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大谷翔平選手移籍の難しさを解明する主演映画「いけ、いけ、大谷 ~炎の絆~」シナリオ企画(前編)


移籍のどこが難しいのか

 新聞報道やインターネットで大谷翔平選手の移籍がテーマになると、記事の歯切れが悪いように思えてなりません。
 結局、話題だけで、先が見えないのですから。
 たしかに、本人の意向や契約金、相手との条件交渉や互いのチーム事情など、表に出にくい側面が多々あります。
 憶測が飛び交っているのを記事にしているだけのようにも思えます。
 とはいえ、私には他の選手にはない大谷選手『特有』の難しい問題があるように思えてなりません。
 それは何か。
 組織と個人の関係。
 もっと具体的に言うと、『分業制の壁』ではないでしょうか。

『分業制の壁』とは何か

 現代野球とベーブルースの時代で大きく異なる点。
 それは「チームワーク」の捉え方でしょう。
 一言で言うと、「分業制の進化」です。
 今の大リーグは、ベーブルースの時代と比べて、選手層がとてつもなく厚くなりました。才能ある選手たちが、人種を越え国境を越えて、世界中から集まっています。
 一方、個々の野球技術は格段に進歩し、専門性が進んでいます。
 ピッチャーは、先発、中継ぎ、抑え。
 バッターは、何番を打つかで役割が異なります。
 守備も当然役割は分かれていますが、相互の連係プレーは多彩で高度化しています。
 それぞれのポジションにおいて、例えば、ピッチャーは100年前と比べて球種がとてつもなく多くなりました。個々のポジションの技術や連係プレーは進化しています。
 様々な道具だって、試合用も練習用も格段に向上し、トレーニング方法も科学的になっています。
 データ野球も情報システムを駆使して、飛躍的に進歩しています。 
 こうした条件の中、優秀な選手同志の競争の激化で、アマチュア時代に二刀流であってもプロに入るときには「専門を絞らないと大成しない」と本人も周囲も考えるのが普通になっています。でなければ、とても厳しい競争に勝って、生き残ることはできない世界になっています。
 分業制の進化は、オールマイティタイプの選手にとっては不利な環境で、もはや通用しない条件がそろっていると言えるのではないでしょうか。
 このように組織的な分業制が徹底した時代に、分業制の壁を遥かに越えた『万能選手』が出現したとしたら、組織の中でその選手の扱いと居場所はどうなるのでしょうか。

「二兎を追う者は一兎をも得ず」は常識

 あの王貞治さんも、ピッチャーで四番で甲子園優勝二回の選手でありながら、巨人に入団後はバッター中心の方針をとり大成しました。
 プロ野球の世界では、自分の道を絞り、その道を究め、究極のプレーでナンバーワンの成果を上げるのが生きる道であり、それがプロの厳しさなのだと言われています。
 「二兎を追う者は一兎をも得ず」は、プロの世界では普遍的な格言であり美学であり常識であると思うのです。名選手に成るためには、専門の的を絞ることは『普通で、自然で、当然』のことだったわけです。
 今までは。

「二兎も三兎も追う」選手が出現

 ところがここに、世界最高峰の大リーグで「二兎も三兎も追う」選手が出現しました。
 大谷選手は、選手層の厚い大リーグのピラミッドの頂点において、大空を舞うような自由奔放な活躍をしているのです。競争の厳しい環境条件からは前代未聞の出来事です。
 比較対象が、ベーブルースくらいしか見当たらない。各分野のスター選手とは、誠に異質な選手の出現です。
 大谷選手は、組織の『分業制』に対して『反逆もせず、否定もせず、抵抗もしていない』のです。分業制のそれぞれの分野に合わせて、超一流を証明してきています。
 従来はありえないことでした。一人何役もこなせば、そもそも練習が各分野に分散してしまいます。ピッチャーとバッターの練習。外野手、ランナーの練習。このすべてを限られた時間で、個別にいったいどれだけの練習ができるでのでしょうか。
 全部練習不足で、中途半端になるはずです。
 データ野球の観点からも、ピッチャーとして相手バッターを分析することと、バッターとしても相手ピッチャーを分析しているわけです。頭がこんがらかることでしょう。
 名選手には、毎日、千回以上バットを振り込むといった猛練習の伝説が、よくあります。ピッチャーでは金田投手は毎日20キロ走ったとか。王選手は日本刀を振ったとか。
 一つの道を究めることこそ、超一流の証であると。でも、大谷選手だけは、別の世界にいるわけです。

