岩渕 想太
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私はなぜ印鑑を失くすのか
よく印鑑を失くす。執拗に失くす。マネージャーに今日は印鑑を持ってきてくださいと言われ、ぎくっとする。前回は何で持ち出したんだっけ、記憶を巡る旅が始まる。あの日着てた服、あの日持っていた鞄、帰ってくるなり鍵を置くトレイ、とりあえず重要なものを入れておく癖のある引き出し。あらゆるところを探すが見当たらない。切羽詰まった時の探し物は、探せば探すほど苛立ちが募る。ここにもない、そこにもない。ありそうだと期
もっとみるあ、そのマスにも駒置けるんや
アートの本質ってか、俺が「アート」と表されるものから受け取ったものは全て「あ、そのマスにも駒おけるんや」に還元されると思っている。
例えば、小津安二郎の映画を観て、「あ、その場所にカメラ置いていいんや」と思うことや、The Strokesの音楽を聴いて「あ、こんなにスカスカなのに美しいんだ」って思うこと。そんなことを思うことのために俺は「アート」と呼ばれるものが存在していると思っている。
こな
「なんか、バスの待合室みたいやな」
「なんか、バスの待合室みたいやな」
大見が言った。
大見はサポートドラムで、場所は名古屋のライブハウス。椅子が等間隔に置かれた出番前の楽屋は、座れる席がないほど混み合っているのに、水を打ったようにシーンとしていて、確かにバスの待合室みたいだった。
バンドマン同士は、出番前多くの話をしない(例外は勿論あるけれど)。皆、ライブを控えて、静かに各々の時間を過ごしている。
バスの待合室。
出番の
展示「街ゆく顔たち」
カメラマンの上原俊と二人で「街ゆく顔たち」という展示をします。
「街ゆく顔たち」
開催期間:2022年2月1日(火)~2月13日(日)
会場:歌舞伎町人間レストラン
入場料:チャージ500円 1オーダー制
岩渕が街を歩く人々に対して想像した物語と、実際に聞いた物語。
上原が捉えた「街ゆく顔たち」の写真たち。
【概要】
今日も「街ゆく顔たち」の準備をしている。昼過ぎにカメラマンの俊と合流する
歴史の上に立っとるわ
バンドとしては2年ぶりに全国各地を回った。北から順に、札幌仙台名古屋神戸広島福岡。色んな街に行った。ライブが終わると、すぐに片付け、マイクのウインドスクリーンを洗い、ギターをしまい、次の街へ向かう。機材車に揺られながら、明日のことを考える。窓の外の星を見上げるなんて歌にあるようなことはしない。ただ、疲れ果てて寝ているか、運転しながら前の車だけを見ている。2年前には当たり前だった、日々の風景。
よ
「無視されてるやん」
先日、よく行く銭湯の脱衣所で髭もじゃのおじさんが壁の向こうの女湯脱衣所に向かって大声を出していた。
「バスタオルあるかー?なかったら貸すぞー」
壁の向こうからは一向に返答がなく、おじさんは何度も呼びかける。
「バスタオルあるかー?」
「おい、聞こえてるかー?」
「もう俺出ちゃうぞー!」
「いいんだなー?」
段々と声を荒げていくおじさんと、二人きりで同じ脱衣所にいた私はどうしようもなく気まず
パン屋やったらいいな
家の近くに内装工事中の建物がある。毎日ランニングする時に中を見るのだが、通りから向かって右側半分は厨房のような雰囲気。大きな机がどーんと置かれ、今は恐らく換気扇系統の工事をしている。左側半分には四方に三段ほどの棚があり、奥の方には冷蔵ショーケースのようなものも置いてある。中央には茶色のカウンターがあり、ウッディな雰囲気。通りと、建物の中を隔てるのは一枚の分厚いガラス。工事中の建物の全貌が見渡せるよ
もっとみるRodeoについて、最近について
新曲「Rodeo」をリリースしてから、2週間が経つ。
「Rodeo」について、語り尽くせなかった部分をいくつか話そうと思う。
曲
最初にデモを作ったのは、2020年の1月頃。
喉の手術前、沢山デモを作った中にあった曲だった。
できた時期としては「On the Road」と同じ、それより先か。
自分なりにかなり手応えがあって、スタジオに持っていって聴いてもらう。
メンバーの反応は正直そんなに良
14.visitor
visitor 今日だけは俺はvisitor
家の隣の路地を観光する
渋谷の交差点の写真を撮る
丁寧に置かれたコーヒーカップも
照れながら笑う君の顔も
まるで初めて出会ったかのように撮る
visitorは歩く
知られざる街角へ
知られざる夕焼けへ
知られざる洋食屋の
知られざる排水溝
知られざる家の知られざるベッドに
今まさに初めて寝転んだ!
visitorとしての夜が更ける
知られざる月