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『瞬く命たちへ』<第8話>それぞれの策略 再会を果たした二人の行方

 あの娘…予想通りだが、一筋縄ではいかないな。太朗の子、孫を簡単に諦めてなるものか。このまますんなり引き下がるわけにはいかない。羽咲家の血を残せるか否かは彼女にかかっていると私は信じている。だからこそ、二人の気持ちや今の関係性なんて気にしてはいられない。私は、私のやり方で、どうにかして、太朗の子をあの娘に産んでもらう。
 私の話は拒絶されてしまったが、私は見てしまったんだ。太朗の子のエコー写真を未だに大事そうに飾っているのを…。彼女は私に気づかれないように慌てて写真立てを伏せたようだが、私にはちゃんと見えたよ。十八年前に手放した命を愛おしそうに暮らしている母になり損ねた彼女の傷ついた心の内がね…。
 だいぶ子どもに未練があるようだから、少し御膳立てしてあげれば、きっと彼女は太朗のことをまた男として見てくれるようになるだろう。二人はよりを戻して、新たな命を授かることができるだろう。いや、憶測や希望ではなく、私は、その未来を断定し、手に入れてみせる。あの娘はきっとまた太朗の子を妊娠できるし、その子を無事に出産できる。私が、私のこの手で、孫をとり上げてみせる。私の血を受け継ぐ、太朗の子を、私の命に代えても、彼女に産ませてみせるよ。大袈裟ではなく、本当の気持ちだ。もしも神さまと取引ができるなら、私は私の残りの寿命を捧げてでも、孫を誕生させたい。あぁ、神さま、どうか、太朗と芽久実さんを再会させて、二人にもう一度だけ、チャンスを与えてください。二人の間に子どもを授けてください。愚かな爺の残りの寿命を捧げますから、どうか私に孫という宝物を与えてください…。なんて祈ったところで、神さまが願いを叶えてくれるわけもないと分かっているから、私は自分の力でなんとかするよ。太朗は男だからまだ時間が残っているとしても、40歳の彼女の方は時間がない。出産のリミットも迫っていることだし、呑気に神頼みしている場合ではないな。急がなければ…。仕方ない、奥の手を使うか。そう思った私はまた彼に電話をかけた。
「もしもし?健志郎か?この前は彼女の所在を教えてくれてありがとう。想定通り、そう簡単に事は運ばなかったよ…。折り入って、きみにまた相談がある…。」
 
 太朗の父である羽咲育次朗が何やら不穏な動きを見せている頃、命汰朗は結椛にまた無茶なお願いをしていた。
「頼むよ、結椛。俺さ…生まれることができなかった存在だから、母親のおっぱいを吸ったことがないんだよね。だから…一度でいいから、おっぱい吸わせて?」
「はっ?何、言ってるの?私は命汰朗のママじゃないし、そもそも母乳なんて出るわけがないし…。」
「それは分かってるけど…お願い。母乳ならさ…結椛のおっぱいに魔法をかけて出るようにするから。生きてるうちにおっぱい吸ってみたいんだよね。」
「そんなこと…できるわけないでしょ。そういうお願いなら実の母親の芽久実先生に頼めばいいじゃない。命汰朗は魔法で先生のこと、どうにでも操れるでしょ?」
結椛は必死に胸を隠しながら抵抗していた。
「実の母親には恨みもあるし、今はそういう気になれないんだよね…。こんなこと結椛にしか頼めないしさ、お願い。そうだ、俺が高校生の姿じゃ恥ずかしいだろうから、そうだな…三歳児くらいの姿に変身するから。」
結椛が拒否しているにも関わらず、命汰朗はさっさと三歳児の姿に変身した。そして
「結椛ママ…おっぱい吸わせて?」
と指を咥えて、彼女に甘え出した。幼子を目の前に、母性本能をくすぐられた結椛は抗うことをやめ、とりあえず命汰朗を抱っこしてあげた。
「仕方ないな…じゃあ…抱っこだけしてあげる。」
「ありがとう、結椛ママ。大好き。」
命汰朗は抱っこされたことを良いことに、魔法で彼女の服をはぎ取ると、露わにさせた胸にしゃぶりついた。
「ママのおっぱい…おいしいよ…。」
「ちょ、ちょっと命汰朗、何、勝手に私のおっぱい吸ってるのよ。ん…っ。」
命汰朗に乳首を吸われ始めた彼女は口では抵抗しながらも、母性溢れる身体は幼子の姿に変身している彼を簡単に受け入れていた。
「これが母乳なんだね…おいしいな。」
命汰朗の魔法で母乳が出るようになった自分の胸に戸惑いつつも、結椛はいつしか胸を吸われることに幸せを感じ始めるようになった。
「ん…どうして…こんなの嫌なのに、なぜか気持ちいいし、幸せって思っちゃう…。あっ、あっ、んんっ…。」
「おっぱいを吸われると、オキシトシンって幸せホルモンが分泌されるらしいからね。幸せを感じちゃうんだよ。それに俺の吸い方が上手いから、気持ちいいんだよ。結椛のこと、もっと気持ち良くしてあげるからね。」
「ちょっ、ちょっと、もういい加減やめて…あん…そんなに強く吸ったら、だめ…。」
言葉とは裏腹に、何度も押し寄せる快楽に彼女は悶えていた。
 
