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短編小説:「ある収集家達の夜」前編

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
今回は〝昔観た短編映画〟をそのまま物語にしてみました。
というのも、大人になってからいくら探してもこの短編映画を見つけ出せずにいまして。
僕自身この映画を〝一度しか観たことが無い〟という感じで、鮮明にどういうシーンがあったかは年々うろ覚えになってきています。
「なら覚えているうちに、話として書き起こしておこう!」となぜか思い立ち、今回書き上げてみました。
ただ内容がうろ覚え+僕の多大なる脚色でほぼ原作から離れてしまっていると思いますが。
とりあえず、ちょっとでも楽しんでくれると幸いです。


【ある収集家達の夜】前編

作:カナモノユウキ


私は澤枝修一郎、日本でも珍しい〝はく製収集家〟だ。
本業の投資家の傍ら、世界中を飛び交って様々な動物のはく製をコレクションしている。
哺乳類や鳥類はもちろん、爬虫類や魚類まで、ありとあらゆるはく製を収集するのが私の生きがいだ。
そんな私の元へ一通のメールが届いた、送信者は不明で、文面を読む限り明識がある訳でもないらしい。
謎の人物からのメールの内容は以下の通りだ。


[拝啓、澤枝殿。]

日頃、益々のご活躍のことと存じます。
今回、私からご提案がありメールをさせていただいた所存であります。
澤枝殿のご趣味がはく製の収集とお伺いしたので、是非とも私のコレクションをお譲りしたく思っております。
お譲りするはく製は世にも珍しい、世界でひとつだけの哺乳類のはく製です。澤枝殿の収集家としてのお眼鏡に必ずやかなう最高の逸品と思います、私にはその自信があります。
もちろんこちらのはく製は無料でお譲りいたします、宜しければ事情も含めて直接お会いできればと思うのですが、お時間頂けませんでしょうか?
何卒、ご検討の程宜しくお願い致します。

