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誰を将にするべきか

企業経営者と話していて、よく「どんな人材を幹部にすべきか」という議論になります。高い業績をあげる人材が良いのか、地頭の良い人材が良いのか、はたまた真面目一本で高潔な人材が良いのかなど、議論は止め処なく続きなかなか答えが出ません。企業の将来は、誰を幹部にするかにかかっている面がありますので、そんなに簡単に結論が出る話ではないですし、一概にどんな人材が良いのかを述べることは難しいですが、ヒントになる話があります。

「ゼークトの組織論」という都市伝説的な逸話のことを耳にしたことがあるかもしれません。戦前、ドイツ参謀総長などを歴任したハンス・フォン・ゼークトが言ったというまさに「誰を将にするべきか」を述べた話なのですが、実はゼークトではなくドイツ陸軍総司令官でありながらナチスを毛嫌いし、戦時中に亡くなったクルト・フォン・ハンマーシュタイン=エクヴォルト男爵の言葉というのが本当のところのようです。戦後アメリカにも広がって普及し、様々なバリエーションがあるのですが、代表的なものをご紹介します。

いわく、「将校には4つのタイプがある。利口な将校、勤勉な将校、馬鹿な将校、怠け者の将校である。ほとんどの人間はこれらの組み合わせである。
1.利口で勤勉な将校:彼らには参謀本部が適任である。勝つための戦術を立案できるからである。
2.馬鹿で怠け者の将校:こやつらはどんな軍隊にも9割いるが、決まりきった仕事に向いている。命令されたことしかできないが使い道はある。
3.利口で怠け者の将校:彼らこそ前線指揮官などのリーダーとして仕事をする資格がある。必死で生き残るために的確な指揮をするだろうからである。
4.馬鹿で勤勉な将校:こやつらには責任のある仕事を任せてはならない。さっさと軍隊から追い出すか銃殺にすべきである。なぜなら間違った命令でも延々とやり続け、気がついたときは取り返しがつかなくなってしまうからである。」

様々な意見があると思いますが私は非常に的を射た考えだと感じます。ここでは指揮官にすべきは「利口な怠け者」とされています。怠け者というと印象が悪いですが、最小限の努力(インプット)で最大限の成果(アウトプット)を狙う人材と言い換えると俄然印象が変わります。つまり常に最大の投資効果、費用対効果を考える人材だとすると、まさに将にうってつけの人材と言えると思います。無駄な時間や労力をかけたくないので、いかに楽をして成果をあげられるか考え仕組みを作ったりします。結果的に部下や周囲も無駄な時間や労力を割かずに成果をあげられるようになるのです。

ところが実際には多くの企業において「馬鹿で勤勉な人材」が幅を利かせています。「馬鹿」というと語弊がありますが、要するに「無能」ということです。往々にしてこういった人物は「成果をあげること」ではなく「勤勉であること」つまり「仕事をしていることそのもの」を重視してしまうので、効率が悪く仕事が進みません。しかし真面目であることは誰もが認めるので批判を浴びることは少なく、むしろ努力を認められて出世していきがちです。あれやこれやの「正しい」手続き、ペーパーワークのみが増えていき、部下は疲弊してしまい、だんだん組織の活力が落ちていってしまいます。それこそ「利口で怠け者」人材は真っ先に排除されてしまいます。組織内に「成果」より「勤勉さ」を求める文化が定着してしまうのです。

コンサルタントとして数多くの企業を支援する中で、こうした「馬鹿で勤勉」な人材が会社をダメにしたケースを多く見て来ました。長時間会社にいることを評価したり、成果をあげるが手抜きをする営業マンを叱責してやる気を無くさせたり、不要なルールをどんどん作って社内をがんじがらめにしてしまったり。意味もなく報告書を出させたりするのもこういったタイプの人材です。最近でこそ減りましたが昔はどの会社にも、机の上の未決済書類の山が自慢の管理職がいました。

大げさに聞こえるかもしれませんが、日本企業の生産性が低いのはこういった「真面目で勤勉な無能者」が組織内に大量に存在し、しかも幅を利かせているからだと考えています。こうした人材は、自分と同じタイプの人間を評価し引きあげます。つまり「馬鹿で勤勉な人材」が拡大再生産されて権力を握り、「馬鹿で勤勉な組織」になっていきます。「日々コツコツコツコツ、ダメになっていく」会社が出来がってしまうのです。そうなると会社を変えるのは並大抵ではありません。

華僑のビジネスマンと仕事していたとき「日本人はいかに自分が働き者で休まないかを自慢する。華僑はいかに自分が働かないで成功したかを自慢する。根本的に違う」と言われたことがあります。働くことそのものが美徳という考え方は尊いかもしれませんが、成果より勤勉さを重視する組織に未来はありません。日本企業がもう一度世界で輝くためには「利口で怠け者」の人材を活用し、少ない投資で最大限の成果を上げる組織にしていくしか道はないと感じています。

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