藤田 正雄

学生時代に有機農業の露地栽培イチゴを農家に勧められるままに畑で食べた味が忘れられず、有…

藤田 正雄

学生時代に有機農業の露地栽培イチゴを農家に勧められるままに畑で食べた味が忘れられず、有機農業に関わる仕事に従事しました。これまでに経験した有機農業の基本技術、有機農業を支える土のこと、有機農業が広がるために必要なことなどを紹介していきます(アイコンはヒメミミズの卵胞)。

マガジン

  • 土を育てる生きものたち

    土の中には多くの生きものがいます。 有機農業を行うには、その生きものの性質を理解し、配慮した管理を行うことも必要です。農地土壌に棲息する生きものを通して見えてきた、土と作物の間で活躍する生きものの世界を紹介します。

  • 安定同位体比を用いて農地生態系の食物網を探る

    土壌動物の種間の関連や機能を明らかにし、農地生態系の食物網構造を正確に把握することは、そのはたらきを栽培に活かすうえで重要です。 一般に多くの動物では、体の炭素安定同位体比は餌とほぼ同じか、体の方が1‰(パーミル、1000分の1)程度高く、餌と動物の窒素安定同位体比の差は3-4‰であるとされ、この関係を用いて農地生態系の食物網構造の研究が可能であると考えられます。 土壌動物の餌および糞や植物と土壌の窒素安定同位体比を比較し、これらの関係を明らかにしながら農地の食物網構造を明らかにしていきます。

  • 不耕起栽培の可能性を考える

    不耕起栽培とは、一連の栽培管理のなかから耕耘や整地の行程を省略する方法です。 したがって、植物残渣をすき込むことがなく、有機物の集積層が主に地表面に形成されるという特徴があります。 この有機物集積層が土壌動物や微生物の餌や生息場所となり、作物栽培に欠かせない土壌環境の形成に役立っています。 ここでは、不耕起栽培によりもたらされる栽培上の長所を伸ばし、短所を小さくする方法を紹介します。

  • 緑肥作物の活用方法を考える

    緑肥作物の利用法には、収穫を目的とする主作物と栽培期間をずらす方法と、主作物の栽培期間中に畝間に緑肥を栽培する方法があり、主作物と緑肥作物との組み合わせを変えることで、さまざまな導入方法が考えられます。 ここでは、農地に有機物(腐植)を確保しながら、生物の密度を高めるなどの効果を紹介します。 有機農業実施者の緑肥作物を活用した栽培のヒントになることを願っています。

  • 有機農家を訪ねて

    有機農業実施者に接し、学んだことを紹介します。 これから有機農業を始める方には、栽培管理はもちろん、有機農業に取り組む姿勢、考え方を参考にしていただければと思います。

記事一覧

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有機農業を科学する~すべてはいのち育む土から始まった

有機農業の研究機関、有機農業を推進するNPOで働き、約50年、多くの研究者、自治体職員、実施農家などにお会いしてきました。 現在も、菜園にて畑の生きものとともに野菜づ…

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3か月前

大地のプランクトン―トビムシ

土壌中に多数棲息し、しかも体が小さく軟らかいトビムシは、多くの捕食性土壌動物の餌となり、畑地の複雑な食物網の形成に重要なはたらきをしています。 トビムシとは ハ…

藤田 正雄
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有機物の分解は微生物と動物の相互作用 ワラジムシの摂食活動

落ち葉などの有機物の分解に関与するワラジムシ類は、畑の生物相の豊かさをみる指標動物として捉えることができます。 有機物の分解過程に微生物と動物が関与している 大…

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有機柑橘を主幹別隔年交互結実方式で栽培する菊池正晴さん

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有機物の分解に関与するヤスデのはたらきとそれを活かす栽培

ヤスデ類は、ミミズ類と同様、有機物の分解に関与し、畑の土づくりに重要なはたらきをしています。 ヤスデの幼虫と成虫では餌が違う ヤスデ類の分解者としての特徴は、食…

藤田 正雄
12日前

新規就農者が1年目にすべきこと

最初の1、2年は準備の時期と心得、畑と作物のクセを知るとともに、土づくりに重点を置いた出費の少ない栽培を心がけることが大切です。 就農希望者にとって、研修先とは …

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日本で初めて「オーガニック牛乳」を生産した酪農家グループーー北海道津別町

津別町有機酪農研究会は、「有機酪農を実践し、有機牛乳生産を目指そう」と、北海道、津別町、JAつべつなどの協力を得ながら、試行錯誤の末、日本で初めて「オーガニック牛…

藤田 正雄
2週間前
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有機農業への転換時期を見極める、指標とは?

