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今、君の嘘に気付く。

思い出せないんです。
白沢という街で、君を家に案内した時の君の顔。
表情はなんとなくわかる。
道もいまでもわかる。
標識の意味も、寒いだろうとカッコつけてコートをかけてあげたことも、作ったハンバーグがまずかったことも。
でも、君の顔が思い出せない。
だから、君に似た人を二度見する。
何度がっかりしたのかな。
何度嘘ついてときめいてみたのかな。

君と別れて再会した。
わざとはしゃいだ。
ふと手を繋いでいい?と言われた。
私はずっと好きだったから聞いた。
『何で?』
...何となく。
(終わった。私のこと好きじゃないんだ。)
『繋ぎたくない。』
そのあと、君は、作り話をしてイラつきを顕にした。
『俺、人妻と会ったりしてるよ。』
『俺、人生どうでもいいよ。』
私は何も嫉妬できないほど大切すぎて、君を白沢まで連れ出したんだ。

それは、公園じゃない場所でちゃんと温かい腕で、抱きしめてあげたかった。
性などではなかった。
それが唯一の性かとひねくれて解釈もできるが、
私は傷を舐めてあげたかった。
君は、カッコつけたね。
私が抱きしめてトントン背中を叩くと、
真似したんだ。
傷ついてるのは君の方だと思った。
だから、やめてと言った。
そしたら初めて泣きそうな顔を見た。
どんな顔をしてたか思い出せないけど。


だけど



『俺、与えられるよりあげるほうが好きだから。』と嫌うふりをしながら、
性を誘ってきた。

君を、君を守れなかった。

私はずっと今まで、君は私を好きではなかったんだと思ってきた。

だけど、最近、私のことを好きだという男の子が、
『手を繋いでいい?』と言ってきた。
正確には、『腕にだけでも、触れていいですか?』だった。

彼は、ある過去のトラウマを私にしか言えないと、甘えさせてくださいと公園に私は招かれた。
でも、ここで手を貸したら、彼のためにならない。
彼の可能性を見守りたい。
もし、あの頃の君との夜をもう一度守れるなら、
私は今目の前にいる彼(心には君の存在を呼んでいる。)に、その辛さをせめて近くにいながら、冷静に理性的に、彼自身の力で乗り越えて自信に繋げて欲しいかった。犠牲にしてほしくなかった。

そして彼はその悲しみに勝った。
そこにはホッとした微笑みがあり、
私に軽率なことを言ったと謝って、
私にアイスを奢ってくれた。

そこで初めて気付いたんだ。
あの時、君がずっと、
"愛を狂おしいほど渇望して、ぐれたのは、求めたのは、泣きそうにしてたのは、苦しそうだったのは、叫びを殺してたのは、黙ってたのは、言葉を飲み込んだのは、私を傷つけようと嘘ついたのは、愛されたくてベットでぐったり疲れてたのは、

ただの人じゃ愛がほしいなんて渇望する気にはなれない。
ただの遊びや友情なんかじゃ芽生えない。

あの少年が誰にも見せない苦しみを抱いたように、
きっと彼は私のことが本当は好きだった。

今、君の嘘に気付く。

ねぇ、あの頃の君をあの少年が使者となって、
少し救えた気がする。

約束を少しは果たせたって思える。
私はこの体が朽ちても、
白沢の街を心に背負い続けていくよ。

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