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洞川食探訪vol.9(書き手:覚 和歌子)「芋にじり」

 手作りのアートフェス『九鬼祭2023』参加アーティストの覚 和歌子です。作詞家、詩人と名乗っています。代表作は映画「千と千尋の神隠し」主題歌『いつも何度でも』。私の名前は知らなくても♫呼んでいる~で始まるあのワルツを聴いたことがある人は多いのでは。洞川の美味しいものをリレー形式で書くブログ、今回は私の番。「芋にじり」をご紹介します。 

芋にじり

 子どもの頃からひどい偏食だった。動物性たんぱく質はかつおぶし以外、誇張なしに吐き気がして食べられなかった。心配する母親がそれとわからないように挽肉でカレーを作っても細かい肉片を選り分けて残した。ポテトサラダからハムをはじき、ホットドッグからソーセージをはずし、寿司はもっぱらかっぱと梅限定、刺身もアジフライも見ないふりをした。前世はまちがいなく坊さんだったと思う。
 小学校では「残さず食べよう」という往時の給食教育のために食べ切るまで席に取り残された。帰りの掃除が始まってホコリが立つ中に乾いた唐揚げを前にうつむいていることは一度や二度ではなかった。そのうち、腹を括って噛まずに丸呑みする技をものにした。いっぺんには呑み込めず涙目になってえづくのだが、それでも噛んだ肉や魚の味や匂いが口の中に広がるよりはマシだった。繰り返すうちに最小限の苦しみをもって一度でうまく呑み込めるほどに上達し、そのせいか今でも私は薬を服むのがめっぽう上手い。
 そういう子どもの私が好んで食べたのが野菜全般、特に芋栗南京(いもくりなんきん)だった。給食は毎日揚げパンとお芋の天ぷらだったらいいのにと本気で思っていたほどである。
 そうして大人になった私は、いま洞川で何をいちばんに食べたいかと言われれば、すみません、この土地の美味なること評判の柿の葉寿司でも川魚でも猪鍋でも鹿肉のステーキでもなく、胸を張って「芋にじり」と答えたい。これはじゃが芋をふかしてつぶしたのと白米を半々に混ぜて握って醤油バターで焼いたものである。芋を混ぜることでお米の噛み口が軽くなる。お焦げの昂揚感とおむすびの愉しさにバター醤油の香ばしさも相まって、炭水化物好きにはたまらない。ふき味噌バージョンや山椒味噌バージョンもあるが、私は基本型の醤油バターがお気に入りである。

味は山椒味噌、ふき味噌、定番醤油バターなど

 洞川をこよなく愛するさっとん姐(中山聡美さん@ひらべん茶屋)がこしらえてくれたのが私の「芋にじり」初体験だった。初体験がさっとん姐の手によるもので良かった。さっとん姐はぺろりと二つ食べてしまう私を「良かったあ」と言いながら笑って見ている。洞川愛が服を着て歩いているみたいだなあ、と思いながら私の手が三つ目にのびる。いつか自分のお店を出すのが夢というさっとん姐を私は全力で応援している。
 また洞川にこういうものがあると教えてくれたのは、九鬼祭参加アーティストの創作パートナーとなってくれた赤井くんだが、彼はこのブログで「芋粥」を推していた。さっとん姐が勢いで「芋粥」も作ってくれたのだが、「芋にじり」と兄弟みたいな味わいで、これもまた本当にからだがしみじみしたのだった。

 「芋にじり」も「芋粥」も米が取れない洞川ならではの知恵食だという。また洞川の土地言葉で三食の間にとる軽食を意味する「けんずい」に「芋にじり」はぴったりだ。手作りのアートフェス、九鬼祭は11/12まであとひと月。歩きながら作品を楽しんで観てもらうのに、片手で持てる「芋にじり」はもってこい。『鬼いもにじりセット』は「芋にじり」2個と「ごろごろ水」。覚 和歌子作「鬼みくじ」が付いてます。

『鬼いもにじり』けんずいセット


施設情報

ひらべん茶屋
奈良県吉野郡天川村洞川28
ひらべん茶屋Instagram

ごろごろショップ
奈良県吉野郡天川村洞川46
ごろごろショップfacebook


赤井くんが書いた「芋粥」のブログはこちら


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