せんぱいのこと #社会人百合

(前回 「ふじうのこと」)

 緑間(みどりま)先輩は小柄で、ふんわりとしたボブカットの26歳だ。並んで立つと、私の鎖骨のあたりにうなじがあるのがとてもかわいい。けど、その内面は外見とかなり異なる。上司であろうと食って掛かり、同僚が手柄を横取りしようものなら知略の限りを尽くして蹴落とす。正直、手の付けられない先輩だと思うこともしばしばある。
 でも、私はそんな先輩が大好きだ。
 先輩の全部が好きだ

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ペトリコールと桜色

駅ビルには決まってコスメのフロアがある。幼い私はいつも、そこを通るのが苦手だった。厚化粧のにおい。着飾った女性たちの生白い肌。降り注ぐ照明の冷たさ。そのすべてが、息苦しくて仕方がなかった。

「社名にもあるFrostは……こちらの香水は創設者の思い入れがあって……」

 そんな私が、どんな因果か客に香水を売りつけている。ガラス瓶に注がれたそれらには、それぞれ価格と香りのモチーフ……それと販促のため

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ひとふで小説|レンガイケッコン(9)

これまでのお話:(第1話)〜(収録マガジン)

(9)

 カン!とした、乾いたチリトリの落ちた音を、エントランスが幾重かに響かせる。
 蓮本は持ってきた書き置き用のメモをくしゃくしゃにポケットへ突っ込みながら東之に駆け寄って、チリトリを拾ったついでに重そうなゴミ袋もやや強引に引き取った。
「あ、いいですいいです!汚いですよ!ごめんなさい!」
「だ、大丈夫ですか?痛かったですよね、今のは。転ばなく

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ひとふで小説|レンガイケッコン(8)

これまでのお話:(第1話)〜(収録マガジン)

(8)

 階段を下っただけだというのに、管理人室に戻った頃には結構息が上がっている。殺虫スプレーの入った戸棚に手を伸ばそうと屈んだ時には、ちょっと圧迫されて、はあはあと息が漏れてしまった。
(はあ、あったあった、良かった)
 東之はスプレー缶をサッサッと上下に振って、中身の重さを確かめた。
(あるよね。良かった。ゴキブリ一匹やるぐらいなら充分かな。

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〔38話〕 レズと七人の彼女たち

■収録ナビ:この記事を収録した単行本は未発売です。
◆1話目から試し読み
◆マガジン(note)
◆1〜3巻(Amazon以外は[取扱書店一覧]にて!)

ページ数:16P

※付け足したかったシーンのOKが全員から出たので、増シーンできました!一応そのままでも話はつながりますが、よろしければ次回を読む前に増シーン版を読み直してから第39話に進んで頂けると嬉しいです。

——第38話——

〜吾妻

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ふじうのこと

藤生の背中には、背骨をなぞるように裂傷の跡がある。白くて艶やかに膨らんだそれは、蛹の羽化を連想させた。行為のあと、豆電球の照らす下で橙色に染まったその傷をなぞると、新しい皮膚の柔らかさが指にまとわりついてきた。細く平板な背中に走る縫い跡と傷跡。それが、絶頂を迎えたあとの見慣れた景色だった。

「緑間先輩……今、背中に触りましたか?」

 丁寧な口調でそういって、ベッドの端に腰かけた藤生は肩越しに振

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「ただの気の迷い」ではない:『やがて君になる』が百合でありがちなお約束に挑む

本記事は、Alex Hendersonさんの書いたこちらの記事を翻訳したものです(許可を得ています)。

恋愛ってどうやってするものなのかと悩む10代 ― 特に、その子が異性愛者ではなかったら ー そんな悩みは、その子を困惑させ、ひどく心を乱されることもある。そんな様を去年放送された『やがて君になる』のように描いた作品は数少ない。この百合シリーズは自己探求、恋愛関係、アイデンティティについての浮き

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ひとふで小説|レンガイケッコン(3)

これまでのお話:(1)(2)

(3)

 昨晩、翌日の打ち合わせに備えて早寝するつもりだった蓮本のスマートフォンが、寝る支度を始めた頃に通知を鳴らしたので、仕事の用件か、一度「おやすみ」のメッセージを交わして寝たはずの彼が起きたのかと思って開いたら、電子書店のアプリが放った「読書ポイントの有効期限があと半日で切れます」というアラートだった。
 ポイントなんかすっかり忘れていたくらいだから知らぬ間

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わざわざ好意を伝えてくれるなんて素敵な人だなー!
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ひとふで小説|レンガイケッコン(2)

これまでのお話:(1)

(2)

 いつもどおりに会釈して通過すると思った相手が管理人室の小窓に近づいてきたのは、会釈だけの関係が四ヶ月ほど続いたある昼下がりだった。抹茶色の紙袋を持って近づいてきた蓮本は、
「あのー…、和菓子、お好きですか…。餡子なんですけど…」
と、紙袋を持った左手を心臓あたりの高さに擡げて苦味のある笑顔で軽く頭を下げた。あいにく餡子が苦手な東之は、あー…と言いながら少しの間

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