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筋を通すか、時代に順応するか(城山三郎 『秀吉と武吉』を読んで)

2024年は時代小説から読書初め。

経済小説で名を馳せた城山三郎による1990年刊行の時代小説を。

城山三郎『秀吉と武吉〜目を上げれば海〜』(新潮社、1990年刊行)

──

本書の主人公は村上武吉。

代々海賊として、瀬戸内海の制海権を抑えていた村上家。通行する船から帆別銭(通行料)を取り立てることを生業に栄えてきました。足利家の力は全国に波及せず、近隣諸国の諍いに武力で優ってさえいれば良かった時代が続きましたが、やがて織田信長や豊臣秀吉のように全国統一を本格的に目指す武将たちによって、彼らの「ローカルルール」が脅かされていくという話です。

ざっくりいうと、

信長・秀吉以前:
戦いに勝てば、海のことは自分たちがルールを決められる

信長・秀吉以後:
ローカルルールを排し、中央が決めたルールのもとで統制がなされる(言外に「勝手に海のことを仕切ってはならぬ」と示唆される)

という感じ。信長・秀吉以前の威勢の良さが冒頭描かれながら、無骨に生きる村上家の面々が政局に翻弄されていく様子は、なかなか平穏無事に至らないもどかしさとして痛いほど伝わってきます。

この話の肝は、

・武力で筋を通すか
・知力で時代に順応するか

の戦いだったといえます。

時代は1500年代のこととはいえ、年を経るごとに戦いも政局も近代化を極めていきます。局地戦では敵なしだった武吉も、竹中半兵衛や黒田官兵衛を擁する秀吉の大掛かりな策略には打つ手がありません。(それでも最後まで抗ったとは思いますが)

古い技術に拘泥して破綻してしまった大企業と、新しい技術を進んで取り入れて成功したスタートアップに置き換えて見ることも可能であり、30年以上前の小説とは思えない普遍性を感じる作品です。

……でも、やっぱり秀吉よりも武吉の方が愛したくなっちゃうんだよなあ。経営者としては秀吉から学ばないといけないのは一目瞭然なのですが、「筋を通す」ことにこだわる武吉の姿に、かっこよさを感じてしまうのは僕だけではないでしょう。(実際、秀吉が病に倒れた後、あっという間に徳川に政局を取られてしまいますし)

栄枯盛衰とはよくいったものですが、一度きりの人生をどのように生きるのかを年始から問われたような気分です。武吉にとっての「海」とは、僕にはいったい何に該当するのでしょうか。

──

似たような物語で有名なのは、和田竜による『村上海賊の娘』です。村上武吉の娘が主人公で、どちらかというと戦闘のシーンが多い作品です。

政局の動きが中心だった『秀吉と武吉』に比べ、かなり接近戦の描写が緻密に描かれており、エンターテインメントとしての時代小説として面白さがあります。

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