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金閣寺放火事件界隈

1年ほど前に主人公の夕子が私に似ていると言われてからずっと気になっていた水上勉「五番町夕霧楼」をこのお盆休みにようやく読みました
1950年に実際にあった金閣寺放火事件を題材にした小説です

廓物にも関わらず登場人物はみな情に厚く、悲しい物語ながらも水上の人間に対するあたたかい視点で切なく心に沁みる物語が展開されていきます(夕子が私に似ているのはある点に於いてでした)

勢い同じ事件を題材にした三島由紀夫「金閣寺」にも着手
ずっときちんと読んでなかったのですが家にあったかなり古い旧かな遣いの新潮文庫で通読

同じモチーフでもこんなに違うのかという新鮮さと、その激しく鋭い心理描写で、今更ながら改めて三島の圧倒的な力量に感動します
容赦ない自己批判が独りよがりでもあるけれど事件に到る狂気の盛り上がりが克明に描き出されています

思い立って途中、実際の金閣寺に参拝(水上を15日に読了同日三島を読み出して次の日16日に参拝、同日三島読了)

養賢の見ていた当時の金閣とは姿は違うものの夏の深夜の犯行を思い浮かべるとなんとも不思議な心持ちに

養賢がカルモチン自殺を図って身を潜めていた左大文字も、この日まさに送り火の当日だったので山腹にはその準備をする人々の白い装束がうごめいているのがすぐそこに見えました

さらに入手しておいた水上のこの事件のノンフィクションルポ作品「金閣炎上」を最後に読みました

こちらはまた裏日本の寺の子に生まれ京都の寺に修行に出された水上が同じ境遇の養賢を、狂人ではなくごく普通の真面目な吃音の青年としての生い立ち、その臨終までを本当に精緻に取材を重ねて丁寧に書かれていて物凄く読みごたえがありました
全編「五番町夕霧楼」と同じくあたたかく、しかしとても鋭い推察で養賢の内面と思想に迫っています

三島の「金閣寺」は優れたフィクションでこちらは優れたノンフィクションでした

3作に共通するのは、作中に登場する場所が全て今でも日常的に通る場所で、あの辻を曲がって走って行ったのか…とか、私も眺めた同じ山門をそのとき見ていたのか…とか読んでいて目の前にすぐ浮かんできて感慨深い読書体験でした

読むきっかけをくれてありがとう

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