収量・品質を落とさずに慣行農業から有機農業に転換するために必要なことは? 作物の栽培に化学肥料や農薬が欠かせないと考えている農家に、有機農業の本質(しくみ)を理…

藤田 正雄
3週間前
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有機部会にJA、市、県が支援――鹿児島県姶良市

鹿児島県姶良市の有機農業に取り組む農家数は現在約40戸。市には毎年就農希望者があり、年々数世帯の有機農家が誕生しています。 この成果は、30年以上も前に農家主導でJA…

藤田 正雄
3週間前

不耕起栽培畑では、集中豪雨時に土壌の排水性を保持

不耕起処理で土壌の排水性が良かったのは、ミミズ類などの土壌動物の土壌への継続的な作用と動植物由来の孔隙の維持が土壌の物理性の改善に寄与したと考えられます。 排水…

藤田 正雄
4週間前
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農産物の品質は、どのように決定されるのか?

科学的データにもとづいた有機農産物の品質解明への期待は大きく、「有機農産物の味や香りの特徴がどのようなものか、その特徴はどのような経路をたどって形成されるか」と…

藤田 正雄
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地温の変化を和らげる緑肥間作の効果

緑肥間作が、地温の上昇を和らげ、生きものにとっても棲みやすい環境を創出していることを紹介します。 緑肥間作は地表面を保護し有機物を供給する 緑肥間作を導入した栽…

藤田 正雄
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コウノトリが認めた「野生復帰」の取り組み――兵庫県豊岡市

2015年10月、兵庫県豊岡市を訪問し、自治体とJAおよび農家が協力して推進している「コウノトリ育む農法」の取り組みを取材しました。 この取り組みをコウノトリが評価し、…

藤田 正雄
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農薬禍を自分の身体で確認した梁瀬義亮さん

奈良県五條市の開業医として農家の奇妙な病状を農薬禍と診断されたのは、1950年代後半。食べものと健康のつながりへの関心をきっかけに有機農業を実践された財団法人慈光会…

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不耕起栽培の長所を生かし、土の機能を引き出す

不耕起栽培には、多くの長所があるにも関わらず、実施している方は限られています。そこで、不耕起栽培の長所を伸ばし、短所を小さくする方法を紹介します。 不耕起栽培の…

藤田 正雄
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土から生まれ、土に還る―安定同位体比から見える動植物の連鎖

畑地の動植物は、土壌を起点とした栄養分を利用し、再び土壌に還元されていきます。 動植物が、畑地で窒素や炭素の物質循環に関与していることを炭素および窒素安定同位体…

藤田 正雄
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有機農業を科学する~すべてはいのち育む土から始まった

有機農業の研究機関、有機農業を推進するNPOで働き、約50年、多くの研究者、自治体職員、実施農家などにお会いしてきました。 現在も、菜園にて畑の生きものとともに野菜づくりに勤しんでいます。 noteでは、今までに有機農業について知りえたこと、経験したことを、より分かりやすく発信し、これから有機農業に関与される方々の参考にしていただきたいと考えています。 有機農業実施者の栽培管理をヒントに、人と自然の関わり方を工夫し自然の力を活用する栽培管理を科学的知見をもとに紹介していき

大地のプランクトン―トビムシ

土壌中に多数棲息し、しかも体が小さく軟らかいトビムシは、多くの捕食性土壌動物の餌となり、畑地の複雑な食物網の形成に重要なはたらきをしています。 トビムシとは ハクサイなど葉物の収穫残渣と土壌との間に白い小さな虫が多数いるのを見られた方もおられるでしょう。これが、トビムシ(図1)。森林や畑地の節足動物のなかで、ササラダニ類とともに最も多くみられるグループです。 トビムシ類は、翅をもつようになる前の原始的な昆虫で、「飛ぶ」ことはできません。しかし、跳躍器を持ち、ジャンプをし

