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義理の母との結婚挨拶の第一声で「合格」と言われた話。

「あたしのお母さん、魔女だから」

結婚することを決めた私は、義理の親への挨拶前に、自宅リビングで妻からそう言われた。2019年の2月、札幌は大雪だった。

「お義母さん、魔女なの?」

「うん、魔女」 

「え、何か魔女的な能力者なの?」

「そうじゃないよ。見た目が魔女っぽいの。あと、性格も魔女っぽい。人を見る目は誰よりもあるから覚悟しておいた方がいいかも」

「あ、そうなんだ。本当の魔女ではないのね?」

「うん、でも、限りなく魔女だよ」

うーん、なるほど。魔女かぁ。マジかぁ。まだいたんだ魔女。まさか結婚の挨拶をする前に「あたしのお母さん、魔女だから」と告白されるとは思わなかった。


交際0日で結婚することを決めた。まあ、細かく言うとすぐに入籍したわけではなくて。交際したその日に「結婚する」と決めて、合鍵を作って婚約指輪を買いに行った。というのが真相なのだが、妻の両親へ挨拶をしなければならなかった。 

「あたしのお父さんはどうでもいいから、まずはお母さんに会って。そしたらお母さんが判断してくれるから、お父さんに会うのはその後でいい」

「そんなこともあるんだ」

「うん」

魔女かぁ。どんな人なんだろう。「あたしのお母さん、魔女だから」と娘に言わしめる母。怖い魔女なのかなぁ、とか思ってたけど、私はそんなに心配はしていなかった。

私は営業マンだ。当時、北海道中の経営者と会っては、熱意を持ってサービスを販売していた。だから初対面でのコミュニケーションには自信がある。たとえ相手が魔女であろうが関係ない。私は人間界、いやマグルを代表する百戦錬磨(自称)の営業マンだ。


「本当にお義父さんは後回しでいいの?」

「うん、大丈夫。お父さんはポンコツだから。それよりもまずは魔女を攻略しないと」


お義父さんはポンコツなのか…。
なんだか可哀想だな。


そんなこんなで、魔女、もとい義理の母と挨拶をする日程を決めた。3月だった。札幌は少し暖かいけれどまだ雪が降っている。気温は0℃くらい。


魔女との対決の場は、札幌駅の隣の「センチュリーロイヤルホテル」のティーラウンジにすることにした。場所選びは大事。ティーラウンジフォンテーヌだ。

引用 : センチュリーロイヤルホテルHP

挨拶当日、センチュリーロイヤルホテルに先に着いた私と妻は、ラウンジの窓際の席に座って喋っていた。一体どんな魔女が現れるのか。私の格好は白シャツに黒パンツ。誠意を持って魔女と向き合いたい。服装はベーシックが1番だ。

席に座りながら妻と「もうすぐ春だから、うんぬんかんぬん」と話していたら、妻の目線が私から逸れた。そして言った。

「あ、来た、久しぶり〜」

私の左後方、10mくらいだろうか。
「コツコツコツコツ…」
とヒールの音が聞こえてくる。来た。

(さぁ、どんな魔女さんでしょうか…)


私は臨戦体制だ。
なんなら「守護霊よきたれ」=「エクスペクトパトローナム」を唱える準備も整ってる。いつでも来い。3月の札幌。センチュリーロイヤルホテルのラウンジ。ムーディーなBGMが聴こえてくる。


左後方を振り返った。
視線を向けると、たしかにいた。

髪の毛は黒のソバージュ。
胸の少し下まで綺麗に伸びている。

靴は黒のヒール、
全身黒のタイトめのワンピース。

60歳を超えていると聞いていたが、若く綺麗に見える。目の周りがお化粧でやや黒いが、妻の面影を感じる。

表情は、無表情、かと思いきや、久しぶりに会う妻に興奮気味。かつ私への気遣いも見える表情だ。

目つきがやや蛇っぽい気がする。
なるほど!たしかに魔女だ!



「はじめまして。お付き合いをさせていただいてます〇〇と申します。よろしくお願いします」

私は立って一礼した。
こういう時は先手必勝!武器よ去れ!
自称、百戦錬磨の営業マンだ。というか当たり前だが、私から挨拶した。


…。



魔女、もといお義母さんは答えない。
その代わり、私をつま先から頭の毛先まで蛇のような目で舐め回して言い放った。



…。




「う〜ん、合格」



「え…ご、合格ですか?」
キョトンとした表情で答えた。


「うん、誠実そうだし。すぐに結婚するって言うからどんな人かと思って心配してたけど、大丈夫。合格」



(ご、合格かぁ…)

組み分け帽子に「グリフィンドール!!!」と言われた時の気分。ほっとした。初対面の第一声で「合格」と言われたのだ。…そういうこともあるか。あるよな。ん?あるのか??


席に座って飲み物を注文する。
妻はお義母さんと話してる。溜まりに溜まった話があるのだろう。私のことはお構いなしだが、相槌は打たないと。うんうん話を聞いた。

かれこれ約1時間半くらいだった。一発目の印象で全てを判断されたのか、特に何もなく終わるかと思われた。が、最後に質問された。魔女に。

「ところで〇〇君、過去にお付き合いされてた女性とのご縁は全て切れてるわよね?」


なんちゅー質問をしてくるんだ!
試されてる!

私は答えた。
「あ、はい。もちろんです」

嘘ではない。もちろんだ。


「う〜ん、ならよかった」 



ひと段落すると妻が窓の外の景色を見て言った。

「あ!カラスだ!」

「あらほんと!可愛い!」


カ、カラス…?かわいいか?かわいいのか。
きっと動物好きなご家庭なんだろう。
そう思って挨拶を終えた。


妻と結婚して3年が経った。誤解なきよう書いておくと、この3年間、魔女、もといお義母さんは私を本当の息子のように可愛がってくれている。ただ魔女っぽいだけで、普通にいい人だ。いつもありがとうございます。

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