世雲外一睡


よぐも……そと…いっすい ?
名前の読み方は分からないが、〝自信がある〟とは何とも挑発的じゃないか。
哺乳類のはく製とあるが……〝世界でひとつ〟だけというのがかなり気になるな…一体どれのことだ。
カリブモンクアザラシかニホンオオカミか、タスマニアタイガーの生き残りをはく製にしたとか !?
こんなメールだけで随分と私をワクワクさせてくれるではないか、よし ! 良かろう。
世界でも類を見ないはく製収集家、この澤枝修一郎への挑戦状と受け取った。
何度かメールのやり取りをして、この世雲外(よぐそと)なる人物と直接会ってやり取りすることが決まり。
私は世雲外が所有する山奥の屋敷に呼ばれた。その場所は何でもはく製を展示する為だけの屋敷らしく。
その屋敷とコレクションを合わせても、時価数十兆円は下らない代物らしい。
そんな収集家の存在や屋敷の噂を、今の今まで私が知らなかったことに怪しさを感じるが。
だが些細なことはどうでもいい、そんな収集家の〝世界にひとつのはく製〟なる物を頂けるのだ。
期待を抱かずにはいられないだろう。……まぁヤバそうなら途中で帰ればいいだけの話だしな。
都心から車で5時間、約半日掛けてその屋敷がある場所まで到着し、私はその場で驚いた。
先ずはその門構えの凄さに圧倒される、屋敷を囲む十メートル以上ありそうな外壁の存在。
一見出入口が見えない巨大な壁へ車を近づけると、まるで近未来の宇宙船の様に穴が広がり出入口が現れたのだ。
私が車を通した直後、穴は閉じてまた壁に戻った……何という技術だ。
敷地内はとても手入れされた庭が広がっていて、その見事なシンメトリーで出来上がった空間は誠に素晴らしく。
私が見て来た富豪が所有する庭の中でも、トップクラスの庭園だった。
こんな山奥に、このような素晴らしい場所を所有している人物だ。
きっとそのコレクションも素晴らしいものだろう、これは期待せざる負えないな。
そしていよいよ、屋敷の前に車を止める。
カントリーハウスの様だが、一見するだけで分かるほどの大きさと広さだ。
玄関先まで到着すると、大きな扉が自動で開く……ここまで自動とは恐れ入った。
中に入ると大きなエントランス、そこの中央に…彼がいた。
この屋敷の保有者にして謎の収集家、世雲外一睡(よぐそといっすい)だ。
「いらっしゃいませ澤枝様、遠路はるばるようこそお越しくださいまして。」
「こちらこそ、お呼び頂き誠に有り難うございます。とても興味のあるご提案だったので。例え私が日本の反対側に居ようとも、飛んで来ましたよ。」
「それは何よりです、では改めまして私がこのコレクションハウスの主人、世雲外です。」
手渡された名刺には【ビジネスプランナー】の肩書の横に、【世界収集家】と記載がある…何だこれは。
「世雲外さん、この【世界収集家】って何ですか?」
「こちらはまぁ…貴方と同じ〝収集家〟という事ですよ、規模は異なりますがな。」
規模が異なる……何だかしたたかな顔をして随分と挑発的な奴だな。
だがしかし、このエントランスからもその〝規模〟とやらが伺える。
「あちらにある〈アフリカゾウ〉に〈キリン〉のはく製、実に見事な加工をされておりますね…生きている様だ。」
「ハイ。仕留めたその日に作り上げたはく製なので、生きたままの鼓動が感じられるでしょう。」
「その日 !? あんな大きな動物のはく製なら…3~4か月は掛かりそうなものなのに。」
「ハハハ。私がはく製を愛するがあまりに作り上げた特別なはく製制作装置がありましてな。それを用いればどんな大きな動物だって、ものの数時間で見事なはく製が出来上がるのですよ。」
「コレクションも気になりますが、その装置も気になるじゃありませんか。もちろんこの屋敷にその装置とやらがあるんでしょうね ? 早速見せて頂けますか ? 」
「慌てなくともしっかりとお見せ致しますよ、その前にどうです ?メインのはく製が展示してある場所に行くまでに、私のコレクションをご覧になりませんか ? 」
「えぇ是非 ! 」…一体全体、この男は何者なんだ。
白いタキシード、ロマンスグレーの髪に髭。しわの数から考えてもそんなに若くは無いだろう。
身長は私よりも大きい190センチ前後……何とも気品あふれる老紳士だ。
見た目からは何か特別な印象は感じられないが、只者では無いのは…ここまで見てきたもので分かる。
この屋敷を囲っていた壁の技術や完璧に手入れされた庭園、そしてこのはく製を作る技術……。
名立たる大富豪だったとしても、ここまでのモノを持っているなら少しぐらいは話題になっているはず。
しかし、ここに来る前の事前調べでもこの男の素性は一切分からなかった。
怪しい…怪しすぎるが……気になるじゃないか、気になり過ぎるじゃないか !
そんな謎だらけの凄い人物が言う〝世界にひとつのはく製〟、拝むだけでも価値がありそうだ。
