……はい…。……ああ、はい、お待ちしておりました…。
恐れ入ります、もう少々お待ちください…。

……すみません、大変にお待たせを致しました…。　

小宮先生、こんにちは、今日はどうもわざわざ。
はい、…ええ、こちらの方が、伍代智世さん…。


はじめまして。…ええ、はい。私が立花葵です。
どうぞよろしくお願いいたします。


あの、初対面から大変に失礼ですけれど、…本当に伍代智世さん、ですよね？

いえ、あの、私が勝手に想像していたより、ずっと、その…雰囲気の柔らかい方で、
それに溌剌とした物言いをされるんだな、って。

それに、お借りしたご本の著者略歴やら、
あと、…不躾ですけれど、ネット検索で調べさせて頂いた範囲内では、
少なくとも私よりも、その、…「お姉様」でいらっしゃいますし…。

それに、私、真っ直ぐ会社に入っていたら、
もうそれなりの立場にいても可怪しくない年齢の上に、
曲がりなりにも出版業界に携わる身で、
本当に世間知らず、物知らずで申し訳ないんですけれど、
伍代さん、…相当のキャリアもおありみたいですし…。

何より、…私が拝見した限りでは、
お顔立ちが、…何と言うか、もっときりりとした印象だったので、
きっと、……一昔前の女子校の先生みたいな方かって…。


大変失礼を申し上げました。
…いえいえ、本当にどうぞよろしくお願いいたします。


あの、まずはお上がりになりませんか？
立ち話も何ですし、…何しろまだ、春は名のみの風の寒さ、ですから。　

あ、小宮先生、もうお帰りですか？
…え、もう次のお仕事の？
それはどうも、先生、…わざわざありがとうございました。
ええ、はい…。あの、先生、どうぞお気をつけて…。

ええと、…伍代さん、とりあえず中へどうぞ。独り住まいで行き届きませんが…。

…いえ、そんなことは…。ただ広いだけの、古い家でして。

あの、どうぞこちらへ…。
申し訳ありません、うちで椅子とテーブルがあるのは台所だけですので。さすがにそちらには…。

よろしければ、どうぞこちら、お当てください。…ええ、どうぞどうぞ。

…え、あの、…いいんですか？
ありがとうございます…。せっかくのお心遣いですし、遠慮なく頂戴いたします。
実は私、これ大好物で…。

あ、後藤さんに聞いていらしたんですね。
すみません、わざわざお気遣い頂いて。


お祖母ちゃん、これ、こちらの伍代さんに頂きました。
お祖母ちゃんもこれ、大好きだもんね。良かったね、嬉しいね。

あの、伍代さん、これは大変に不躾なお願いなんですけれど、
…もしよろしければ、ちょっとお線香を上げてやって頂けませんか？

今日、ちょうど祖母の月命日なんです。
祖母も、…きっと珍しいお客様は喜ぶと思います。


よろしいですか？ありがとうございます。
ええ、どうぞ。お願いいたします…。