有機物の分解は微生物と動物の相互作用 ワラジムシの摂食活動

落ち葉などの有機物の分解に関与するワラジムシ類は、畑の生物相の豊かさをみる指標動物として捉えることができます。 有機物の分解過程に微生物と動物が関与している 大きさや餌の異なるさまざまな土壌動物が土のなかで生活しています。地表に堆積する落ち葉などの有機物は、土壌動物に生活の場を与えるとともに、それ自体が餌となります。 ヤスデ類やワラジムシ類のような動物はこれらを食べ、未消化の状態で排泄します。この過程で、食べられた落ち葉などの有機物は、細かく、こなごなに砕かれます。そして

有機柑橘を主幹別隔年交互結実方式で栽培する菊池正晴さん

畑作物に比べ多くの病害虫が発生しやすいため、有機農業では困難とされている永年作物の栽培事例です。 2013年9月に、柑橘とキウイフルーツを有機農業で栽培している愛媛県八幡浜市の菊池農園・菊池正晴さんを訪問しました。 省力化と品質向上を実現した剪定法 菊池さんは、柑橘を主幹別隔年交互結実方式を採用し、省力化を図りながら、品質面でも安定した栽培を行っています。 菊池さんの主幹別隔年交互結実方式とは、1本の樹を生産する幹と生産しない幹とに分け、2年に1度交互に収穫を行う栽培方

有機物の分解に関与するヤスデのはたらきとそれを活かす栽培

ヤスデ類は、ミミズ類と同様、有機物の分解に関与し、畑の土づくりに重要なはたらきをしています。 ヤスデの幼虫と成虫では餌が違う ヤスデ類の分解者としての特徴は、食べ物が発育段階で異なることです。土壌中で生活する幼虫は、土壌中の腐植を餌として利用し、齢を重ねる(7回の脱皮)ごとに大きくなり、土壌中に穴を掘り通気性、排水性を良くするなど物理性の改善に寄与しています。脱皮時には、土壌を使って脱皮室をつくります。したがって、ヤスデ類が生活できるには、土壌構造が破壊されない安定した環

新規就農者が1年目にすべきこと

最初の1、2年は準備の時期と心得、畑と作物のクセを知るとともに、土づくりに重点を置いた出費の少ない栽培を心がけることが大切です。 就農希望者にとって、研修先とは 新規就農後に安定した経営ができるかは、当事者である研修生と受入農家の研修内容が大きく影響します。 新規就農者がどのような経営を目指すのかによって、営農スタイル、主な栽培品目、販路まで多くのことを身に付ける必要があります。 就農したい(住み続けたいと思える)地域を選ぶことはもちろんでですが、誰のもとで研修を受けるか

日本で初めて「オーガニック牛乳」を生産した酪農家グループーー北海道津別町

津別町有機酪農研究会は、「有機酪農を実践し、有機牛乳生産を目指そう」と、北海道、津別町、JAつべつなどの協力を得ながら、試行錯誤の末、日本で初めて「オーガニック牛乳」を生産した酪農家のグループです。 網走湖の水質汚濁を機に環境改善に取り組む 北海道津別町は畑作と酪農がさかんな町。 化学肥料・農薬や大型機械に依存した大規模農業を追求してきた結果、町内を貫通する網走川下流の網走湖の水質汚濁を引き起こすことになりました。 そこで、1995年に「網走湖浄化対策事業」が開始され、微

有機農業への転換時期を見極める、指標とは?

収量・品質を落とさずに慣行農業から有機農業に転換するために必要なことは? 作物の栽培に化学肥料や農薬が欠かせないと考えている農家に、有機農業の本質(しくみ)を理解していただき、農地の生物密度を高めたうえで、有機農業への転換を図ることが必要です。 化学肥料や農薬を使用しないから必要としない生産システムへ 2006年に施行された「有機農業の推進に関する法律」において、有機農業とは「化学的に合成された肥料および農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本とし

有機部会にJA、市、県が支援――鹿児島県姶良市

鹿児島県姶良市の有機農業に取り組む農家数は現在約40戸。市には毎年就農希望者があり、年々数世帯の有機農家が誕生しています。 この成果は、30年以上も前に農家主導でJA管内に「有機部会」がつくられ、自治体やJAが支援しやすい組織として生産から販売、消費者との交流などの活動を継続してきたことによると考えられます。 JA管内に有機部会が設置 旧姶良町(2010年に姶良郡3町が合併し姶良市)では1970年代中ごろより有機農業の実施者が現れ、1989年に「姶良町有機農業研究会」を発

不耕起栽培畑では、集中豪雨時に土壌の排水性を保持

不耕起処理で土壌の排水性が良かったのは、ミミズ類などの土壌動物の土壌への継続的な作用と動植物由来の孔隙の維持が土壌の物理性の改善に寄与したと考えられます。 排水性に優れた不耕起 長野県松本市の耕起法を比較した畑では、2004年10月の台風23号による豪雨時に冠水しました。土壌の排水性は耕起処理に比べて不耕起処理で良く、有機物の集積層では冠水はしませんでした(図1)。 豪雨後の土壌の気相率(排水性の良さ)に差 台風23号(10月19-20日)による豪雨後の10月22日に

農産物の品質は、どのように決定されるのか?

