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2020年に詠んだ短歌まとめ

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(二年目)
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#tanka

短歌 2020年下半期の自選60首「廃油の海を笑顔で泳げ」(後半)

短歌 2020年下半期の自選60首「廃油の海を笑顔で泳げ」(後半)

耳障りな歌だ幼稚だ身勝手だまるであたしの叫びのようだ

テーブルに強く下ろした中ジョッキ彼はじぶんを見つけて欲しい

シナプスの先まで満ちた絶望が目を曇らせる 霧を吐かせる

孤児たちは幾度も噴かすエンジンを叫びのような夜の疾走

気がかりな夢から覚めてまだ蜘蛛がいるんじゃないかと壁を見る朝

豚汁は旨みと濁りの超融合 喰らい飲み干す超木曜日

自然食カフェのトイレの張り紙の筆跡を目でなぞる一分

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短歌 2020年下半期の自選60首「廃油の海を笑顔で泳げ」(前半)

短歌 2020年下半期の自選60首「廃油の海を笑顔で泳げ」(前半)

西暦も終盤となり世界地図を描く夢を追うことは出来ない

「読書です」そう答えたらつぎの句に東野圭吾が出てくる遠さ

隊長も仲間も捕虜も母すらも笑顔のままに欲す殺戮

うつくしいひとから消える病んだ街 廃油の海を笑顔で泳げ

完全なマネキンとなり削られた白いいのちを愛してました

逆上がり出来る/出来ない断つ白線 壁立ち上がる東西ドイツ

受付のひとの語勢が荒れている ポイ捨てされる河川の水面

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短歌 2020年自分が選ぶ今年下半期の4首&上半期の4首(サイトマップ付)

短歌 2020年自分が選ぶ今年下半期の4首&上半期の4首(サイトマップ付)



西暦も終盤となり世界地図を描く夢を追うことは出来ない

うつくしいひとから消える病んだ街 廃油の海を笑顔で泳げ

蝋燭は等しく壕を照らすのに影を見つめて描く肖像

完全なマネキンとなり削られた白いいのちを愛してました

(表面)

詩ではない信号である繰り返す詩ではないもう心臓である

孤児たちは幾度も噴かすエンジンを叫びのような夜の疾走

まなざしが束縛してる眼球のおくに鎖がぎらりと光る

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短歌連作「蝋燭は等しく壕を照らすのに」 10首

短歌連作「蝋燭は等しく壕を照らすのに」 10首

孤児たちは幾度も噴かすエンジンを叫びのような夜の疾走

テーブルに強く下ろした中ジョッキ彼はじぶんを見つけて欲しい

シナプスの先まで満ちた絶望が目を曇らせる 霧を吐かせる

フレディの夢に錯乱するひとがメトロで叫ぶ自傷みたいに

断崖の羊らの見る白昼夢もくもくもくと角は伸びゆく

蝋燭は等しく壕を照らすのに影を見つめて描く肖像

恥部というレンズを通す高僧の眼の下町に紫煙がくゆる

たてごとの音

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短歌連作「西暦も終盤となり」 7首

短歌連作「西暦も終盤となり」 7首

入口と出口は自分で決めなけりゃ囚われていく騒がしい街

西暦も終盤となり世界地図を描く夢をみることは出来ない

説明をする気はないよ八百屋まで銀行強盗しに行く奴に

実によく似ている孤独と疲労とは 路上の灯のすべてが遠い

国王も夜が来たれば独房に戻る 囁く影と向き合う

俯瞰する眼などは持たぬ一角獣は突進のみを規範と信ず

東京駅の出口をさがすまだ聞いていない言葉がトビラをひらく

短歌連作「ミンナデキメタ」 9首

短歌連作「ミンナデキメタ」 9首

「読書です」そう答えたらつぎの句に東野圭吾が出てくる遠さ

言葉につまるのでなく貴方との世界の裂け目につまずいてます

「ふつう」との距離の分だけ翻訳が必要である日→日

教室という回転がはやくなる木曜はやくなるはやくなる

(賛成じゃなく)反対の人は手を挙げろとクラス委員は言った

パーティがマイノリティを射るための正義の呪文「ミンナデキメタ」

協調性なければ罪になるけれど独創性はなくても無罪

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短歌連作「ハサミの魔法」 7首

短歌連作「ハサミの魔法」 7首

駅前に床屋と美容院ならぶ選べるという不自由もある

まりにゃんと呼ばれるひとを呼びにくい文学部棟、浮かびかき消す

早口でいそがしそうだ受話口に吹き込んでくる戦場の風

前置きの「キレイなタオルですので」に光るやさしさちいさく拾う

清新なひかりが満ちる九つの椅子と鏡とハサミの魔法

隣席の女子高生は母親の更年期など笑ってはなす

少しだけ目を閉じますが目覚めたら輪郭を描くように感謝を

短歌 くるしみという聖典 15首

短歌 くるしみという聖典 15首

耳障りな歌だ幼稚だ身勝手だまるであたしの叫びのようだ

気がかりな夢から覚めてまだ蜘蛛がいるんじゃないかと壁を見る朝

中二病のままのじじいの一生は愉快とやんちゃなハットがかたる

豚汁は旨みと濁りの超融合 喰らい飲み干す超木曜日

自然食カフェのトイレの張り紙の筆跡を目でなぞる一分

研修医の友と抗うつ剤を飲むおれの将棋は一手損角換わり

出しゃばった名も名乗れない婆さんに重症と告げられる幻日

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短歌連作「激しく死ぬけもの」 10首

詩ではない信号である繰り返すもう詩ではない心臓である

遠い夏 綾波レイにふれたいと駆け巡る夏 ほんとうはまだ

QUITの脱けたループの反復で倫理は音へ解体されて

もう彼が「拒絶の矢を」と歌っても聞き飽きていてよく聞こえない

飴色のフィルムに在らぬ畑には論理回路でCALLできない

ペンギンという語の像と目の前に直立しているペンギンの差異

本当に失格である人間は記述されないただただ闇の

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