赤ん坊の声
この世界に「死にたい」と思ったことのない人はいないと思う。
赤ん坊の声が聴こえる。
おぎゃあ。おぎゃあ。
なぜ泣いているのだろう?
きっと僕にはこう聴こえる。
死にたい。
死にたい。
ああ、神さまと別れてしまった。
2つになってしまった。
もう、僕は神さまを感じられない。
誰か助けて。
誰か助けて。
お母さん。
お母さん。
そうやって泣くのだろう。
そして母親が肌に触れるとき、赤ん坊の心は救われるのだ。
母というお上(お神=おかん)と繋がれたから。
よく言うではないか。
幼少の頃はスキンシップが大切だと。
きっと肌と肌で繋がって、一つを経験し直すんだ。
心と心が一つになるように。
母親が愛でれば愛でるほど、安心するのではないか?
ああ、この世に産まれてきて良かった、と。
この文章を書いている僕は何を思うだろうか?
この世に産まれてきて良かった?
それとも……
早く僕を天国に帰して?
産まれてきて良かった、
なのか……
死んだほうがマシ、
なのか。
きっと僕はその狭間にいる。
ある一時は、産まれてきて良かったと思う。
またある一時は、死んだほうがマシだと思う。
これを清濁併せ呑むというのだろうか?
きっと清い水のままではいられない。
しかして、水はどこまでも淀(よど)み汚(けが)れることができる。
ゆめゆめ、心して、心を清く保とう。
仏教では、これを自浄其意(じじょうごい)という。
ある憂国の数学博士の随筆家はこういった。
仏教の倫理は三行で語れる。
諸悪莫作。
衆善奉行。
自浄其意。
と。
つまり、
悪いことはするな。
良いことはしろ。
心を清くしなさい。
ということだ。
いかにも教養のある話ではないか。
だがここでは初歩に戻ってみる。
いま、死にたいと思っているあなたへ。
あなたを待っているあなたが居る。
それは未来のあなただ。
現在のあなたは、きっと挫けていることだろう。
それを乗り越えて、素敵なあなたへ成長することを、未来のあなたは待っている。
きっと待っている。
だって、あなただもの。
あなたのことを、一番愛しているのは、あなただから。
愛してる。
愛してるよ。
だから、大丈夫。
いつだって、どんなときだって、側にいるのはあなた自身。
あなたの心から、あなたの体を捨てないで。
きっと神さまがくれた、お体だから。
僕は君の味方だ、なんてことは言わないし、言えない。
僕はネットの亡霊だ。
君の側にいて、君の味方をすることはできない。
僕は君の現実に干渉できない。
しょせん、他人だから。
でも、この言葉を贈ることはできる。
あなたを待っているあなたが居る。
あなたをあなたは愛してる。
だから大丈夫。
いつもあなたにはあなたがついている。
愛してるよ。
じゃあね、バイバイ。
僕は後ろを見るのをやめて、前を向いて歩きだした。
明日の自分が、自分を待っているから。
待っててね。
今いくよ。
こんな困難なんか、目やに鼻くそだ。
乗り越えてやる。
成長してやる。
克服してやる。
俺にはできる。
絶対できる。
できなきゃ、できるようにする。
それだけだ。
俺にはできる。
俺にはできる。
俺にはできる。
きっと君にもできる。
いつか。
君の涙が枯れた頃。
君の笑顔が尽きた頃。
誰かが君を助けにやってくる。
サンタさんだろうか?
いいや、未来のあなただ。
明日のあなたは、まだ死にたいと言っているかもしれない。
でも、
十年後、二十年後のあなたはどうだろう?
何と言っているか、聴き取れるかな?
きっと、こう言っている。
がんばって!
うるさいな。
もう、がんばったでしょ。
こんな世界、もう嫌だ。
殺してくれ。
…………。
きっとこう言っている。
死ねる権利があるだけ、お前は恵まれてるんだぞ。
死にたくても死ねない人を、想像してごらん。
あなたは貧しい国の、貧しい家の、貧しい兄妹の一番上の子だ。
あなたの下には兄妹がいる。
まだ言葉も喋れない。
お母さんもお父さんも、ゴミの山に殺された。
ここは臭い。
でも、そんな中から、私は食べ物を探してきて、持ってきて、兄妹たちを食べさせてあげなくちゃいけない。
ああ、死にたい。
きっと、死にたい、という言葉はこの子のためにある。
けど、死ねない。
私が死んだら、下の子はどうなる?
私のせいで死ぬことになる。
そうしたら、私は人殺しだ。
もしかしたら、見ず知らずの人なら良いかもしれないが、家族なんだぞ。
だから、私は生きていなくちゃいけない。
私は、私の家族である下の兄妹たちを生き延びさせてあげるためにも、生きていかなくてはならない。
私は生きる。
大丈夫。
私があなたを生かしてあげる。
私が食べ物を探してきてあげるからね。
心配しないで。
私は何があっても、あなたたちを守るからね。
きっと、この人は私じゃないと思う人も居るだろう。
そんな人は、きっと恵まれている。
だって、食べ物に困ったことがないでしょう?
だって、この文章を読めてるでしょう?
だって、寝るところがあるでしょう?
だって、起きるところがあるでしょう?
だって、お風呂に入れるでしょう?
だって、雨に濡れないでしょう?