 そんな時、チャイムが鳴った。
「命汰朗…誰かお客さんが来たから…もうやめて…。」
「鍵かけてるし、ほっとこうよ。もう少し結椛ママのおっぱい味わわせて。」
命汰朗が彼女のおっぱいを吸い続けている時、ドアの外にいたのは瞬音だった。
「あれ?おかしいな…。結椛ちゃん、今日は家にいるって言ってたのに…。」
ドアを確認すると、鍵もかかっていなかったため、瞬音はそっと開けて、中を覗いてしまった。
「あ…ん…命汰朗、もう、やめて…。強すぎるってば。ちょっと痛いよ。んんっ…。」
結椛の喘ぎ声が聞こえてきて、思わず瞬音は声のする方へ近づいてしまった。
「えっ…結椛ちゃん…?」
見知らぬ子におっぱいを吸われる彼女を見た瞬音は思わず、持っていた荷物を床に落とした。
「きゃっ?えっ?どうして…瞬音くん…?」
突然部屋の中に瞬音が現れたものだから、結椛は慌てて胸を隠した。
「えっと…その子…だれ?まさか…結椛ちゃんの子…?」
動揺している瞬音は彼女にありえない質問をしていた。
「そんなわけないでしょ。この子は…。」
「俺だよ、瞬音。」
命汰朗は魔法で元の姿に戻って、瞬音に向かって笑った。
「なんだ…命汰朗か…って、子どもじゃなくて、おまえなら、なおさら許せない。何、結椛ちゃんの…おっ…おっぱいを吸ってるんだよ。」
瞬音は恥ずかしそうに命汰朗を叱った。
「瞬音は母親から母乳をもらったことがあるから…お母さんのおっぱいを吸ったことがあるから、分からないだろうけど、俺ら命の使いは母親の愛情もおっぱいも知らないうちに死んでるからさ…。一度でいいから、おっぱいを吸ってみたいって欲求があったんだよね。それに結椛のおっぱいを吸ってみたかったから…。」
命汰朗は少し寂しそうに遠い目をしていた。
「そうなのか…って納得できるかよ。そうだとしても、結椛ちゃんのおっぱいで試すことはないだろ。子どもの姿に変身して、結椛ちゃんをたぶらかすなんて、最低だな。」
「たぶらかすとは人聞きが悪いな。母性本能をちょっとだけ利用しただけだよ。後は俺の魔法で、母乳を出すようにしただけ。」
「ぼ、母乳って…本当におっぱい出るようにしたのかよ…。どこまでエロいんだ、おまえは…。」
「もしかして…瞬音も結椛の母乳に興味ある?でもあげないよ。もうその魔法は止めたし。おっぱい吸いたいなら、きみはナオリンに頼めばいいよ。彼女ならきっといくらでも吸わせてくれるだろ?」
「べ、別におっぱい吸いたいなんて思わないよ…。鍵が開いてたから、勝手に部屋に上がり込んだのは悪かったけど、これ…二人にお歳暮。ナオリンに渡してくるように言われて来たんだ。」
そう言って、瞬音は結椛に持っていたお歳暮を渡した。
「ありがとう、お歳暮なんて気遣わなくていいのに…。」
結椛は恥ずかしそうに胸を隠しながら、受け取った。
「じゃあ…お邪魔しました。命汰朗、もう二度と、結椛ちゃんのおっぱいを吸うなんてするなよ。」
「はいはい、分かったよ。子どもとして結椛のおっぱいを吸うことはやめるよ。でも…恋人としてなら、結椛が許してくれたら、また吸っちゃうかも。結椛の母乳の味が忘れられないし、ママの味…やみつきになりそう。」
命汰朗はいたずらっぽく笑った。
 
