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掌編・短編小説

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記事一覧

地獄とラブレター

先週地獄行きが決定しました。
僕は早速閻魔様に手紙を書くことにしました。

閻魔様へ

これまで自分はそれなりに幸せになるべき人間だと思って生きてきましたが、そうではありませんでした。自分の誠実さや優しさなどは全て偽物で、皮をめくればドロドロに腐っていました。卑劣で下品でどうしようもありません。1人でそれを処理すれば良かったのに関わらず、美しく終われたかもしれない物語を、1番大好きな人をわざわざ引

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shibuya的 文芸コンテスト

先日行われたshibuya的文芸コンテストという
公募において審査員特別賞と優良賞をいただきました。

この二つは以前書いたものを公募用に書き換えたものです。こちらは、いずれ雑誌「SHIBUYA NIGHT vol.1」に掲載していただきます。

ところで、もう一作応募していたのですが、そちらは落選となってしまったので、ここで公開しようと思います。

800文字という制限の中で渋谷を表現するという

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おっぱいなんて見たくないこの愛のゆくえも

※こちらの小説は以前書いたものですが、歌舞伎町文学賞のサイト上で読めなくなったためこちらに残しておきます。

冷蔵庫の中には牛乳と異臭を放つ消費期限切れの¨におわなっとう¨。他に食うべきものがなく買いに行くのも面倒なので恐る恐る口に入れた。が直ぐに吐いた。夏の夕暮れ、自転車を漕いでいると口に入ってくる大量の小さい虫の味を思い出した。今日で地球は滅亡する。詳しくは良く分からないが今日の0時、太陽が爆

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進化

気づいた時には授業が終わっていて教室の中には自分しか居なかった。ノートの真ん中に大きな文字で「なんでお前なんかに馬鹿にされなあかんねん!!部屋とYシャツと地蔵」と書かれていてそれをヨダレがコーティングしていた。ヨダレを服の裾で拭き取ると紙が破れて奥のページの「幸福追求権を」という文字がこちらを覗いた。

浪人してまで大学に入ったにも関わらず、ろくな人間がおらず直ぐに後悔した。他の人間とは違った何か

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閃光

いつまで経っても大人にはなれない。過去の栄光を舐めながら明日になったら何かが変わると、根拠のない自信だけを持って、毎日を誤魔化して生きている。その栄光すら他人から見れば鼻を噛むチリ紙程度の物だろう。将来の目標もなければ、満員電車に揺られる気もない。世間体や親の目線を気にして一応就職活動を始めたが、どこにも受からないように面接中ずっと白目をしながら、昨日の晩に食べたビーフシチューのことばかり考えてい

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光が、ベルトコンベアから流れてくるのを不思議に思い焦って口に入れると何故か作りかけのサンドウィッチの味がした。

光を食べた人間は、おそらく祝福されるべきなのだが、耳元では社員やパートのおばさんたちが何かしらの暴言を吐いていた。頭の中では「ダメ!いけないわ!今すぐ謝って許してもらうのよ!」と天使もえの顔をした天使と「こんな所に居ても意味がないぜ!辞めちまいな!」と柚木ティナの顔をした悪魔が争ってい

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猫の恩返し

唯一の楽しみは、家から歩いて2分のコンビニでバイトをしている女子高生に会いに行くことだった。その女子高生は週三回、月曜日と金曜日の17時から22時までと土曜日の10時から17時まで働いていた。肌が透き通るほど白く大きな目と笑顔が素敵だった。その女子高生の出勤時間に合わせ出来るだけ綺麗な服装でコンビニへ行った。コンビニに入ったら自然な速度で店内を1周しバレないように横目でレジに居ること確認した。レジ

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2018年、平成最後の夏、僕は21歳で法学部の二回生だった。その年のセミは何故か異様なほど五月蝿く(怒りと性欲の悲鳴)不安と孤独が交差する日々に嫌気がさした僕は大学をサボって毎日同じ水族館に通い魚の群れを見て羨ましがった。ある日、イワシの群れが旋回する輝きをボーッと眺めていると左耳に凄まじい視線を感じた。視線の先には1人の少女が居て僕の左耳の穴をジッと覗いていた。何かを言いたそうな素振りはなく、た

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クリスマス・イブ

毎日、何かを生み出したいと思っていて
毎日、何かを失っているような気がする。
首を絞められながらも悦楽の表情を浮かべる女を見ているとそう思った。射精。目が覚めると部屋の中はひんやりと冷たく空はまだ暗かった。吸ったことのない煙草が吸いたくなって女のカバンを漁ってベランダで1本だけ吸った。小さなガラス片が落ちていて左足の親指に突き刺さって血が溢れ出た。拭くのがめんどくさくて地面に血が広がっていくのをぼ

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