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エッセイ[日常とご飯と昔の上海は]

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日々の生きる中に見つける些細なことと、上海で生まれ小学校卒業まで過ごした激動の90年代、急速な様変わりを体験した子供の目に映った時代。
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年取って味覚が変わったので

年取って味覚が変わったので

好きだった食べ物が好きじゃなくなり、好きじゃなかった食べ物を少しずつ好きになってきたことに年齢の重なりを感じた今日この頃。

カップヌードルとケンタッキーとポテチがあれば生きていけると思ってた10代の頃
まさかどれもキツくなると想像すらできなかった。
ケンタッキーが厳しくなったのは30代入ってすぐ。ケンタッキー食べ放題に憧れていたのに、4pcでちょっと気持ち悪くなったのが衝撃的だった。あんなに好き

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90年代初めの上海

90年代初めの上海

90年代初め、上海は激動の時代だったらしい。

私は子供だったけど、人攫いが多かったので外で子供同士で遊べるわけでもなく、一人っ子だったし、遊ぶ相手も話す相手もずっと大人たちだった。アニメはスマーフ、漫画はタンタンとミッキーマウスと、「三毛流浪記」を愛読する子供だった。
時代の意味はわからないが、大人たちがこぞつて浮き足立つのは理解できた。

***

証券取引所が開設された。誰々のおばさんがいく

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[エッセイ]可哀想なササ

[エッセイ]可哀想なササ

(犬が怪我をする話です)

小3の時に、同居していたお爺ちゃんがチャウチャウだと言ってもらってきた犬は雑種犬だった。

その子犬はふわふわの焦茶の巻き毛で、ところどころに金色の斑点があって、それはチャウチャウの特徴だとお爺ちゃんは嬉しそうに言った。お爺ちゃんは寡黙な人で、滅多に笑わないし、それどころかいつも怒っているか、まじめ腐った顔で人民大会堂の会議を映したニュースを見るかだった。
でもそのお爺

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[エッセイ]ティッシュがなかった街の話

[エッセイ]ティッシュがなかった街の話

幼稚園の時、家にティッシュがなかった。
別に親がアンチティッシュの信仰を持っているとかじゃなくて、全上海人民がおそらく家にティッシュがなかった。90年代初めであった。

私は毎日安全ピンで薄手のハンカチを胸に留めて幼稚園に行った。ティッシュがないので鼻をハンカチでかんだ。鼻水はすぐにカピカピになるので、ハンカチのカピカピになっていないところを探してまた鼻をかむ。そうして柔らかなハンカチが鼻水の塊に

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[エッセイ] 熱い牛乳の話

[エッセイ] 熱い牛乳の話

クウネルマダムもすなるエッセイというものを、海抜0メーター地帯に棲むサラリーマンもしてみむとてするなり。

先週武田百合子のエッセイ集を買った。武田百合子という人を知らなかったが、挿絵の野田ユリの絵が魅力的だったのと、食べ物にまつわる話だったので買ってみた。さっそくウィキって見ると武田百合子は武田泰淳の奥さんだった人で、クウネルマダムに絶賛されているエッセイストだそうだ。武田泰淳もよくわかっていな

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