 その翌日…。
「ねぇ、瞬音。お願いがあるの。」
「えっ?何?エッチなお願いなら、ごめんだよ…。」
ナオリンは横になっている瞬音の顔を覗き込みながら言った。
「私ね…生まれることができなかったから、お母さんのおっぱいを吸ったことがないのよね…。だから…瞬音のおっぱい…吸わせてくれない?」
彼女は指を咥えながら、瞬音の胸元を見つめていた。
「はっ?何、言ってるの?いくらお母さんのおっぱいを吸ったことがなくて、かわいそうだと思っても、そんなことさせてあげられるわけないじゃん。そもそも俺は男だよ?おっぱいなんてないし…。」
「瞬音にもちゃんと乳首あるじゃない?私が魔法で瞬音の乳首から母乳出るようにするから。ちょっとだけ…しゃぶらせて。お願い。」
「イヤだよ、そんなことできるわけない…」
と、瞬音が反抗しても、お構いなしにナオリンは彼の服をはぐと、ちゅーちゅー音を立てながら、乳首に吸い付いた。
「瞬音のおっぱい…おいしいよ。これがおっぱいの味なんだね…。」
「ちょ、やめろって…俺はナオリンのお母さんじゃないってば。あ…くっ…。」
嫌なはずなのに、乳首を吸われ続けていた瞬音はなぜか心地良さを感じ始めた。
「…気持ち良くなってきたでしょ?たぶん、乳首吸われると、男の人もオキシトシンが分泌されるんだと思うの。」
「オキシトシン…?」
「幸せホルモンよ。母親は子どもにおっぱいを吸われると、それが大量に分泌されて、幸せを感じる仕組みらしいわよ。」
「へぇ…そうなんだ。って、そうだとしても、もうやめてくれない?こんなの恥ずかしいよ。」
「恥ずかしがることないじゃない?あっ、そうだ。私、子どもの姿になった方がいいのかな?」
そう言うと、彼女は幼女の姿に変身し、また瞬音の乳首に吸い付いた。
「子どもならいいとか、そういう問題じゃないし。それに安易に魔法使ったら魔力が弱くなってしまうんじゃないの?」
「私は…命汰朗ほど、魔法を使ってないから、まだまだ大丈夫。瞬音のおっぱい、おいしい。」
そんな最中、チャイムが鳴った。
「やばい、誰か来たから、もうやめてよ。」
「いーじゃない。居留守使えば。そのうち帰るでしょ?」
ナオリンは瞬音の乳首から離れようとせず、吸い続けていた。
 
「瞬音くんとナオリンさんいないのかな…。昨日もらったお歳暮のお礼、持ってきたのに…。」
結椛はそっとドアに触れると、鍵が開いていることに気づき、中を覗いた。すると部屋の中から妙な声が聞こえてきた。
「あ…う…っ。ん…やめ…あっ。」
声のする方を見ると、瞬音が幼女に乳首をペロペロ舐められたり、ちゅーちゅー吸われたりして、はぁはぁ喘いでいた。
「えっ?瞬音くん…?もしかしてその子は…。」
昨日の命汰朗を思い出した結椛はすぐにその幼女がナオリンかもしれないと気づいた。
「ゆ、結椛ちゃん…これは…そう…昨日の命汰朗と同じパターンで…この子は…ナオリンだから。あ、くっ…ナオリン、いい加減もうやめろって。」
「えーもうちょっと吸っていたかったのに。あれ?結椛ちゃん?どうしたの?」
元の姿に戻ったナオリンは結椛を見て、きょとんとしていた。
「な、ナオリンさん、これ、昨日のお歳暮のお礼…。昨日はどうもありがとう。」
「お礼なんて気にしなくて良かったのに…。でもありがとう。」
ナオリンより、結椛の方が照れていた。
「命の使いって…命汰朗もナオリンさんも生まれることができなかったから、ママが恋しいのね、きっと。だけど、おっぱいを求められるのは困るわよね…瞬音くん。」
「そ、そうだよ。いくらお母さんの愛に飢えてるからって、こういうことばっか求められても困るんだよ。こういうことは本当の母親に頼まないと…。」
「ごめんね、瞬音。でも、私のお母さんはどこにいるのか分からないし、そもそもこの時代にいるのかどうかも知らないの。だから、大好きな瞬音のおっぱいほしくなっちゃった。私のお母さんはどこにいるのかなぁ…。」
ナオリンは寂しそうに指を咥えて、窓の外を見つめていた。
 
