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江國香織『すいかの匂い』

京都へ来て一ヶ月。わたしはここで三冊の本を買った。そのうちの一冊が江國香織の『すいかの匂い』である。

東京で24年生きた。その間にいろんな本を読んだ。自分で読みたくて買った本や、人から勧められて読んだ本、学校での推薦課題図書、親から勧められた本、家にあった本、図書館で見つけた本、古本屋で立ち読みした本。すぐに読み終える本もあればそうでない本もあった。

江國香織は今までに一度だけ手に取り、読むことを試みたことがある。その時は初めてできた交際相手とぐずぐずになって別れた頃で、何をしても落ち着かなかった。だから江國香織の文体が合わないとか、物語に没入できないとか、好きじゃないとか以前の問題で、まず文字が認識できていなかった。なのにわたしは最初の5ページくらい読んだ後、合わないわ江國香織、と思って本棚にしまった。その本は『ウエハースの椅子』。

5年くらい経ったいま。本屋さんで背表紙を見てすぐに買ってしまった。表題の力はすごいと常に思う。だって手が勝手に伸びて、お金を支払ってるんだもん。
『すいかの匂い』
うだるような蒸し暑さの京都生活に一抹の涼しさが手元からやってきた。シンプルな表紙ほど好きなものはない。読むのが楽しみであった。

時間を見つけては少しずつ読む。短編集だから、長い時間読み続ける時間が取れない現状にぴったり。本書は「11人の少女の夏の記憶」が描かれている。どれもありそうでなさそうな、夢なのか現実なのかさえ曖昧な幼少時の記憶を、読書を通して追体験した。わたしにもあなたにもあの人にも、きっとこんな曖昧で絶妙な距離感の記憶があるに違いない。懐かしいようで果てしなくこわい。過去を思い出すことは。

ボーイッシュな蕗子さんは総レースの黒い下着で女性らしい丸みを持った体つきであるとか、二つの体を共有している男の子の一人が「それに、ひろしが僕の分も食べてくれるからいいんだ。どうせおんなじ栄養になるんだからね」と言うところとか、そういう箇所がなんだかいいと思った。

どれもトラウマに近いような物語なのだけど、『水の輪』という作品は本当に冷え上がった。
わたしはクマゼミが本当に苦手なのだが、その理由は「死ね」と言ってくる(聞こえる)からなのだけど、それと同じことが書かれていて、なんだ同じこと思う人がいるんだよかったと安心していたら、もっと恐ろしいことが書いてあり、読み終わった後の気持ちといったら最悪で、部屋の中で落ち着きなくウロウロしてしまった。
この作品は次にこの本を手に取るときに飛ばして読むかもしれない。こわすぎる。

かくて、わたしは江國香織への認識を改め、彼女はわたしの好きな作家の一人となった。他の作品も読んでみようと思う。

みなさんもぜひお手にとってみてくださいね。

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