海へ向かう
真冬の夜の闇の中、車は街を滑る。
頭上には、いつになく見事な満点の星空。
「代わりに見といて」
ハンドルを握る彼は前方に視線を戻し、ふわりと言う。
彼の隣で、彼の分まで星に見とれる。
地図は出さずに、目指すは海の方。
間違った道をぐるりと回り
また同じ場所に出て、2人で笑う。
見知らぬ街の、見知らぬ坂を上りきると
突然 視界が開けた。
同時に息をのみ、歓声をあげる。
宝石のように輝く夜景が
宙の下にどこまでも広がっていた。
その真ん中に、まっすぐ伸びる長い長い下り坂。
幻想的な景色の中へと車はぐんぐん吸い込まれ
そのまま浮いて夜景の海に落ちていきそうだった。
「なんか、落ちそうやな」
深夜の魔法が2人に同じイメージを見せる。
車は街を滑る、滑る。
やがて空が明るくなり始め
世界に新しい空気が満ちていく。
星も街も姿を消した。
待ちきれず、首を伸ばして辺りを見渡す。
彼が窓を半分開け、空気の匂いをかぐ。
青い海が、もうすぐ見える。
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