 年明け。あっと言う間に短い冬休みは終わり、新学期が始まった。
「副担任の先生が産休に入るから、新しい先生が来るんだって。」
「へぇーそうなんだ。ちょっと楽しみ。うちの学校、三年間クラス替えなくて、担任も副担任も持ち上がりだものね。新鮮でいいかも。」
瞬音やナオリンたちが通う二年C組に新たな先生が来るという話でクラスは盛り上がっていた。
「へぇー副担の先生、産休なんだ。そう言えば、少しおなか大きかったもんな。」
「産休後、そのまま育休に入るらしいから、休みが長引くみたいなの。新しい先生は私たちが卒業までお世話になるかもね。」
幸人や香も新たな先生を楽しみにしている様子だった。
 
 間もなく、担任の芽久実先生に連れられて、新たな副担任の先生がやって来た。
「これからC組のクラス副担任になる羽咲太朗と申します。みなさん、どうぞよろしく。」
「男の先生なんだ。けっこうイケメンね。」
「ちょっとだけ…命汰朗くんに似てない?」
その先生は早くも女子生徒の人気の的になっていた。
「羽咲?どこかで聞き覚えのあるような…。」
結椛は記憶を辿るように羽咲先生を見つめていた。
「へぇ…探す手間が省けたよ。二人揃ってくれてラッキー。」
命汰朗は羽咲先生と芽久実先生を蔑むようにニヤニヤしていた。
「あっ…あの時の…。」
 