なんてことを書くと、日本の人にしか、通用しないんだがなあ。
とにかく、世界はこう言っている。
あなたは私。
あなたの目は、私の目。
あなたの耳は、私の耳。
でも、あなたの心は、あなたの心。
あなたの心とわたしの心は、どこかで一つになっている。
見ているよ。
世界が君を。
宇宙が君を。
待ってるよ。
君が上を向くのを。
誰かがこう歌っていたよ。
上を向いて歩こう。
涙がこぼれないように。
一人ぼっちの夜。
これを書いてる僕と、読んでる君の、二人ぼっちの夜。
また夜が明けて、日が昇ったら、朝日を見に行こう。
きっと太陽が叫んでるから。
おいらは輝いとるどお!
ほうら、照らしてやるどお!
みんな、こっち来い、こっち来い。
星なんか、見えなくしてやろう。
この青空が、君の心を覆うから。
死にたいと思っているあなたへ。
バラを一つあげよう。
それ、胸ポケットに指すといい。
君の笑顔を明るくしてくれるから。
真っ赤な薔薇が、君の心を赤くする。
君はもっと輝ける。
あなたはもっと輝けるさ。
誰と比較するでもない。
あなたはあなたで、あなたのままで、輝いている。
あなたは光だ。
あなたは星だ。
きっと、広い宇宙の闇に溶かされて、見えなくなってしまうときも、あるだろう。
けれども、根っこは光、光なんだ。
誰かがスターシードといった。
星の種だと。
柿の種は好きじゃないけど、星の種は好きだな。
君は光。
君も光。
ニューロ光はネット。
そろそろ馬鹿げてきたな。
話を真面目に戻そう。
たとえ、あなたのことを、あなたが愛していなくても、私があなたを愛してあげる。
なんて、米津玄師さんが歌ってたね。
自分嫌いのあなたを愛する私も嫌いなの?
あなたのことを待っている人がいる。
未来のあなた。
そして、未来のわたし。
未来が今になったら、また会おうね。
きっと、僕は君のことを知らないけどね。
顔が見えないから。
声も聞こえないから。
手紙も来ないから。
ファンレター読んでないです、君のは読んだけどね。
あなたがあなたを愛せないときは、代わって僕が君を愛してあげる。
この文字で。
今この瞬間だけでも。
未来の僕が、君を愛していなくても、今の僕は今のあなたを愛してる。
愛してるよ。
だから忘れないで。
君のことを想って、この文章を書いた僕のことを。
きっと、死にたいなんて、思ったことのない人なんて居ない。
みんな、一度は思ってる。
ちょっぴりでも思ってる。
一瞬でも、ほんの少しでも、思ってる。
ただ、気づかないだけ。
ただ、気づかないだけ。
僕の声にも、気づかないだけ。
僕はここで叫んでるんだけどな。
精一杯に。
君を愛していると。
なんて書くと、嘘っぽい。
言葉だけの愛なんて、要らない。
君を抱きしめられたらいいのに。
そうしたら、きっと少しは、君の荷物を下ろしてあげられるのに。
きっと少しは、君の荷物を下ろしてあげられるのに。
君を抱きしめられたらいいのに。
そうしたら、君に僕の愛を伝えられるから。
たとえ、未来の僕が、未来のあなたを愛していなくとも。
今の僕は、今のあなたを、愛してる。
どんなあなただっていい。
傷付いていたっていいんだ。
黒鉄(くろがね)は鍛え打たれて、剣(つるぎ)となる。
君は刀の作り方を知ってるかな?
ひどいもんだよ。
金槌でドコドコと叩かれるんだもの。
痛くってしょうがない。
火で、炉に入れられて焼かれるんだよ。
熱くってしょうがない。
オレンジ色になったこの身体を、あの男たちは打ちつける。
カンカン。カンカン。
カン。カラン。
カンカン、カンカン。
カン、カラン。
ジュッ。ボォー!
あれれ! おかしいな?
死にたい人への手紙を書いていたら、刀の作り方の話になってたよ。あはは。
未来の僕が、今のあなたを、待っている。
立ち直れるときを。
立ち上がるときを。
前を向くときを。
歩き出すときを。
こころ、輝くときを。
大丈夫。
この手紙をお守りに持っておくといいかもしれないね。
僕は君についてる。
僕は君の味方だ。
たとえ、この瞬間だけでも。
未来の僕は、責任はとれないな。
だって、浮気症だから。
きっと、君のことなんてどうでも良くなってる。
だって、70億の一つだから。
言うて、出会える人は少ないけれど。
バラを一つ持っていくといい。
きっと君を立派に飾り立ててくれる。
ちょっとはみ出しちゃうかもしれないけど。
だから、心の薔薇でいい。
心の花瓶に、薔薇をさせ。
そしたら、君は、前を向く。
今日寝るまでは生き延びて。
明日になったら、それを繰り返すの。
明日も明日で、生き延びて。
そうして、人生を過ごしてゆくの。
本当に過ぎてゆくから。
目の前は、無常。
でも、天地有情。
情の世界に、日本人は生きている。
未来の君が、過去の僕を見ているとき。
きっと、今の僕は、未来の君へ、歩み寄る。
僕たちはそれぞれ一人だけど。一人ぼっちじゃない。
二人ぼっちなんだ。
そうして僕は、眠りにつくのさ。
だから、また明日。
こう言い交わすから、また会える。
また会えるから言うんじゃないよ。
言うから会えるの。
っていうのは、俺の持論ね。
だって、誰も明日のことは知らないでしょう?
だから、今日、予約を取るの。
また、明日。
うん。
また明日、会おうね。
バイバイ。
バイバイ。
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