2022年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。矢野顕子の同名楽曲にインスパイアされた作品ということで、この曲は作中でも使用されている。"どんなに離れていても愛することはできる"とか"もうなにも欲しがりませんからそこに居てね"とか、亡くなってしまった息子や突如戻ってきた元夫との距離感に苦悶する主人公妙子の心情を直接的に歌っていて(順序は逆だが)、感情表現を押し殺す妙子の心の中を知る補助線として機能している。また、"共感し難い"パクの存在を理解するための補助線として、野良猫が登場する。息子の死と共に帰ってきたパクは、妙子の中で敬太と重なり、パクを世話することを決める。パクの不可解な行動の数々は、食べる/逃げるなど野良猫の行動と直接的に重ねられており、その猫を継承することで、パクは妙子の中にあったパクと敬太の重ね合わせを解く。この継承が、長い間監視と断絶の象徴となっていた駐車場で行われるのも興味深い(後述)。

本作品は洋式空間と和式空間が共存する団地空間に人々を置くことで役割や心象空間の断絶を表現している。冒頭の祝勝会＆義父誕生会の時点で、和式空間でキスをする夫婦と洋式空間でオセロをする息子を、和式空間でカラオケに興じる客人たちと洋式空間で食器を片付ける妙子を分け、様々な形で断絶する人々を描いている。ここに義母の"人間は孤独"という言葉に繋げられている。一方で、引っ越していった義両親の部屋はどの部屋も洋式空間として等価に扱われていて、なんなら二部屋同時に映ることすらある。臨時でここに暮らすパクと妙子の関係性はここからも窺い知ることができる。和式空間と洋式空間は敬太の遺骨がある空間と生活空間としても分けられていて、例えばパクが敬太の遺影に祈るのを妙子が視線をずらして観に行くシーンなどが印象的だったが、地震が起こってオセロ盤を和式空間→洋式空間に移すシーンにおいて、それが最も顕著に現れる。パクの言葉を借りると"周りの人は敬太を忘れろと言うが貴方は忘れるな"ということを、和式空間から生活空間としての洋式空間に敬太の遺したオセロ盤を移動させることで視覚化し、敬太の記憶と寄り添いながら生きていくことを提示する。

また、団地そのものの空間も断絶として機能している。隣の棟に二郎の両親が住んでいて、妙子が家を出たら見られている、しかし意思疎通には大声で会話するしかないという物理的な断絶が、"中古"呼ばわりして新しい孫を求める義父母との断絶を転写している。興味深いのは目線や声の他にこの物理的断絶を乗り越える方法として、『5windows eb(is)』のような光の反射(具体的には鳩避けのCD)が用いられていることだろう。このCDは義母とのキリスト教談義、パクとの幽霊のじゃれ合いなどで印象的に登場する他、CDの反射光も二郎にじゃれ合いを気付かせ、韓国から帰った妙子を迎え入れるなど、まるで敬太のような"目線"を持っている。

終盤、パクの嘘を知った妙子はポップソングに身を任せて踊り始める。"息子"を祝う行事という反復は、パクが敬太ではないことを残酷なまでに浮き彫りにする。彼女の後頭部からはいつも通り感情を窺い知ることが出来ないが、降ってきた大雨が彼女の心の内を代弁していた。"鑑賞の誤謬か"と思うより先に、『コンドル』の帽子から滴る雫を思い出していた。

・作品データ

原題：Love Life
上映時間：123分
監督：深田晃司
製作：2022年(フランス, 日本)

・評価：70点

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