「ナンバーワン」から「オンリーワン」へ

 今や、大リーグファンとマスコミの大谷選手への評価は、大きく変化してきました。称賛の仕方が、明らかにただの興奮とは異なります。
 日本から来た器用な選手から凄い選手へ。凄い選手からベーブルースなど伝説の選手へ。伝説を越えた比較しようもない選手へ。
 評価は、今や「大リーグ史上のナンバーワンからオンリーワン」へと変わってきました。目の前の活躍をに対して、冷静に歴史的な位置づけをしつつあるのです。
 分業制やライバルのいる世界の評価は「ナンバーワン」。これは従来の評価です。
 グラウンドで万能な活躍の評価は「オンリーワン」。これが大谷選手への新しい評価です。これこそ、新しい伝説の誕生という評価でしょう。
 今や、ネットで伝わる現地メディアの情報は、こんな論調です。
「過去にも未来にも、もう現れないかもしれない選手を、今我々は目の前にしているのだ」と。
 ベーブルースが大活躍したときも、ベーブルースを「こんな選手は二度と現れないだろう」と思ったことでしょう。
 60本の本塁打を打った時は、私の記憶では2位の選手は19本くらいだったと記憶しています。
 同じように、別格の選手を、今や私たちは目の前にしているのだと。
『新しい歴史の立会人』
 アメリカの大リーグファンもマスコミも、ようやくそのことに気がついたのです。
 実はここに、大谷選手の「移籍の難しさ」があるわけです。

相手チームの受け止め方は「未知との遭遇」

 大谷選手の移籍は、「四番バッター」や「エースピッチャー」の移籍ではないのです。
『オンリーワン』の選手の移籍なのです。
 移籍を検討している各チームは、「未知との遭遇」のような不安を感じていることでしょう。
 大谷選手にとっては、エンゼルスは古鄕です。長くいる理解のあるエンゼルスで育ったのですから。ところが、エンゼルスで完成した二刀流の選手を、移籍先のチームはどう受け止めたらいいのでしょうか。
 今まで同様の移籍選手への取り扱いが、通用しないかもしれない。うちのチームに来て大丈夫だろうか。本音では、困惑や不安を感じて人も、関係者の中には多々いることでしょう。
 しかも、すでにスーパースターです。
 ファンとマスコミが最も注目している選手が移籍してきたら、今ままで築いてきたチームワークやチームの雰囲気は、一体どうなるのでしょうか。チームカラーが、大きく変わってしまうかもしれません。
 大谷選手が移籍してきたら、チームの各スター選手は影が薄くなってしまいます。なにしろ分業制の枠組みでのスターですから。どのスター選手も、大谷選手を超えるスターにはなれないのです。大谷選手を称える謙虚なスターになるしかないのです。たとえ、個別にタイトルをとったところで、分業制の中で「ナンバーワン」になったにすぎないのですから。
 毎年ある各部門の栄光そのものの影が薄くなり、大谷選手に光が降り注ぎます。大谷選手がホームラン王になれば、「二刀流のホームラン王」として、大リーグの過去の実績データを全部ひっくり返して調査することになります。どんなタイトルも「二刀流の」という冠がつくわけです。まったく新しい歴史の偉業に位置づけられてしまうのです。
 今、マスコミもファンも、大谷選手に注目し、騒ぎ、評価し、夢中になっているのは、タイトルとは別次元のことなのです。毎試合が、「歴史的な事件」になっているのです。
 移籍先の各選手が、与えられた役割でよい成績を上げても、それは従来通りのよくある栄光の一つでしかなくなってしまいました。これ自体は素晴らしいことで称賛されることなのに、大谷選手と同時代になったために、注目度が落ちてしまっているわけです。
 大谷選手が移籍してきたら、もうスターになれないかもしれない。そんな不安を感じているかもしれません。まったくの推測ですが。
 個々の選手は、本音から大谷選手の移籍を歓迎するでしょうか。しかも、同一チームになれば、どうしたって大谷選手に気を遣うことでしょう。もし大谷選手が活躍できなければ、マスコミもファンも、このチームを責めるかもしれません。 
 前日に大谷選手が登板して、次の日はDHで試合に出場。その都度、大谷選手に「昨日の疲れは大丈夫かい?」なんて気を遣っていたら、相手にむかう戦いの集中力が落ちてしまいます。集中力の何割かが、大谷選手への気遣いに消費されてしまうのです。
 しかも、二刀流選手への対応ノウハウが、チームメートにはない。 
 移籍を検討しているチームは、いくらエンゼルスの情報を収集しても、自分のチームに比較する選手がいないのですから、結局会ってみないとわからないということになります。いっしょにプレーしながら工夫していく面が多いと思います。
 今、きっと監督もコーチも、悩んでいることでしょう。これで、チームとして、本当に一致団結して、勝てるのかと。
 もし、大谷選手の移籍後に故障したり怪我でもしたら、それこそマスコミとファンに容赦なく叩かれてしまうのです。これでチームの成績がふるわなかったら・・・・・・これが、普通の選手の移籍と大きく異なる問題ではないでしょうか。
 唯一の救いは、大谷選手の謙虚で真摯でフレンドリーな人柄です。最後は大谷選手の信念や姿勢に賭けるしかないのだと。

