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二項対立を乗り越えて〜サードウェイ 第3の道のつくり方〜

気が付けば、僕はいつだって二項対立で悩んでいる

・部活(仕事)を続けるか / 辞めるか
・あの子に告白するか / しないか
・ビジネスを取るか / クリエイティヴを取るか
・施策Aを続けるか / 辞めるか
・男性が正しいのか / 女性が正しいのか
・与党を支持すべきか / 野党を支持すべきか
・懐古主義か / 未来志向か
・アンパンマンは正義か / 悪か

瑣末な事柄から、有識者千人を集めても解決しないテーマまで。幅広く展開されるそれらの物事は、いつの間にやら即断即決を求められることもある。

今日も今日とて社内会議でこんなことがあった。僕が企画・運用しているとあるPJについて「これってやる意味があるのか?止めた方が良いのでは?」という指摘が入った。判断を保留していると「やれやれ」と厳しい眼を向けられる。ガタガタと信用が崩れる音がする。

世知辛いなと感じる一方で、若手社員の言い分も理解できる。僕はいわゆる「板挟み」に遭っている。板と板の間にギューっと挟まっているから、もちろん痛い。

僕がジョブズさんだったら一喝していたかもしれない。僕が織田信長さんなら殺していたかもしれない。僕が某党党主だったら卑劣な嫌がらせを仕掛けていたかもしれない。そこまで極端な人たちのことを想像しなくとも、かつて僕が一緒に仕事をしていた上司たちは、この手のジレンマに苦しんでいたのだろうか。もしかしたらこんな風に「板挟み」になっている自分とは違い、いつだって軽やかに処理していたのかもしれない。(「かもしれない」側の人たちにだって苦悩はある / あっただろうが、そこに想像は及ばないのが僕なわけです)

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話が逸れている。本エントリはマザーハウス代表取締役兼チーフデザイナーを務める山口絵理子さんの新著『Third Way 第3の道のつくり方』についての詳述を目的としているが、自分語りが止まらなくなってしまった。

(そして、このまま自分語りで突き通そうと思っている!)

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自分語りは続けるものの「サードウェイ」という言葉の説明は先にしておきたい。本書より引用する。

「サードウェイ」、この言葉は聞き慣れないかもしれない。
いわゆるコーヒーの世界や、ワインでサード「ウェーブ」と言われているものとは違う。私がこの本でお伝えしたいサードウェイは流行に関するものではなく、その真逆、生きるうえで、仕事をするうえでの考え方であり、思想である。
私はそれを「相反する二軸をかけ合わせて新しい道を創造する」と定義している。(山口絵理子『Third Way 第3の道のつくり方』P3より引用。太字は私)
25歳で起業したときから掲げてきた言葉は「途上国から世界に通用するブランドをつくる」だ。「途上国」と「世界」。そして「途上国から」と「ブランドをつくる」。それぞれ相反する二つのものを組み合わせている。
もともと、対立軸にはさまれているブランドだ。
そのミッションを掲げながらものづくりを必死で続けてきた道のりの中で、「中間地点を探るだけでは不十分だ」と何度も、何度も、涙し、苦しんできた。
直面する問題、反発、軋轢、格差、それらを乗り越えて一歩先に進むとき、私にとっての「最適解」は「中間地点」ではなかった。
常に心がけてきたことは、「かけ離れたものだからこそ、組み合わせてみよう。離れていた二つが出会ったことをむしろ喜び、形にしてみよう。これまで隔たりがあった溝を埋めて、新しい地をつくろう」。つまり、バランスを取るのではなく、新しい創造をする思考だ。(山口絵理子『Third Way 第3の道のつくり方』P5, 6より引用。太字は私)

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先ほど言及した即断即決についても考えてみる。その対義語を敢えて挙げるなら優柔不断だろう。

即断即決と優柔不断。

普通に考えれば前者の方が優れている気がするものの、そう決めつけるのを一歩堪えて、「サードウェイ」の考えに即して思考する。

即断即決のメリットはロジカルに物事を判断し続けることだ。ロジカルシンキングという枠組みはビジネスパーソンにとって必須のスキルだから、そのスキームに基づくやり取りは無駄がないし、手練れのビジネスパーソンの集まりであれば議論はブレずに展開されるだろう。ファクトに基づくロジカルが前提だから、そこで決定された意思決定は周りを容易く巻き込めるだろう。ロジカルを企業のバリューとして位置付ければ、議論についていけない人たちを糾弾することも可能だ。

ただし即断即決からは、極めてユニークなアイデアは生まれづらいかもしれない。誰が考えても同じような結果に行き着くことが多い。考えることは誰も一緒、最悪なケースでは商品そのものがコモディティ化しているということもあるだろう。

優柔不断は時間がかかる。判断を保留する。決めかねる。だけど遠回りしながら思考を巡らせる / プロセスを経ることで個人の見解は醸成されていく。意思決定が正しいかどうかはさておき、回り道をしたことで得られた周辺情報が、後に決定的な成功要因としての「何か」を引き寄せるかもしれない。

即断即決と優柔不断。

この二つを「サードウェイ」の観点から組み合わせると、「寝かせる」時間をきちんと設けることによるデザイン・シンキングへの転用に行き着く。あるいは長期的な施策を検討する上で、時間軸をきちんと意識した「流行に左右されない」芯の通ったコンセプトを提示できるかもしれない。短期的な視点による短期的な収益を狙った短絡的なアイデアは軒並み排除されるだろう。

「悩む」のは悪いことばかりではない。スピーディにリスクを取ることばかりが礼賛される社会の中でともすれば迫害を受けている行為 / 行動かもしれないが、それなりの質量で悩み続けることはむしろ健全なことだと僕は思っている。

それは以下に向き合えるからだ。

・なぜこれがしたいんだ?=過去に向き合う
・何をすべきなのか?=現在を全うする
・どのように道筋を立てていこうか=未来を想像する

Why / What / How(For What)をそれぞれ深く思考 / 志向するには、即断即決と優柔不断の良いところを掛け合わせて、徹底的に「モノ」「コト」に向き合い、最善を尽くそうとする姿勢と行動が欠かせない。

やや抽象的になってしまったが、以上が、本書を読んだ現時点の僕なりの解釈だ。コメントがあったら是非いただきたい。

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また縁があって、新著発売に先立つ刊行記念イベントに参加できた。

当日ファシリテーターを務めたハフポスト日本版編集長・竹下さんの「サードウェイ」に関する投げ掛けに対して、山口さんは時間を置いてこう答えた。

「サードウェイ」は既存の価値観ではない。今までなかった新しいもの。二つの相反するものを実際に掛け算するのは時間がかかる。色々な答えが出てくる。『寝かせる』のが大事。私は、いつもねばちっこく考え、行動しています。

「ねばちっこく」

とても鈍臭く聞こえるかもしれないけれど「サードウェイ」を象徴する表現だなと温かい気持ちになった。それが本質なのかもしれない。

ねばちっこく、歩き続けていきたい。


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