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その言葉で、

その言葉で、

津村紀久子さんの「君は永遠にそいつらより若い」を読んでから3ヶ月あまり。一日も頭から離れることはなく、読後の衝撃の余韻を今日も引きずっている。

「その言葉でじゅうぶんだと思う」
この台詞は小説にはなくて、刊行からおよそ20年ほど経って映像化された映画で書かれたもの。けれどこの小説を読む上で、これほどまでにこの作品が存在することで救われる心があることをを表せる言葉はないだろうなという光のような台詞

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「お前が決めてええねん」

「お前が決めてええねん」

よくないなあと思いながらも、本を読む体力や気力を起こせないまま季節を横断してしまったこの3ヶ月。
難読ってわけではないのに、なかなか進まぬページと睨めっこしながら久しぶりに読んだのは、西加奈子の『おまじない』。

ようやっと読み終えたときに泣きそうになったのは、他者からの言葉や望まぬ経験を呪いとして自分自身を絡めていた何かが、少しずつ解けていく感覚があったからかもしれない。

日常を生きるためには

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営みと再生

営みと再生

20歳で出会った吉本ばなな作品。「5年経った今の自分はどんなふうに読むのだろう?」思い立って再読に勤しんでいる読書の秋。

事故に遭い、生死の境にある世界を彷徨って意識を取り戻した小夜子。生き別れた恋人との繋がり、事故後に見えるようになった幽霊とそれを機にはじまった新しい日常…。

どんなに大きな悲しみや痛みに襲われても、生きている限りは無情にも日々は続く。
(自分にとってどんなに大きな存在の人を

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感受の才能

感受の才能

職場の先輩が誕生日に本を贈ってくれた。
贈り物としての本が持つ価値は自分から手に取るものとは違って、他者が自分を浮かべて見繕ってくれた時間が含まれるから、重みがある。本とともにもらった一筆が嬉しくて、仮にその場しのぎのお世辞だったとしてもありがたく受け取ろうと思った。誕生日だし。

主人公 倫子が同棲する恋人にすべてを持ち逃げされ、着の身着のまま逃げるようにして故郷に戻るところからはじまる。
倫子

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心の中の部屋

心の中の部屋

「悲しいことがあったらとびきり美味しいごはんを食べよう」
そんなふうに考えはじめたのはいつからだっただろうか。特別に覚えてはいないけれど、元からあった考えではなくて、その割には自分の中に馴染んでいた。

二十歳になった日、美味しいごはんをご馳走してもらった。食に疎く、食べることに楽しみを見出せずにいたそれまでから一変し、美味しいものをちゃんと食べることの大切さを一夜にして知った。ちょっとした革命が

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