大谷選手の今後に注目

 反対にエンゼルスも、出すことは難しいことです。
 なぜ歴史的な逸材を手放すのかと、マスコミもファンも猛烈に批判することでしょう。ファンの二刀流への「期待と楽しみと感動」は、他の選手の活躍や努力で穴を埋めることができません。歴史に残る功績が他球団のものになるのですから。
 ここに、歴史上に名を残す逸材の取り扱いの難しさがあります。
 もし日本のプロ野球界に例えるとしたら、二刀流ではありませんが、全盛時代の長嶋選手、王選手が、他の球団に移籍すること考えてみれば、その難しさがわかるのではないでしょうか。
「そんなこと、ありえないよ」と。
 この問題に、エンゼルスは、まさにぶつかっているわけです。
 こう考えると、私には、移籍は難しいのではないかと思えます。むしろ、よくぞエンゼルスは大谷選手を受け入れて育ててくれた。活躍の場を与えてくれた。感謝感謝ではあります。
 移籍先のチームの条件は、
 ①投打に人材不足
 ②多額の契約金が払える。
 ③二刀流選手の対応ができる。
 ④他の選手たちが二刀流を意識せず相手チームとの戦いに集中できる。
 ⑤大谷選手もベストコンディションで活躍できる環境がある。
 そんな、すべての条件を満たしたチームが、あるでしょうか。
 各球団は、結局、従来の常識に沿った保守的な見解を持っていると考えます。場合によつては、移籍に当たりバッティングに専念してくれとか、要請される可能性もあります。二刀流をしばらくやめてくれないかとか。
 ファンにとっては、移籍が心配でまことに仕事が手につかなくなるような悩ましい選手が、大谷選手ではあるのです。

大谷選手主演映画「いけ、いけ、大谷 ~炎の絆~」シナリオ企画(前編)

