がある程度の市場支配力を持ってせめぎ合っている「双方寡占モデル」に発展させ、農家側が押し負けている実態、もっと協同組合が頑張ると、さらに農家も消費者も利益が増えることを実証しました。


◼️今後も研究を続けていきたい研究内容について教えて下さい。

協同組合に代表される共生システム、コモンズが、利益の偏りの是正に加え、命、資源、環境、安全性、コミュニティなどを、共同体的な自主的ルールによって低コストで守り、持続させることができること、を実証したいと考えています。

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もしも、自分の研究が世界的に評価され、日本の最高峰の研究機関のポストに就くことができた時、「さらなる飛躍的な研究を」と使命感や高ぶる気持ちから、人は自分の時間の多くを研究に費やすでしょう。それが研究者としての、とても自然な姿(欲求)だと思います。

でも鈴木教授は、自分の時間を“日本の食料の安全保障を守るため”に費やすことに決めてくださいました。今も全国各地を、講演のために飛び回って下さっています。

このような良心のある学者の方が、東京大学の教授としての道を切り拓いたことは、とても大きな希望だと思います。

そして本書を拝読して、私はあることを感じました。私はずっと、経済学は、自分とは少し遠く離れた場所にいる存在だと思っていました。でも、鈴木教授の文章を読みながら「経済学って、本来は、私達の生活に“もっと根差しているもの”なのかもしれない…」と考えが変化していました。

そのことを私が鈴木教授にお伝えした時に、
鈴木教授は下記の言葉を教えて下さいました

【経世済民(ケイセイサイミン)】…世の中をよく治めて人々を苦しみから救うこと。「経世済民」を略して「経済」という語となった。(「経」は治める、統治する。「済民」は人民の難儀を救済すること。「済」は救う、援助する意)

そうか…。ずっと遠い存在だと思っていた経済学は、本来は私達を救うための学問だったのか…。同じように、近年の食の問題、政治、戦争、権威ある存在等々、一見離れた世界で起こっていそうに見える事柄も、想像以上に私達の生活と結びついているのでしょう。

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そして最後に、
鈴木教授のサイン本のご案内です♬

鈴木教授の研究の集大成である『協同組合と農業経済』を、下記メールアドレスにご依頼頂くと鈴木教授のサイン付で特価3,000円(送料無料)でご購入頂けます🍀

購入希望メールアドレス宛先:suzukinobuh2@gmail.com
件名:購入希望『協同組合と農業経済』
本文:名前、住所

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『協同組合と農業経済:共生システムの経済理論』
(4,400円)

余談ですが、昨年、鈴木教授が取材中に「九州に骨を埋めるつもりでいた」とこぼれ話をお話しして下さったことが、私には衝撃的過ぎて、ずっと胸の中にこの言葉が残っていました。諦めることに慣れすぎてしまった自分にとって“現実と向き合い、新しい道を拓いていく”、そんな鈴木教授の姿はやはり眩しいです。

大変光栄なことに、昨年から私がアドバイザーとして鈴木教授のご活動に一部携わらせて頂ける様になってからも、鈴木教授は歩みを止めず、むしろ加速させて、食の安全の発信を続けています。(本当に凄いです…)

「その場所、その時間に、最善を尽くす」
そんな日々を繰り返していけば、誰にでも、光が差し込む瞬間が訪れるかもしれません。そんな風に思わせて下さった鈴木教授の研究史に、感謝を致します。

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