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自己陶酔のうた

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記事一覧

恍惚の自己陶酔

幸せだ
君の宇宙が垣間見られる
波のように押し寄せる幸福
ぼくはいつも君の宇宙のゆりかごに揺られ、
ゆらゆらゆらゆら、いったりきたりしている
何も進化がない

そこでぼくは、広く青い海の満ち潮に体を委ね、
塩辛い現実に飛び込むことにした
初めてみる現実 そのなんとも無残な姿は例えようがない
荒んだ人々の目
乾ききった大地
広くて深い絶望が、灰色の埃となって宙を舞う

だがぼくは見慣れない現実の中

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理科の自己陶酔

真夜中、
実験室に二人はいた
ノートを片手に持つ教師
アルコールランプを見つめる生徒
その実験は、全く予想のできないものだった
準備のない予測不可能な実験
危険で、眉をひそめることになりそうな、
あまりに不可解な実験
火の赤さえも答えをしらない
切れかかった蛍光灯と、ほのかに香る理科室の危ない硫黄の香りも
それを知ることはなし

微動だにしない先生
ペンを持たない学生
けれども一つだけ分かっている

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縫いぐるみの自己陶酔

わたしの体の中に、白い綿がはいっている
しろい綿はとてもふわふわなのに、
ああそれなのに、
縫い目が時々痛み出す
ちくちくちくちく
時計の針の音とおんなじリズムで
ちくちくちくちく
サボテンの針とは比べ物にならないほどに
ちくちく痛い
ずきずき心も痛み出す

ああそこにいる女の童がはさみをもっている
はやくこっちへ持ってきて、わたしのあたまのてっぺんから、足の先まで
私の縫い目を切ってちょうだい

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四畳半の自己陶酔

たたみの激しい匂いに狂いそうになる
小麦色の古臭い畳のひっくり返った裏には、
何者かの絶望と、苦渋にみちた表情が敷き詰められているように想像するが、
四畳半の見た目はさほど暑苦しくはない

足裏にこびりつくいぐさのしつこさは、まるで去ってゆく母にすがりつく坊やのようだが、
四畳半に置かれた唯一のちいちゃなタンスは、ツンと澄ました顔である

かけじくなんぞ ありゃせんが
ちゃぶ台なんぞ 見当たらない

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シッポの自己陶酔

ドラム缶の上に背筋をのばして座る黒猫
その顔つきは、とても恐ろしかった
いままでみたことのない野良猫の勇ましい表情
黄色く光るその目はまるで、感情を失くした兵隊のようにどこかへいってしまっていた

よくみると、そのかおには生えるはずのない場所から、放射線上にくろいひげがはえていた
しなやかな体には、とげのようにぴんとたった体毛が、敵を警戒するかのようだった
けれどもシッポがみあたらない
蛇のように

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肥え太の自己陶酔

ぼくの名前は、肥え太。
その名の通り、ふとってる。
でもね、太ってから、いいことがたくさんあるんだ。

まず洋服にアイロンをかけなくていいってこと。着ちゃえば、あら不思議。シワが勝手にのびてくれる。

それと、周りの人が自分をみて安心するって言うんだ。
一昔前、ひどく痩せていた時期があってね。その頃のぼくはいつもせかせかしていて、イライラを当たり散らしたり、周りの人を不安にさせたりしていた。

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音楽の自己陶酔

ギターの美しい音色
その音色に乗せられて
あなたは一曲の音楽という川を
流れて行く
いつの間にか
ある場所へ辿り着いているのだ

繰り返し 繰り返し
満たされたその身体は
何かを成し遂げた後のように
心地よい
そんな音楽のように
人生を生きられたら、
どんなに幸せだろう

その一曲は、完璧なのさ
何も恐れず苦しまず
誰にとっても平等に
ゆめを見させてくれるような、
そんな曲。

誰もが幸せ

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慈悲の自己陶酔

今日、きみとの約束の時間に間に合わなかった
大雨の日だったのに

ざあざあ鳴り響く雨の音の中に、
数え切れないくらい多くの人々の
幸せそうな笑い声があったはずだ
なのに君は下を向いたまま
口元だけにやつかせながらきっと、
ぼくのことだけを想って、独り待っていてくれたんだね
薄黒い空は、君になにもしてくれはしなかったのだろう
ぼくは一時間もおくれてしまった

さむかったよね?
つらかったよね?

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キラーの自己陶酔

君の白昼夢をはじめてみたよ
朝を知らない真っ暗な世界
そこにきらきら光った星の屑を身にまとうおまえがいた
偶然通りがかったわたしに君は
ぎらりとわらって唾を吐いてきた
君に話しかけようとするわたしがいるのだけど、そのたびに君は逃げようとする 

けたけた笑う青ざめた顔の貴女の体は透けているんだ
その姿に見とれていると、
いきなりむこうの方から
何匹ものハエがはえースピードで
わたしをつかまえにやっ

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コドモダマシの自己陶酔

夕暮れ時にけえってくるおやじ
毎日かならず土産さ持って
びいびい泣く子も黙らす土産
おれの土産は世界一
おれのけちさも世界一
こどもが喜ぶ顔が浮かぶが、
同時にがっかりするのも浮かぶんだ
おやじの気苦労しらないこどもは
はてさてもう寝ちまったか

12月、
クリスマスイブに家にいないおやじ
今日こそ必ずまともな土産さもって、
子供の寝床に向かうものの
おやじの足は途中で止まる
大事な土産を何に入

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しぐれの自己陶酔

酔っても寄らない
あの家にだけは
しぐれの音をききながら、
わたしは今にも倒れそう

だれか、毛布をもってきてちょうだい
道端にふとんがしいてあるように見えるが、
あれは違うの?
ここは公園ね 
あすこの砂場がふとんに見えたようだ
ああ、誰もこないようね 
私はもう疲れ果てた
あのように次々と注ぎ足されるビールの泡は、
まるで儚いこのわたくしの命とおんなじ。
ぱっと消えてしまうの うふふ

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ジュテームの自己陶酔

ささくれで埋め尽くされた手
なんて親のいうことを聞かない子なんだ

いたくてかゆくて、死にそうなのに
そんな自分がいとおしい
ああ(je t’aime)
だれかこのいたいけな我がか弱きお手を
救えよ褒めよ、いたわれよ!

それをするのはいったいだれだい?
ジュテーム、それはおまえだ

ミゲルの自己陶酔(芸術の秋の作品より)

ミゲルミゲル、わたしはここだ

常に光りと一体になっている気がするんだ
ここへおいで
ミゲルはここで眠ってる

今にもきえてしまいそうだけど、
ここにいたいんだ
おまえにとって、心地いい場所を
ああミゲル、みつけたよ!

あんたの自己陶酔(芸術の秋の作品より)

あんたはなにも言わずにいっちまった
どこへ?
きっとアマゾンへ。
ずるいよせいこいよみずくさいよ
あんたはあんただろうけど、わたしだってあんたと共にいたい

自分はあんた。あんたはわたし。
アマゾンに食われて、きえてしまえばいいんだ