 記事の結論をどうまとめようか悩みました。
 「移籍は難しい」これだけで本記事を締めるのは、なんとも物足りないように思えてきました。
 いっそのこと、こんなチームなら、最高だと。自分なりに考案してみようかな。そうしたら、突然、閃いてしまいました。
 移籍をテーマにした大谷選手本人が主演する想定の映画「いけ、いけ、大谷」の始まり始まりで~す。
 ――場面は、とある地方の大リーグ球団事務所。
 球場はボロボロ。選手は緩慢なプレー。毎年最下位で固定。今日も大差で完敗。観客はまばらで、外野スタンドでは何人かがお酒を飲んで騒いでいるだけ。子供は空いた座席の間を走り回っています。
 ある大敗した試合後、球団事務所で、監督がオーナーに辞表を出した。
「こんなチーム。やってられない。最下位の責任なんかとれるか。ここはやる気のない選手ばかりだ。大リーグの掃き溜めだよ。最低だ。あんたも、わかるだろ。ほかのチームで使えない選手ばかり集めて、一体何かできるんだ」
 監督が机をたたきました。
「はっきり言わせてもらう。このままじゃ、私のキャリアの汚点になる。即刻、辞めさせてもらいたい」
 冷ややかな監督の声。
 オーナーは監督の辞表に目を落とした。
「わかっている。でも、そこを、なんとかならないか。力を貸してくれ。父の夢なんだよ。この街に大リーグのチームを作り、ワールドシリーズにでることが」
 監督は、首を振って、吹き出すように笑いだした。
 しばらく二人の激しいやり取りが続く。
 若きオーナーはあきらめない。昨年、父である前オーナーの息を引き取る時に語った最後の言葉を思い出す。
 病室のベッド。
 枕元。父は息子の耳に、絶え絶えな声で囁く。
「弱いチームだが、後を頼む。それから・・・・・・わがチームを救う方法が、一つだけある。困難な方法だ。これは、ワールドシリーズに出るよりも、はるかに難しいかもしれないがな」
 父はふと笑みを浮かべた。
「お父さん。何ですか。教えてください。その方法を」
「それはな・・・・・・わがチームを救えるのは、大谷翔平だ」
 こうして前オーナーは、息を引き取った。
 引き継ぐ息子も球団事情はよくわかっている。この球団は、毎年身売り話が出ては消えていく。いつ、解散になるか分からない。ピッチャーもバッターも二流、三流。夢も希望もない選手の中には、地元の野球少年から大リーグに憧れて、なんとかドラフト入団をした選手もいる。でも、結局周囲のだらけた練習に不貞腐れて、投げやりな緩慢なプレーをするばかりだ。
 引き継いだ息子のオーナーは、監督に父の遺言をそのまま伝えた。
 またしても監督の馬鹿笑い。
「大谷翔平だって、悪い冗談はやめな。恥をかくぞ。野球界の物笑いの種だ。エンゼルスは、あんたを相手にしないよ。うちは世間じゃお荷物球団といわれているんだぞ。世界の大谷が、こんな田舎町に、来るわけがないだろうが」
 でも、オーナーはあきらめない。
「監督、じゃ、賭けようか。辞表は結果を待ってからでも遅くはないだろ。この辞表は、当分私が預かる」
 監督の冷たい声。
「失敗したら、この球団は、もう閉じな。すべては終わりだ」
 こうして、オーナーのたった一人の戦いが始まった。
 エンゼルスと契約更新するのか。
 各球団の強い要請で、とりあえず各球団の条件を聞くことになった。エンゼルスの条件とで移籍を検討することになった。
――シーズン後、エンゼルスの球団事務所。
 各球団が次々と入室しては、交渉が始まった。
 対するは、エンゼルス球団と大谷選手、大谷選手のエージェントに通訳。かれらの前に、一つ一つの球団ごとに、球団の交渉人が、ずらっと入ってきて並んだ。
 次つぎと、目のくらむような条件が提示された。
 次の球団も。
 次の球団も。
 エンゼルスの事務所の周辺は、マスコミとファンで騒然としている。
 マスコミの誰もが、もう方針は決まっているのではないか。今回は最後のセレモニーであろうと思っていた。
 残留か移籍か。
 移籍するのならば、どこの球団か。
 どこも、ワールドシリーズや地区で優勝経験のある球団だ。
 各球団は、皆、移籍によりワールドシリーズに出れることを強調した。「優勝の夢が実現する」
