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習慣

 読書の習慣がない人から「なんかいい本ない?」と訊ねられることがある。その時はきまって「箴言集(しんげんしゅう)」(格言集)を勧めるようにしている。
 一節一節が数行の短文で構成されているため、気軽に読めて、切り上げるタイミングも作りやすい。
 また、一日一回、必ず本を読む時間を作りたいという方には、一節一節の冒頭に月日が付されている本を勧めるようにしている。こうすれば、現実の月日と本の中の月日を照合させながら、確実に毎日読書することができる。

 後者に該当する本として、私がしばしば知人にお勧めしてきたのは、ヒルティの『眠られぬ夜のために第二部』(岩波文庫)である。
 なぜ「第二部」なのか。それは、第一部よりもページ数が少ないからである。あと、私が最初に手に取ったのが第二部だったこともある。

「一月一日
 一度にあまりたくさん読みすぎないように。とくにこの本では、それはよくない。この本はすこしもそういうつもりで編まれていないのだから。毎日がそれぞれ別になっているので、それを読んだ日の晩にーーもしあなたがこの本を朝か前の夜に開けてみたのならーーあなたはその日の思想に賛成するか、それともそれを後日に取っておこうとするか、自分でそれがはっきり分かるにちがいない。」
ヒルティ著、草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために 第二部』岩波文庫、P11)

 例として、「一月一日」の文章を引いてみた。ヒルティ自身が書いているように、この本は読者にゆっくりと読み進めることを推奨している。

「人びとからは決してあまり多くのものを、あなた自身のために、期待してはならない。
 経験に照してみても、われわれが人びとからなにも求めなくなると、すぐさま彼らははるかに好ましい者になる。そして彼らは、このような利己心のない愛を実に本能的に感づくのがつねである。」
ヒルティ著、草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために 第二部』岩波文庫、P58)

 次に引いたのは、私が読み返すたびに「そうなんだよな……」と反省させられると同時に、本書を勧めた友人からも「これはグッときた」と評される文章。
 私は昔から他人に対して「〇〇すればいいのに〜」とお節介なアドバイスをする癖がある。その傾向は齢を重ねるごとに、少しずつ薄まってきてはいるが、今でも忘れた頃にひょっこりと顔を出してくる。
 最初私はこのアドバイス癖を、相手のためを思ってしている、ポジティブなアクションだと捉えていた。ただ、よくよく吟味してみると、それは相手をより付き合いやすい人間にするために、ある性格へと誘導する、あくまで自分のためのお節介であることに気づいた。

 上記の引用文に限らず、短い文章を通して考える機会を与えてくれる本書。読む本にお困りの方は、ぜひ手に取ってみていただきたい。

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