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陣中に生きるー5

A  出征


上(僕のおじいちゃん・元介)左(長男・侃)左中(義母・中村かや)右中(次男・高光)右(妻・僕のおばあちゃん・包子)
兵庫県現在の西宮付近に住んでいた。


一、動員下令   昭和十二年 九月十一日


九月十日 曇 ①

― 愛別離苦 ―

昨夜はどうしたことか寝つきが悪く、二時過ぎまで、学校の現状などについて考えていた。
多分、三時間ほどしか眠っていない。
でも、いつもと変りなく、元気で出勤した。

第一校時は高女の団体訓練。
第二校時は算術だったが、新聞記事<北支の泥海>を読み聞かせ、所感を付け加えて、例題を一つやると時間がきた。
参観日なので親しい父兄もチラホラ見えている。

職員室にもどって、ドッカと腰をおろす。
緊張した気分をはき出すように、大きく一つ吐息した。
と、その時給仕さんが、
「お電話です」
と呼びに来た。何気なく立っていく。
受話器に聞き耳をよせる。
するとそれは、おとなりの中島さんからで、
「動員令が下りましたので・・・・・・・」
という昂奮した声である。

瞬間、<いよいよ来たな!>と思った。
第一回目の出征から五年余、<あるいは・・・・・>という予感が、ないでもなかったからである。
身も心も、グッと引き締まった。
奥歯をかみしめ、くちびるをギュッと結ぶ。
おのずと眼球に力が入った。
居合わせた先生方に、そのことを知らせようとする。が、
「冗談言うなよ」
とばかり、一笑にふかして本気にしてくれない。
とにかく、電報確認のため帰宅する。

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