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#499 圧倒的な物量で印象派から現代絵画までを一気見できる稀有な展覧会〜アーティゾン美術館〜

アーティゾン美術館で開催中の『ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ』を見てきて圧倒されたので、メモ。


1、どんな展覧会?

東京は京橋にあるアーティゾン美術館で8月20日まで開催中の企画展です。

同美術館は4階から6階の3フロア展示スペースがあるのですが、通常、企画展2つと常設展の3つをワンフロアづつ使うことが多いのですが、今回は3フロア全て使った、総作品数264点(!?)という圧倒的な物量(っていったら失礼ですが)で抽象絵画の流れを現代まで一気に体感できる、稀有な企画展でした。

特に個人的には、日本の戦後以降の現代まで含む抽象絵画の流れを体感する点では本当に充実した展示だと感じました(もちろん、そこに至るセザンヌから印象派を経てピカソ、ブラックをはじめとしたキュビスム、そしてカンディンスキーやパウル・クレーといった展開といった欧米での展開部分も充実しています)。

抽象画を実際の作品を見ながら体感するにはうってつけの、そして今後なかなかないような規模と充実の企画展ではないでしょうか。

やはりアーティゾン美術館、すごいです…


2、同じ画家の変遷を実感する。

なにしろ264点ですから大変な量です。ほとんどの作品は撮影が可となっておりましたので、私の独断と偏見でほんの一部をご紹介します。
(今回熱中しすぎて写真とるの結構忘れていました…)

ここでは、2人の画家を取り上げて時代を経ることで作風がどのように変わったのか、をご紹介したいと思います。

まず、西洋美術史上はじめて自覚的に抽象絵画を描いた画家の一人と言われるカンディンスキーの作品。

ヴァシリー・カンディンスキー『自らが輝く』1924年

カンディンスキーが抽象画を描き始めたのは1913年頃とされていますが、今回、それ以前の彼の代表作である『3本の菩提樹』(1908年)も展示されています。

ヴァシリー・カンディンスキー『3本の菩提樹』1908年

見比べるまでもなく同じ画家が書いたとはにわかには信じられないと思います。この絵を描いてから5年後に抽象絵画を描き始めるわけです。
これがこの時代のスピード感、ということが体感できます。
(脱線ですがこうした体感ができるのが今回のこの企画展の凄さです)

次にご紹介するのはザオ・ウーキー『水に沈んだ都市』。今回の企画展まで全く知らなかったのですが、調べてみると中国で学んだのちパリで活躍した画家のようです。小さい画面なのですがとにかく色の綺麗さが印象に残った作品です。

ザオ・ウーキー『水に沈んだ都市』(1954年)

で、今回あまり写真撮らなかったのですが、なんと、同じ作者の約30年後の作品も撮っていました。別フロアで別セクションの展示でしたが…

ザオ・ウーキー『07.06.85』(1985年)

いかがでしょう?共通点を感じなくもない、のではないでしょうか?この時代になると、先ほどのスピード感よりも主題を掘り下げていく傾向が窺える、そんな印象です(個人の印象です)。


3、現代の作品。

次に、同じく印象に残った作品ですが、展示スペースと並び、というのも重要な要素でして、その点で印象に残ったものをご紹介します。

まずは、黒いざらっとした壁面に並んだ3つの作品。展示空間、という意味で広い範囲で。

左と中央 上前智祐『作品』(1965年、1966年)、右 田中敦子『無題』(1965年)

いかがでしょうか?
ほぼ同じ制作年の3つの作品。それぞれ好きな作品ですが、こうして並んでいるとまた別の印象を得られます。展示の組み合わせというのも本当に大事ですね。

次に同じ作家の作品ですが作品自体が並んでいるものです。幅が7メートルを超える作品なのでこんな角度ですいません…

津上みゆき『View,Water,21-25 June 2022-2023』(2023年)

津上さんの作品も今回はじめて拝見したのですが、やはり色が綺麗なのと、抽象画ではあるのですが、街の景色が水に映っているのかな、といった具体と抽象の間でいうと、モチーフがなんとなく想像できる気がする点で見ていて気がつくと時間が経っている、という不思議な体験をしました。

脱線ですが、こうした大型の作品は、美術館というハコができたことで可能になった、という点で個人的には近代ならではの作品だと思います(壁画とかは別ですが)。

最後に、現代絵画で特徴的な、表面の表現といいますか処理といいますか、をよく表した作品をご紹介します。

鍵岡リグレ アンヌ『Reflection p-10』(2023年)

写真だと分かりにくいかもしれませんが、絵の具を使った彫刻とでも表現したくなるような、立体的な作品です。こうした表面に立体感を持たせた作品というのはよく見ますが、こちらは、そこに圧倒的な色彩が層になっているという点が印象的です。


4、まとめ

という訳で、アーディソン美術館で開催中の企画展についてのメモをしてきました。

いかがでしたでしょうか?

例によって今月20日までという、残り少ないタイミングでのご紹介ですが、やはりアーティゾン美術館の力をまざまざと実感する、圧倒的な内容でした。
抽象画から、しかもセザンヌ、印象派から、現代美術への流れをここまで一気見できる企画展はなかなかないと思います。

全体で12のセクションに分かれているのですが、それぞれの解説パネルもその流れを理解するのを助けてくれます。

抽象画とかよくわからないなぁ、でも理解したいなぁ、という方には絶対的におすすめです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
どこか参考になるところがあれば幸いです。

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