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【読書メモ】人を賢くする道具

会社に新しい仲間が増えまして、自分のキャリアについてシェアしました。自分の仕事のReflectionをするなかで、あらためてこの本との出会いを思い出しました。

人生を変えた一冊だと思います。

#人生を変えた一冊

もう18年も前になるのかとしみじみ思いました。
仕事が暇になって、ふらっと立ち寄った母校の図書館。地下の心理学の書棚。タイトルにひかれて手に取りました。

こんな世界があるのか。

私が認知科学を深く学ぶことになったきっかけの本です。
当時、デジタル教材を作っていた私は、どうやったら分かりやすい教材になるのか常に考えていました。人の認知過程をサポートするためのデザインのあり方に感動したのです。

あらためて読み返すと、表層的な理解しかできていなかったのだと思いました。大切なのは、人がもともと持っている賢さを発揮できるようにすること、それがデザインの本質である、と著者のノーマンは言っているのだと思います。

ここでいう「賢さ」とは、私たちが学ぶ存在だということです。動物も学びますが、高次な考察によって学びを深めることができるのは人間だけです。

「ディープラーニング」によって大きく前進したAIも、人間の学びとは質が違います。具体的なデータがない限りAIは学ぶことができません。人間はデータがなくても考察し、学ぶことができます。人間はイメージを描くことができるからです。

例えば、人間の持つ「言葉」という道具に着目してみましょう。私たちは、いま目の前に実物がなくてもその物について考えたり、伝えたり、誰かと意見を交換しあえます。言葉はそのようにして私たちを賢くする「道具」です。

ただ、道具を持っている私たちはときに落とし穴にはまります。
たとえば、「犬が吠えている」場合、あなたはどう感じますか?

ある人は、「怒っている」「怖い」と捉えるでしょうし、別のある人は「遊んでほしい」と捉えるでしょう。これは、「メンタルモデル」といって、対象物を捉えるときに私たちが暗黙の裡に持っているイメージです。
これによって、目の前に犬がいなくても、犬といえば怖いもの、犬といえばかわいいもの、と思えるわけです。

そして、ときにこれが偏見や思いこみというエラーになったりします。「○○さんは、いつも遅刻してくる、いい加減な人だ」という風にレッテルを貼ってしまうことってありますよね。オオカミ少年の不幸な結末はそのレッテルによってもたらされたのです。

そうした側面があっても道具として必要なのは、自動的に処理をしないと野生環境では危険だからです。結果として「敵を見たら逃げる」のような行動が起こります。これをノーマンは、「体験的認知」と呼んでいます。目の前の状況…つまり、入ってくる情報に反応してすぐに行動をとることです。これ自体は、身を守るうえでも大切なことです。

ただ、気がつくと「とにかく行動」するだけになってしまいます。目的を見失ったまま自動的に処理をすることがあります。気がつくと、私たちは手段の目的化をしてしまいますよね。

こうした体験的認知に対して、「内省的認知」という言葉があります。立ち止まって振返りを行う認知のモードです。私たちが「振返り」を行えるのは、行動を思い出したり、その時の気持ちを再生したりできるからです。つまり、実際に目の前に実物がなくても、「言葉」によって時には誰かと話しながら、起こった事への解釈を深めることができるのです。

こうした対話によって、自分の思いこみに気づくと、世の中の捉え方に変化が起きます。そうした変化が起こることを「学習」と呼びます。インプットを受けることや知識が増えるだけでは「学習」とは言いません。

この基本的な考えは、経営やビジネスの場面で活かすことのできる原理原則です。例えば、部下があなたの期待通りの行動をしてくれないとしたら、それはなぜでしょうか。自分の言っていることを理解していないから…? それもあるでしょう。ただ、それ自体が、思いこみかもしれない。そもそも、目指すゴールに対するまなざしや見え方は、一人ひとり異なるのです。

このとき、深く内省すれば互いに学べます。
ところが、多くの人は、それこそが学びだとは思っていません。与えられた目標を理解し、その目標を達成できるようになることだけが、学びだと捉えています。

そうした体験的認知モードで実行すれば、アウトプットは出ます。結果も出るでしょう。しかし、ひとたび状況が変わると脆い。手段が目的化していて、そもそも何をしたかったのかに立ち戻ることができないのです。

…ああ、一気に書いてしまった。
新しい仲間に話したことで、Reflection が進んだのですね。これも、内省的認知です。こういう機会を作ることもまた、互いに賢くなるための活動をデザインした一例です。

実は、彼に話す過程を通じて「自分はお客さまが本当に大切にしようとしている目的やありたい姿を見出そうとする」ことに気づきました。

それが、私の強みであるようです。
ちょうど、自分のコンサルタントとしてのあり方を再構築しようと少しだけ悩んでいたところでした。再び、この本とそれにまつわる出会いが人生を変えるような気がします。

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