科学的データにもとづいた有機農産物の品質解明への期待は大きく、「有機農産物の味や香りの特徴がどのようなものか、その特徴はどのような経路をたどって形成されるか」という消費者の疑問に対して、客観的な説明が求められます。 ここで紹介するように、有機農業で栽培した農産物が必ずしもその品質を保証するものではありません。まずは、自ら「美味しい」と思える農産物の栽培に心がけることが大切だと思います。 有機農産物の特徴 有機野菜には、 包丁で切ると、バリバリと音がするほど硬いが、よく

地温の変化を和らげる緑肥間作の効果

緑肥間作が、地温の上昇を和らげ、生きものにとっても棲みやすい環境を創出していることを紹介します。 緑肥間作は地表面を保護し有機物を供給する 緑肥間作を導入した栽培では、主作物を栽培しながら、土壌の侵食を防ぎ、地表面を保護し、土壌動物の餌や生息場所となる有機物を生産補給できるなどの利点があります。しかし、緑肥作物を単作してすき込む方法に比べて実施者が少なく、その導入方法について十分な理解が得られていないのが現状です。 緑肥間作導入が地温に及ぼす影響 長野県松本市の畑で、

コウノトリが認めた「野生復帰」の取り組み――兵庫県豊岡市

2015年10月、兵庫県豊岡市を訪問し、自治体とJAおよび農家が協力して推進している「コウノトリ育む農法」の取り組みを取材しました。 この取り組みをコウノトリが評価し、現在では豊岡市だけでなく日本の野外で400羽近くのコウノトリが暮らすようになりました。 コウノトリの野生復帰への取り組み 兵庫県豊岡市の中央部を流れる円山川に沿って湿地や森林、水田、中洲などが発達。このような自然環境は、鳥類をはじめ多くの生物に豊かな生息環境を提供しています。しかし、土地改良事業や河川の改修

農薬禍を自分の身体で確認した梁瀬義亮さん

奈良県五條市の開業医として農家の奇妙な病状を農薬禍と診断されたのは、1950年代後半。食べものと健康のつながりへの関心をきっかけに有機農業を実践された財団法人慈光会の梁瀬義亮(やなせぎりょう、1920-93)さんを訪ねたのは、1987年5月でした。 直営農場にも案内いただき、畑の土壌動物相を調査させていただきました。 農家の病状を診断し、自ら農薬禍を体験 梁瀬さんは、診察に来られる農家の臨床状態を整理し、当時使用されていたホリドールをはじめとする農薬が人体に慢性中毒症状を

不耕起栽培の長所を生かし、土の機能を引き出す

不耕起栽培には、多くの長所があるにも関わらず、実施している方は限られています。そこで、不耕起栽培の長所を伸ばし、短所を小さくする方法を紹介します。 不耕起栽培の長所と短所 不耕起栽培とは、作物を栽培する際に通常行われる耕起を省略し、作物の刈り株、わらなどの作物残渣を田畑の表面に残した状態で次の作物を栽培する方法を言います。 不耕起栽培は耕起栽培に比べ、作業時間が短縮でき、省エネルギー的であるとともに、土壌浸食(風食、水食)を抑制し、土壌水分の湿潤性や保水性に優れるなどの

土から生まれ、土に還る―安定同位体比から見える動植物の連鎖

畑地の動植物は、土壌を起点とした栄養分を利用し、再び土壌に還元されていきます。 動植物が、畑地で窒素や炭素の物質循環に関与していることを炭素および窒素安定同位体比を比較することで明らかにしました。 有機農業・不耕起畑に棲息する動植物の関係 採取された動植物および土壌の窒素および炭素安定同位体比を比較すると、C3植物およびC4植物を起点とした生食連鎖および腐植を起点とした腐食連鎖が、三角形の3つの頂点を形成し、その中心に土壌があることが分かります(図1)。 C3植物とC4