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脳内日記

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振り返る大人

我が家のマンションの通路はひどく狭く、長く、暗い。歩いていると後ろから誰か付いてきているのではとおっかない。幼い頃は夜にその通路を歩くことが非常に怖く、三歩進んでは後ろを振り返り、自分の足音に自分で耐えられなくなって、部屋番号まで走っていくということが何度もあった。

さすがに成人してから何年も過ぎ、階段の登りで地球の酸素濃度を数パーセント下げるほど息が切れるようになってからは、振り返ることはなく

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美容師ギャンブル①

私には、3ヶ月に一度ほど髪の毛の限界が来た頃に通っている行きつけの美容室がある。

しかし、そこの美容室にはある一つの問題があった。

美容師の三人のうち二人が外れなのである。
大体私が行く時間帯は休日の夕方頃なのだが、特に指名をせず店内に赴くと大体いつもいる三人の美容師の中から選ばれる。そして3分の2の確率で外れだ。

では何故指名をしないのかと言われると、お金が追加でかかるからだ。散髪代は意外

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これを読んでいるということは。

これを読んでいるということは。

最近、腹が立つことがある。何に腹が立つか、それは蜘蛛である。

私の三大嫌いなものは虫、飛ぶもの、めんどくさいことだ。ちなみに飛ぶものとは、鳥とか、飛行機とか、輝いた瞳をしたこれから羽ばたかんとする人とかである。まあそれは置いといて私は虫が嫌いである。

中学受験の際、第一志望を決めるために父親と色々な学校をめぐっており、野球の強い気に入った学校を見に行ったが(私は野球が好きだった)通学途中の並木

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犬の散歩ではなく散歩について行く犬

家までの帰り道、たまには歩くかと一駅手前で降りた。信号を待っていると老夫婦が穏やかに会話をしていた。おじいちゃんは腕を後ろに組み、その手に握られたリードの先には子犬が信号を見つめていた。

なんとなく子犬を見ていると、信号が青になったので、老夫婦の後ろをゆっくり歩き出した。するとなんとなく違和感があって、これはなんだろうとしばらく子犬を見て、気づいた。

犬がずっと老夫婦の後ろを歩いている。

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ホテルイカ

ホテルイカ

時刻は深夜12時。
洒落たバーのカウンター席で一人、私はしっぽりと、右の奥歯に挟まったホタルイカの燻製を剥ぎ取ろうとしていた。

癖のあるカクテルを口に含むと、干からびたホタルイカの体内に水分が駆け巡る。味付けの塩分がホタルイカの体外へ染み出すと、たちまち口内は海となった。私は頬を吸い込み人工的に荒波を作り出し、ホタルイカの救出を試みた。

海外の大学は入るより出る方が難しいとよく聞くが、わざわざ

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寄席

文化の日。ということで出向いた新宿三丁目。
どこに行ったかというと、末廣亭、つまりは寄席に行ってきた。

落語というと風情があるように感じるが、今までの私にとってはそんなものどこ吹く風、ただの子守唄に過ぎなかった。ただ文化の日という事もあるから、それっぽい娯楽がないかと考えて思い付いた。

学生の頃に課外活動的なので落語だったか歌舞伎だったかを見たことはあるが、落語だったか歌舞伎だったかも思い出せ

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ゴミ拾い

ゴミ拾い

 深夜二時過ぎ、満月かもしれない夜だった。コンビニでのアルバイトを終えて帰路の途中、道なりの先、私は歩道と車道の隙間に何か白い点々が浮いているのを見た。歩き進めると輪郭がぼんやりと浮かんできて、それは猫のようだった。白い点々はおそらく目で、こちらを捉えている。さらに近づいても猫は一才顔を動かすことはなく、鳴き声を上げることもなく、走り去ることもなかった。珍しいと思いながら対象までの距離が数メートル

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