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孫は祖父より1億円損をする? -世代会計という視点 【 老後2000万円問題 】


突然ですが、私は税理士として、対お客様の仕事以外にも、「租税教室」という活動に取り組んでいます。

力を注いでいる理由はいろいろありますが、大きく2点。

1つは、自分の子供が小さいこと。私利私欲な理由で申し訳ないのですが、将来世代に少しでもよい世の中であってほしい。そんな願いです。

2つ目は、数々の本に影響を受けた結果。今回はその中でも、約10年前に出会った「世代会計」という視点の本を紹介します。

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♦ きっかけ

今回紹介したいと思った理由は、この朝一の日経記事にあるように参院選の争点化してしまった「老後2000万円問題」

私もnoteに私見を書きました。

私のnoteを要約すれば、年金だけで生活することはそもそも困難であろうし、個々の生活水準でその目安も大きく変わる。年金制度の是非を問うなら、今年公表される「財政検証」を見てから、しっかり議論すべきという趣旨です。特にインパクトのある2000万円が独り歩きして、選挙のネタ化していることが残念ということを記しました。

その後、色々な意見を私も拝読していたのですが、非常に近い意見の先生がいました。

それが島澤諭先生です。

名前を見て、あぁ、私はやはり影響を受けているのだな・・と実感。

先に書いた租税教室に熱心に取り組みたい、と思ったキッカケの書の1つ、「孫は祖父より1億円損をする」の著書なのです。私のnoteは一般人が一般論を記しただけなので、学者の先生と非常に意見が近い・・というのは畏れ多いこと。むしろ私が島澤氏の考え方を10年前吸収していたからこそ、そんな発想になったのだと思います。

今回、noteで紹介しようと思い、久々に読み直しました。

10年前の本ですが、本質的なところは今回の記事と変わりません。というか、10年前から、今回の件は、ずっと主張しているということです。ですので、記事を読んで「世代会計」やマイルドシルバー民主主義という思考に興味があれば、とてもお勧めな書です。

世代会計とは、政府を支える負担をし、政府から樹液を受ける国民と政府との関係において、どの世代が得をし、その世代が損をするのかを金銭的に評価する枠組み・・略

とあり、具体的な計算式や結果が示されています。

孫は祖父より1億円損をする 世代会計が示す格差・日本, 島澤諭・山下努,朝日新書,2009年

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♦ 本の紹介(推薦図書)

この本が印象に残っている理由は2つあります。

1つは、表現。タイトルもインパクトがありますが中身も痛烈です(共著なので、すべてが島澤氏の表現ではありません)。

「孫の名義のクレジットカード」をきりまくっている状況であり、ツケの返済を将来世代に押し付け、若者や子供をだまして、明るい未来を奪い取る「ワシワシ詐欺」・・(11頁)
老人の、老人による、老人のための政治(127頁)

※ あくまで、筆者(私も)は、「高齢者が悪」だとは一切言っていません。そうではなく、選挙の現況や、社会保障制度自体が、高齢者が結果的に「悪」となってしまう状況にある、という問題提起です。

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2つ目は、代替案の提案。社会問題に言及する本はたくさんあります。ただ、なかなか改善策、代替案を提案しているものは少ないと思います。この本は、非常に多くの提案があります。例えば、以下のように。

政府の債務を「誰が」払うのかという問題を答えるためには、「どの世代」が払うのかだけではなく、「その世代の誰が」払うのかについても考えなければなりません。・・この場合、高齢者から若年層への所得再分配(世代間所得再分配)が支持されるとともに、裕福な高齢者から貧乏な高齢者、裕福な若年者から貧乏な若年者への所得再分配(世代内再分配)策も併せて支持されるでしょう。(93頁)

(この思考は、後期高齢者医療制度のような枠組みを充実させるべきというものです。)

年齢別選挙区制度の導入。(153頁)

(若者の選好を政治の現場に届けるべく、青年区、中年区、老年区という年齢別選挙区を導入するという方法を紹介しています:引用元は井堀利宏教授)

「世代間格差調整法」の制定(176頁)

(調整法を法令化し、政治家や官僚から独立した機関を創設。年金制度等を評価、監視していく体制を強化すべきという趣旨です。)

こういった提案はすべて賛成というわけではないですが、非常に多角的に研究されている。と、それだけで印象に残りました。その後、新しい本もでていますが、本テーマのスタートとして今回推薦しました。

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♦ まとめ

老後資金2000万円問題は、我々の生活だけではない。将来世代のためにも、個々の資産運用というレベルの次元ではなく、税制や社会保障制度の議論が必要です。

金融庁の報告書自体は、資産運用の会議のものなので良いと思います。問題は国会での議論レベルです。年金制度が持続可能か否か、それだけの問題ではなく、「世代間公平」という大きな視点が必要だと、改めて思いました。

財政制度等審議会財政制度分科会の「令和時代の財政の在り方に関する建議(令和元年6月19日)」(概要)

この建議の1つ目が、単に努力目標で終わらず、本格的な議論が求められると思います。(税理士としては、2つめの「甘い幻想・・」というテーマに関し、日々問題意識を持ちながら税制を見つめたいと思います。)

#COMEMO #NIKKEI

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