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【短編小説】ほめられたい、誰でもいいから

「学校おわりで新作の桜ラテ🌸カップのデザインも可愛い☕」
「デザインが春ってかんじ!桜ラテ美味しそうだ~」

「またしても、ヨマ・ヨメ描いてみました!」
「良い表情してますね!。ヨマ・ヨメのペア、次の投稿も期待です。」

「毎日投稿15日目!3週間目に突入。今日は夕焼けを撮ってきたよ。」
「きれいな夕焼けですね。明日も良い日になりそう。楽しみにしてます。」

 技術革新でAIが今まで以上に人間らしい文章を作成するようになった。
 AIの学習状態によって、まだまだ明らかな間違いもあるが、日常会話レベルならばちょっとしたアシスタントとして期待されるようになりだした。

 そこで先輩がはじめたのがSNS投稿をほめるボットだ。

「学習データには困らないわけよ。インフルエンサーや有名人の投稿にはポジティブなコメントが大量につくから。コメントも短文でそんなにバリエーションあるわけでもない。」

 一般に対象領域が限定されるとAIの精度は高くなる。短文投稿に対するポジティブなコメントという条件ならば相当なものが期待できる。

「イイネと一緒に良いコメントがつけば、そりゃ喜ぶわけ。ほめられたい。たいていの人って、誰でもいいから、ほめてほしい。」

 突然、知らない人からほめられて嫌な気持ちにならないのだろうか。

「そういう人を判定するAIも作成したわけよ。インフルエンサーに憧れる人や、創作物を見てもらいたい人の行動を抽出してね。そういう人に向けてコメントするのが目的なわけだし。抜かりはありません。」

 だけど、それをやって何になるんだろう?ユーザーからお金を取ってほめるわけじゃない。勝手にほめるコメントをつけるだけ。ほめた人が有名になって成功したとしても特に見返りがあるわけでもない。

「まず思いつくのは、実績を積んだ上でポジティブとネガティブをひっくり返すのがあるよね。これが一番簡単だけど、ネガティブコメントなんて珍しくないからね。そんなボットが増えたところで仕方がない。」

 ネットはいつも悪口で溢れている。見ないで済む手段は沢山用意されているし、常にシステムは防ぐ方向に動く。ボットがそんなことをしていたら問答無用で停止されるだろう。

「誰かがほめると、そうやってほめて良いんだって思う人が出てくるわけ。そういう連鎖が起きるんだ。そうなるとほめられて伸びる人が増える。毎日投稿が続くし、カフェの新作写真も増える、創作もやる気が出る。そういう循環が期待できるわけ。」

 SNSが最初の頃に夢見ていた明るい未来みたいに思えてきた。誰もが行動を肯定しあえるプラットフォームだ。やさしいせかい。

「テーマパークみたいなもんだね。夢の国だよ。どこまでがボットなのか気にすると寒々しくなるけどね。」

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