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わたしはわたし

ぷつり。張り詰めた糸が切れるような感覚。私、ここで何していたんだろう。
その日もいつもと同じように出社した。
プルルルル…。「はい、受付です。」
やっぱりと思いながら、急足で玄関へ向かう。案の定、いつもの宅配のお兄さん。お中元がこんなに。そうか、もうそんな時期かと思った。
やりかけの資料作りに戻る。その時だった、「切れた」感覚がしたのは。

ここにはもう居られないかもしれないと、半ば本能的に感じた。その日以来、ひどく背中が痛んで不眠が続いた。
ーもうこの世界から消えてしまいたい。
ベッドに横になっていると度々、そんな衝動に駆られる。でも身体からは生きたいという意思が感じられる。こころとからだが揃わない感じ。
ーわたしだけでも飛び出してしまいたい。
こころからのストレートな声。宥めようとする脳と生きようとする身体。必死に出ていこうとするこころ。それぞれのパワーが拮抗している。わたしの中にもやもやしたものが溜まっていった。

ーわたしとは何なのか。
わたしはこういう人だと言うことはできても、それは私が認識している世界の中の私に過ぎない。これまでの経験やひととの関わりによって形作られている。わたしは形作られた私をわたしの全てだと思っている。でも私の世界の中では、わたしは生きづらくて、上手く取り繕おうとしても綻びが。

ー綻び?
自分で作った世界なのに完全ではなくて、フィット感もまるで感じられない。なぜか。私はわたしの知ったかぶりをしていたから。わたしの扱いやすい部分だけ見て、影の部分を切り捨てようとしたから。

ーわたしはわたし。
私がわたしを理解している、コントロールできると思ったのは傲慢だった。こっちの方がいいはずなんて人の目を気にして歩いていくことで、わたしは私の世界に縛られるようになった。制御できている時には、人と同じ道を行くことに安定と安心を感じていた。わたしの影を少しずつ削りながら。
糸が切れるのは一瞬で、わたしがわたしでなくなってしまう寸前。わたしが私に呑み込まれたら、どうなっていたのだろう。
私から出て行こうとするほどに護りたい、護らなければならないわたしとは一体何なんだろう。

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眠れない夜に

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