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77年間続いた平和〜短詩(短歌・俳句・川柳)を楽しむ③〜

日本のいちばん長い日 

 8月15日の終戦記念日が又やってきます。終戦の1945年8月15日から数えると77回目の終戦記念日です。とりわけ今年の終戦記念日はロシアのウクライナへの侵攻があり、戦争の残酷さ、悲惨が画面を通して、私達に迫ってきます。


 地球上の人達が、いつウクライナ休戦・停戦が実現するのか、息を呑んで見守っています。 昔からものごとを始めるのは容易ですが、終結を実現するのは困難だと言われております。
 このことは、永年暮らしていた夫婦が離婚するまでの過程を見れば明らかです。
 ましてや、国と国とのもつれから戦争になり、これを終結に持っていくのは、到底、離婚の比ではないと思います。

 日本のこの戦争は、日華事変と呼ばれていた日中戦争から、真珠湾攻撃に始まる米英との戦争の終結まで実に10年にも及んでおり、この10年戦争を終結に導くのは、それはそれは大変なことだったと思います。

 私がこの戦争の終結の経緯を知ったのは、半藤一利のドキュメント『日本のいちばん長い日』を読んでからです。
 この本では、鈴木貫太郎首相ら政府と大本営の首脳部が、天皇を巻き込んで降伏か抗戦かをめぐって激しいバトルが展開されたことをリアルに綴っております。

 この本が圧巻なのは、軍の若手将校らが「5・15事件」そして「2・26事件」に続き、みたびクーデターを企んだことを述べているところです。
 この若手将校らは徹底抗戦を主張し兵力を動員して立ち上がり、戒厳令を目指しましたが、拙速すぎて未遂に終わってしまいました。
 このクーデター未遂事件のことを、宮城事件(きゅうじょうじけん)、終戦反対事件、あるいは「8・15事件」と呼ばれております。

 もし、この宮城事件のクーデターが実現しておれば、戦争はさらに長引き、広島・長崎以外にも原爆が投下され、国民はなお一層地獄の苦しみを味わっていたことでしょう。

 日本の軍部は、この10年戦争を突っ走り「5・15事件」から「2・26事件」そしてこの「8・15事件」の宮城事件に至るまで、好戦的な挑発行動を繰り返し、暴走し、国民を悲惨な戦争に巻き込んできたのです。

 愚かな戦争を繰り返さないために、そして開始された戦争を終結することの困難さを知るために、この『日本のいちばん長い日』を紐解くことを皆様にお勧めします。 
 また、この『日本のいちばん長い日』は、映画にもなっておりますので、本か映画のどちらかで終戦の日のことを学んでいただきたいと思います(1967年、岡本喜八監督作品で東宝、2015年、原田真人監督で松竹)。

那須 乃木神社

生活の中で詠まれた短詩

 次に、終戦の日やその前後を国民はどんな気持ちで迎えたのか、短詩の中から1首(句)ずつ紹介いたします。
 まずは、短歌から紹介したいと思います。

 死ぬる日とまんじゅう楽に食える日と
 二ついずれが先にくるらん
              河上 肇

 マルクス経済学者で『貧乏物語』の著者河上肇博士の終戦間もない頃の1首です。
 戦中・戦後とも食糧統制の時代が続きますが、作者はまんじゅうが好物でいつになったらまんじゅうが楽に買えるのかと詠っております。
 食べることは庶民たると経済学者たるとを問わず、切実であったことがこの1首から伺えます。
 河上博士は、昭和21年1月26日に亡くなっておりますので、まんじゅうが楽に食えることが叶わないまま亡くなったのではないかと思われます。

 次は俳句を紹介したいと思います。

 終戦日妻子入れむと風呂洗ふ
             秋元 不死男

 作者は昭和16年、治安維持法違反で逮捕・検束され、昭和18年に懲役2年、執行猶予3年の判決を受けております。のちに「俳句事件」と称される言論弾圧事件です。
 作者は、終戦の日に詔勅のラジオを聞き、これでやっと「俳句事件」の暗い影から解放されほっとした、と述べております。
 獄中にいる間、迷惑をかけた妻子のことを思い、感謝を込めて終戦の日に風呂桶を洗ったことを何気なく詠っております。

 最後に川柳を紹介します。

 すいとんがご馳走だった終戦日
            磯崎 比偵子


 すいとんは小麦粉の団子を主たる具材にした汁で、戦時中や戦後よく口にしたものです。私の記憶では、出汁(だし)などもろくになかったので、まずかったことを子ども心に覚えております。

 今の子ども達や若いお母さん達は、すいとんなど口にしたことはないでしょうし、この川柳に出会ってもキョトンとすることでしょう。



 降伏か抗戦めぐり攻めぎあう
   ポツダム受諾するまでの日々 (短歌)

 柱抱きミーミーと鳴いた二等兵 (俳句)

 すいとんを尋ねられママうろたえぬ (川柳)

 詔勅に交じりて聞こゆ蝉の声 (川柳)

●参考文献:半藤一利『日本のいちばん長い日』文春文庫




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