期待値がどんどん高まるが、その前にこの世雲外のコレクション…堪能させていただこうではないか。
「では先ず、この奥にある哺乳類のはく製が展示されてるエリアをご覧いただきましょう。」
エントランスから約5メートル先の部屋、中はなんとバスケットコートほどの空間が広がり。
中には小動物のはく製が並べられている、それもすごい数がみっしりと。
歩く場所がかろうじて確保されているが、部屋の端から中央まで動物のはく製だらけだ。
「これは凄いな……、〈ウサギ〉や〈キツネ〉はもちろん。〈サバクネズミカンガルー〉に…〈フクロオオカミ〉 !一般的な動物や絶滅した動物のはく製まで展示されていますね、収集に苦労したんじゃないですか ? 」
「いやいや、それほど苦労はしていないのですよ。」
私も絶滅した動物のはく製は集めている、特に〈フォークランドオオカミ〉のはく製は手に入れるのに苦労した。
何百何千という金と何年という時間を掛けて手に入れた正に家宝と言える一品だ。
その〈フォークランドオオカミ〉も、〈二ホンオオカミ〉や〈タスマニアタイガー〉もしっかり展示されている。
ここだけで何種類の哺乳類が存在するか分かったもんじゃ無い……一体いくらかかったんだ。
「私の祖父の代から集めているので、地球の大半の小動物は集められているんじゃないんですかね。」
「はぁ~……このフロアのはく製だけで、めまいのする額になりそうですね。」
「金額ですか……考えたこともありませんな、半分は私の手作りですしねぇ。」
「例の装置ですかね ! 何と素晴らしい…確かに先ほどの〈ゾウ〉や〈キリン〉と同じように生きている様だ。」
「ええ、息のあるうちに加工を開始しましたから。」
「いやいや、中身などは流石に抜いて加工したでしょう ? 中身は何です?天然樹脂 ? ポリウレタン ? 」
「いいえ、中身も特殊な液体で加工しておりますので。私がはく製の為に開発した内臓凝固剤です。これを使用すれば外側を傷つけずに中身の内臓から筋線維、神経から骨格までの全てが固まり変異します。解剖してしまうと、せっかくの毛皮に傷が付きますからな。やはりはく製には加工段階から拘りたい訳です。」
何と言う奴だ、はく製作りまで拘ってそんな液体を作るなんて。
「なら…その液体さえあれば、どんな動物もはく製に出来ますよね ? 」
「それが、一度半分以上の血を抜かないといけませんので。そう簡単ではないのですよ。」
「なるほど、そこで例の装置が必要と言う訳ですね ! 」
「まぁ、そんな所です。さぁ、もっと奥へ参りましょう。次は海洋生物のはく製をお見せしましょう。」
私はまたそのさらに奥、別の部屋へと案内される。
少し薄暗い廊下から別の部屋へ、そこは先ほどの場所よりも大きな部屋……いやもうこれは博物館などの大型展示品を飾るような広い展示スペースと居た方が分かり易いだろうな。
内装はまるで海の中の様に装飾されていて、雰囲気もばっちりだ。
そして、ひときわ目を引くのが天井からぶら下げられている大きな〈ザトウクジラ〉だ。
「驚いたな……白い〈ザトウクジラ〉のはく製なんて、よく手に入りましたね。」
「あぁ、このはく製も私が作ったのですよ。」
「これを貴方が !? 先ほどの哺乳類やこちらのクジラと、収集家にしてはく製職人ではないですか。」
「いやぁ~誰かが作るのを待ってしまっては、このご時世絶滅してしまうかもしれませんしな。」
「それは素晴らしいお考えだ。そこまでのお考えをしている収集家の方には、今まで出会ってきませんでしたよ。」
今まで自分と似たような収集家に出会ってきたが、〝自分ではく製を作る〟なんてヤツは居なかった。
好きが高じてはく製職人になった者は一人いたが、両立しているのもはじめてだ。
……そんなことを両立している奴だ、誰も知らない大富豪…いや超富豪に間違いないな。
「澤枝様。このクジラよりも、あちらの展示品の方が興味をそそられるのではないですかな ? 」
言われて気付いたその奥には、宙に浮かぶ透明な水槽の様な立方体が吊るされていて。
中には熱帯魚やサンゴ礁で優雅に泳いでいるような魚のはく製が、切り取られた様に飾られている……。
「これはまた随分と手の込んだ展示品ですな、魚のはく製を水槽に展示するかの様に展示しているんですね。 」
「いえいえ、こちらは現地の海水ごと空間を切り取ったはく製でございます。あちらはパラオ、その奥はグレートバリアリーフ。もちろんタイや沖縄の海を切り出して作った物もありますな。」
「すみません、言っている意味が分かりません。……〝海を切り出した〟 ? 」
「そうです、海の一部分の空間を切り取り固定する装置で作ったんですな。だからもう風景を切り出したはく製、と言っても過言ではないですな。ハハハハハ。」
こいつは一体何を言っているんだ…〝空間を切り取り〟なんて、とんだSFじゃないか !