休み時間、結椛は命汰朗に詰め寄った。
「新しい副担の先生って…もしかして、命汰朗のお父さん?年末に芽久実先生を観察してた時に知った羽咲さんの息子じゃない?もしかして…命汰朗が魔法で呼び寄せたの?」
「そう、たぶん彼は俺の父親だね。俺が呼び寄せたわけじゃないよ。どういうわけか知らないけど、この学校にターゲットが揃ってくれてラッキーだよ。どうせなら、あの羽咲ってじいさんも来てくれたらいいのにね。」
「そうなんだ…命汰朗の仕業ではなかったのね。それにしても、命汰朗の両親まで学校に揃うとはね…。このクラスには、瞬音くんのご両親とうちの両親も揃ってるし、ますます賑やかになりそう。」
「二人が揃ってくれたおかげで、これからいろいろ楽しませてもらえそうだよ。結椛の両親の仲を引き裂くと同時にこっちの二人の関係もいたずらしてあげないとね。元恋人同士なら、よりを戻すことだってあるだろうし…。うわさをすれば、さっそく二人きりで話してるみたいだよ。」
屋上に続く廊下の踊り場に座り込んで、話していた芽久実先生と羽咲先生を見つけた命汰朗は、結椛と二人で彼らの会話を立ち聞きし始めた。
「驚いたわよ…まさかあなたがうちの学校に赴任してくるなんて。」
「俺だって驚いてるよ。ずっと公立高校で真面目に働いていて、何か不祥事を起こしたわけでもないのに、急にこの私立月慈学院高等学校へ異動を命じられてさ。」
「年末に…あなたのお父さんが私を訪ねてきたの。いろいろ話を聞かされたけど、そのことが原因かもしれない…。」
「あーうちの親父の仕業か…。きみに何を話したかは知らないけど大方、察しはつくよ…。たぶん…俺たちのこと、くっつけようとしてるのかもね。この高校の理事長とは友人同士らしいし、きっとコネを使ったんだよ。勝手な父親だよな、ほんと。あの時、俺たちを引き離したのは誰だよって話。」
「太朗くん…じゃなかった。羽咲先生のお父さんが月慈理事長と友人だって話はこの前、ご本人から伺ったわ。あなたもきっと、私以上に、親に苦労してるんでしょうね。」
「二人の時は別に下の名前で呼んでくれていいよ、芽久実先生。恥ずかしい話、きみとあんなことになって以来、親父には頭が上がらなくなって、ずっと人生を囚われたままだよ…。芽久実と付き合ってた頃は、親に反発して自立して自由に生きてるつもりだったけど、所詮俺は籠の中の鳥だったよ…。」
「そのことなら、よく知ってるわ…。あの時、羽咲院長に言われたの。太朗は医師ではなく教師の道を進ませる代わりに、結婚相手だけは譲らないって。医師と結婚させるからおなかの子は諦めてくれって頭を下げられたの。その時、太朗くんはもう自由じゃないんだなって気づいた。」
「親父…きみにそんなことまで宣言していたのか…。身体だけじゃなくて、心まで傷を負わせてしまって、本当にごめん…。俺さ、あの時…芽久実に子どもができたって知って、パニックになって産婦人科医の親父を頼ってしまったんだよね。親父なら何とかしてくれるだろうって泣きついてしまったんだ。きみの気持ちも考えずに、子どもだったなと思うよ。親父に誘導されるように同意書にサインして、それから後はすべて任せなさいと言われた…。大きな借りができてしまった俺は、親父に頭が上がらなくなってさ。仕事は好きな道に進めたけど、結婚の自由は奪われたんだ。」
「そうでしょうね。お父さんに頼った時点で、あなたはもう囚われの身だものね。私は、自分と全然違う生き方してるように見えた太朗に惹かれたけど、でも結局私たちは似た者同士だったのかもしれないわね。親たちにずっと囚われたまま、生きているから…。」
親密そうに話し込む二人を見ていた結椛と命太朗は
「なんか…あの二人…すでにいい感じじゃない?」
「そうだとすれば、俺はますます燃えるよ。仲をとりもつより、引き離す方が興奮できる質だからね。」
なんて話しながら、視線は二人に釘付けになっていた。
「たしかに俺たちは結局、似た者同士なのかもしれないけど…でも、芽久実は今は、俺なんかより親から自立して暮らしてるみたいじゃない?ずっと一人暮らしなんでしょ?えらいよ。」
「たしかにずっと一人暮らしで親元からは離れているけど、私を偵察するみたいに親からしょっちゅう電話がかかってくるの。それに…一人暮らしのはずだけど、気持ちは二人暮らしみたいなものだから。」
「そうなんだ…二人暮らし?どういうこと?」
「あの時、手放してしまった子のことが忘れられなくて、ずっとあの子と一緒に生きているような気分で暮らしているってことよ。」
「あー…そうなんだ…。ごめんね…。でも…俺も子どものことや、きみのことを、時々思い出していたよ。結婚してからも、今でもずっと。」
「あなたは…時々かもしれないけど、私は…。私は、あの子のこと、名前まで考えて、忘れたことなんて一度もなかった。思い出すんじゃなくて、今でも一緒に生きてるの。ずっと、心の中で生かし続けて生きてきたの。決して成長することのない、年々色褪せてしまうあの子の写真を見つめながら、毎日二人で一緒に生きてた…。忘れることなんてできないから…。あなたのことは完全に忘れたつもりでいたけど…。」
「そっか…ごめん…。子どものこと、未だにそんなに大事に思ってくれてるなんて、全然知らなくて、ほんとにごめんね…。名前…考えてたんだ。どんな名前?」
「めいた…芽生太って名前よ。男の子の気がしてたから…。」
「そうなんだ…芽生太か…。いい名前だね。ちゃんと覚えておくよ。」
今にも泣き出しそうな芽久実先生と今にも彼女を抱きしめそうな羽咲先生の前に、急に命汰朗が飛び出した。
「め、命汰朗くん?急にどうしたの?」
「えっ…きみ…めいたろうって名前なの…?」
二人の先生はふいに現れた生徒に動揺していた。
「芽久実先生に用事があって…探していたんですよ。」
「そ、そうなの?どうしたの?」
「先生…この前の俺からのプレゼント…気に入っていただけましたか?」
「えっ…?プレゼント?」
羽咲先生は二人の関係を気に掛けた。
「羽咲先生、違うのよ。私が命汰朗くんに誕生日プレゼントあげたものだから、彼は私にクリスマスプレゼントをくれたの。ぬいぐるみをね。」
「あー…なるほど、そうなんですか…。」
「俺は先生からいただいた誕生日プレゼントのスケジュール帳、大事に使わせてもらってます。」
「それは良かったわ。ありがとう。私も…ぬいぐるみ、部屋に置いて大事にしてるわよ。」
「そうですか。先生が大事に毎日、使ってくれてるみたいで、俺もうれしいです。だから…」
命汰朗は急に芽久実先生の腕を掴んで自分の身体に彼女を引き寄せながら羽咲先生をにらむように言った。
「芽久実先生と俺はこんなに仲良しなので、邪魔しないでくださいね。太朗先生。」
不敵な笑みを浮かべる命汰朗と、困惑した表情の芽久実先生と羽咲先生という、実は親子の三人を、結椛は一人ではらはらしながら階段の陰からそっと見つめていた。
 
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