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092 金のたまたまたま

(第1章 013 金のたまたま の続き)

心の奥にしまった金の玉を少しずつ表に出した。
なんだか気分はよくなっていくようだった。
だんだん、出し方のコツもわかってきた。
なんとか、すべて出し終えることができた。

さすがに金の玉は違った。
見ていて惚れ惚れした。
どうせならと、すべての金の小玉を溶かして一つにした。
もとの金の玉に戻った。

また錆びついていた銀の玉を磨いた。
銀の玉では、金の玉の隣では釣り合いが取れないような感じがしたからである。
だから、もっともっとピカピカにしたくなり、しょっちゅう磨いていた。
そうしたら、皮が剥がれ、中から金の玉が出てきた。

それに銀の小玉を一つ一つ、どんなものか丁寧に吟味しみた。
どうしてそれをいいとか悪いとか思っていたのか訳を考えてみた。
まず一つを徹底して疑い、調べ考えてみた。
確固たる理由などなく、自分にふさわしいものでなくなった。

一つが崩れたら次々、疑うようになってしまった。
そうしたら、どんどん疑問が出てきた。
はじめ疑うことは怖かったが、その疑うことにも慣れてしまった。
疑うことすら、どちらでも、いいとなってしまった。

だんだん、銀の小玉は心に響かなくなっていった。
手元に残しておこうと思えるものはなくなっていた。
どうせなら、きれいすっきり、すべて返してしまおうと思った。
でも最後に一つだけ銀の小玉が残った。

だんだん記憶が勝手にさかのぼっていった。
そうしたらうすうすだが思い出すことがあった。
もともとは、どうも金の玉は三つあったみたいだと。
どうも、ことばを受け入れたときに、一つ失っていたのだった。

それは夜泣きをやめ、しゃべり始めたときであった。
ことばを受け入れるのがいやであれだけ夜泣きをしたのだった。
全盲全聾の人がことばを拒絶するのと同じである。
それこそに耐え難い苦しみがあったのであった。
生まれて一年ぐらいたった物心がつく前の頃であった。

褒められればうれしいし、貶(けな)されれば悲しくなる。
でも、どんなに貶されようが、褒められようが半分しか響かなくなったのである。
他人のことばはもちろん、自分の発することばについてでもある。
どんなことばも半信半疑になってしまった。

そうしたら、もうひとつ金の玉が一つ戻ってきた。
金の玉が三つならんだ。

頭と心と体がならんだ。
真と魂と命がならんだ。
真と実と誠がならんだ。

自己に宿る尊厳を感じるようになった。


#小さなカタストロフィ
#microcatastrophe

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