「世雲外さん、冗談を言ってはいけませんよ。そんな技術、現代に存在するはずないでしょう ? 」
「では、近くでご覧になってください。なんなら触れても構いませんので。」
自分は嘘をついていないという確固たる自信があるのか ?
私は展示品の側へ行き、手を伸ばして浮いている長方形の立方体に手を触れる。
こ、これは !? ……水だ、水が固定され吊るされている。しかし中へ手を入れることが出来ない。
言うなれば透明な氷の様だ、触れた個所が溶けたように手を湿らせ、ひと舐めすれば塩辛い。
これは正しく海水……、この長方形の物体は、本当に空間を切り出して作っているというのか !
驚いた……まさかこんなことが出来るとは。
先ほどから言っている〝装置〟だとか〝液体〟なる常識外れのものも、話半分で聞いていたが信憑性が増してきた。
正直なところ、実物を見ていないから信じたフリをしていたが。
これは〝世界にひとつのはく製〟だけじゃない、何とかこの技術を手に入れたい !
こんな素晴らしい技術があるなら、はく製だけではない、色んなものに技術転移できるじゃないか !
医療や産業もそうだ、この世雲外から技術提供を受ければ、世界の技術革新も夢じゃない !
「信じて頂けましたかな ? 」
「世雲外さん。貴方この素晴らしい技術も、ご自分で開発されたと言うのですか ? 」
「ええ、もちろん。私の収集家としての熱意が生み出した技術の一つです。世界のありとあらゆる生き物を手に入れ並べ、私だけのコレクションを作りたい !その為であれば、無いはく製ならば自分で捕まえ作り出し、必要な技術ならそれを生み出す。それが、真の収集家と言うものではないですかな?澤枝様。」
……この世雲外なる人物の言う通りだ、〝無いなら作る〟…これは古代から変わらない人間の本質。
それをはく製収集という分野で伝えてくる、この人こそ〝本物の収集家〟じゃないか。
今まで私以上のはく製収集家には出会ったことはなかった、こんな日本の山奥にわたしを超える収集家が居たとは。
「この海を切り取ったはく製の他にも、〈ホオジロザメ〉や〈シャチ〉に〈ハンドウイルカ〉もありますよ。」
海洋生物のはく製なんて言うのは手間が掛かるので、職人ですらあまり手を付けないジャンル。
それがこんな広い場所に驚くほど並べられている、それら一つ一つを隈なく見ていきたいが……。
私の今日の最終目的はあくまで〝世界にひとつのはく製〟だ。
「その顔は『早く〝世界でひとつのはく製〟が見たい』と言うような顔ですね。」
「いやぁ、この様な凄いはく製ばかりを見せて頂けると、余計に期待してしまうというか。そのメールのやり取りでも教えて頂けなかった、世界にひとつのはく製とは一体どんな代物何ですか ? 」
「強いて言うのであれば、大海原でたった一つの原石を探し出したようなはく製…でしょうか。」
「ほう……そんな珍しいはく製を、何故私に譲ろうと ? 」
「諸事情があり、泣く泣く手放さなくては行けなくて…。
澤枝様のお話を小耳にはさみ、私と同じ志の収集家になら譲りたい ! そう思った次第です。」
「それは何とも光栄なお話です。この澤枝修二郎、責任をもって譲り受けさせていただきます !因みにその哺乳類のはく製とメールに書いてありましたが、世界にひとつだけの哺乳類とは一体何なんですか。」
「フフフ、それはもう間もなくわかることですので、もうしばらく楽しみにお待ちください。」
中々に焦らしてくれるな世雲外一睡、だがここまで来たなら時間の問題。
ここまで来たなら、貴方のコレクションツアーをとことん堪能させていただきましょう。

……続く。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

小学生の児童会館で、映写機を使った映画の小さな試写会が毎月あった時期があって。その時にやけに印象深かったので今でも「もう一度見たい!」と思っているのですが、いかんせんタイトルも内容も朧気で。
ただ〝はく製を収集する狩りが趣味の富豪〟と〝怪しげなコレクター〟の二人だけの登場人物からなる映画で。
それが実写だったか…アニメだったか、クレイアニメとかのストップモーションのような気もするんですが……思い出せない。
そして無性に見たい、明日には後編も上げるんで。
結末込みで似たような短編映画知っていたら教えて欲しい。

あ、長編の小説はこれ以降に上げます。

力量不足では当然あるのですが、
最後まで楽しんで頂けていたら本当に嬉しく思います。
皆様、ありがとうございます。

次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


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