 すでに強力な投手陣と打撃陣かあり、大谷選手が加われば万全であると。
 移籍した後は、組織を上げて、チームに慣れるための特別なプログラムと待遇が用意されている。
 まず新しいリーグに慣れるために、特別なプロジェクトを設置する。当然コンディション作りは、専属のトレーナーをつけるなどなど。
 大谷選手は、どのチームの条件を聞いても、表情は変わらなかった。
 自分を本当に必要としているのか。人気取りか。優勝を確実にするためだけか。自分にふさわしい道は何なのか。魂に響くものをもとめつつ、大谷選手は各球団の話を聞き続けた。
 夕方のこと、エンゼルス一同は、一段落して立ち上がりかけた。
 そこに、予定外ながら、あの弱小球団オーナーが入ってきた。それも、一人で。
 オーナーは、安物の背広を着た気の弱そうな男だった。
 オーナーは、大谷選手の前に腰を下ろした。エンゼルススタッフには、飛びこみの面談を許可してくれたことにお礼を言いながら、ぽつりぽつりと語り始めた。
「あなたにお伝えしたいことがあります」
 前オーナーの父が、球団を生まれ育った地元に創設した話を語り始めた。
 オーナーは一枚の紙を取り出した。
「それでは、私どもの条件を、ご説明します」
 提示した条件は、他の球団の十分の一以下。
 これには、エンゼルススタッフは唖然とした。
 待遇は最悪。アルバムからは、施設も最低であることが分かる。
 エンゼルスのスタッフは爆笑し、時計を見た。もう、終わりにしようとお互いに目配せをしている。
 オーナーだけは、大谷選手の目を見つめて、語り続けた。
「あなたに提供できるものは、ほとんどありません。何もないに等しいかもしれません。でも、どうか思い出していただきたい。あなたが地球の裏側で、大リーグへの夢を胸に抱いた頃のことを。うちの選手もみな同じだったのに、自分の可能性をいつの間にか、あきらめてしまった。ただ、日々、ビジネスとして、ボールを投げ、打ち、走っているだけ。金だけのプレーをするようになったのです」
 オーナーは三十年ほど前の写真集を開いた。
 地元に球場ができたときの写真集だった。初めて地元に大リーグのチームが誕生したとき式典。ファンの喜びの写真を。
 輝かしい笑顔。凄いプレー。ファンの喝采。
「わがチームにも、こんなときがあったのです。今は遠い過去の出来事です。でも、私はあなたに賭けたいのです。あなたが地球の裏側からやってきて、初心を貫き今のあなたがあることを。それをわがチームに伝えてもらえないか。それが、わがチームの絶望からの救いになるのです。勝つことも大切だけど、それ以上のものがあるということを教えてやってほしいのです。夢と希望と志を」
 こうして、オーナーは昨年亡くなった前オーナーの遺言を伝えた。
 大谷選手は聞き続けた。
「私の球団事務所の机の中には、子供の頃にもらった大好きな選手のサイン入りボールが入っています。大谷さん。あなたも、そんな宝を大切にしているのではないですか。その宝をけっして忘れないからこそ、今のあなたがあるのだと思っています。わが町の子供たちは、あなたを待っています。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました」
 オーナーは話を終えると、一人寂しく出ていった。
 それから一週間。
 全世界のマスコミは、移籍問題がどうなるのか大変な騒ぎになった。
 その話題の中に、地方球団のオーナーの話は全く出てこなかった。
 誰も、相手にはしていない。
 さらに一週間。
 オーナーのデスクの古ぼけた電話が鳴り響いた。
 オーナーの耳に、信じられない声が聞こえた。
 大谷選手の声だった。
「わかりました。行きましょう。よろしくお願いします」
 こうして、ついに大谷選手の移籍は世間の一切の予想を覆して展開することになった。
――球団事務所の前に、一台の車が止まった。
 車の後ろのドアがゆっくりと開いた。鍛え抜かれた足が、そっと下りてきた。

第二のドラマ、続編のリンクはここに


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