30歳の同窓会で親友と多分人生最後の大げんかをした
30歳の同窓会で親友と多分人生最後の大げんかをした。
中学校の同級生が一堂に会する大きな同窓会だった。
30歳、微妙なお年頃である。
未婚と既婚がちょうど半々といったところだっただろうか。
20歳の時にも同じメンバーで同窓会が開かれたが、その時はほとんどの参加者が未婚で、大多数がまだ学生であった。
40歳で、もしまた同窓会があれば、きっと既婚者の比率がもっとずっと増えているだろう。
30歳。
未婚も既婚も、子持ちもバツ1も千々に乱れてまさに色とりどり、多種多様、しっちゃかめっちゃかである。
私の親友は結婚して1年目。私は未婚。
お酒が回り、会場はほの暗く、あちこちで嬌声が上がる中、お手洗いで席を外した私は、それまで自分が座っていた席がうまっていることに気づき、
別の席を探した。
トイレの近くに空いた席を見つけ座る。
顔を上げると、中学生時代に親友が片思いしていた相手と目が合った。
肌がきれいでサラサラヘアーの爽やかな元サッカー部、でも浮ついたところがなく、男子とばかりつるんでいた人。
彼は、親友の王子様だった。
すでにかなり酔っていた私は、王子様に陽気に声をかけた。
学生時代おそらくお互いの存在は認識していたものの、一度も会話したことがなかった私たちだったが、王子様もほろ酔いで、思い出話やお互いの近況報告で盛り上がった。
ひとしきり笑いあって、facebookの友達申請を承認し合い、私は友人たちの輪の中に戻った。
そこで待っていたのは怒り心頭といった風情の親友。
「たいたいは酷い!!」
突然なじられ私は驚いた。
親友は燃えるような目で私を睨んだ。
「私が王子様のこと好きだったの知ってるよね!どうして私を話の輪の中に入れてくれなかったの!!?」
聞くと、王子様と話している私をたまたま見つけた親友は、自分も話に加わろうと私のすぐ近くの席に座って、私からのアシストをずっと待っていたようなのだ。
深酔いしたことがある人なら分かってもらえると思うが、うす暗いムーディーな照明の中、極端に狭くなっていた私の視野は良くてせいぜい30度。
私には親友の姿はまったく見えていなかった。
そう説明しても親友の怒りは収まらず、むしろヒートアップしていった。
いくら親友の好きだった人だとはいえ、中学校時代の話である。
最初は本気で冗談を言っているのかとさえ思った。
普段温厚な親友がここまで怒りをあらわにする理由が全く分からない。
結局その場では和解には至らず、親友は怒って帰ってしまった。
気が付いたら私は別の友人とどこかのラーメン屋にいて、いつの間にか合流していた友人の姉とラーメンを食べながら号泣していた。
「気づかなかっただけなのに!」
友人は隣で私の話に適当にうなずきながらラーメンをすする。
「大体、なんで中学生の頃の好きな人のことでそこまで怒るわけ!?中学生だよ?」
友人の姉が私にハンカチを差し出す。
「私も王子様も未婚同士だったらまだ分かるよ?でも、王子様はもう結婚してて、親友も既婚者じゃん!夫がいるくせになんでこんなことで腹を立てる必要があるの?独身の私だけが大損じゃん!」
漫画のように私は「わー!」と声を上げ悔し泣きした。
余談であるが、この時食べた豚骨ラーメンの舌を焼くような熱さだけは今も鮮明に覚えている。
当時私は自分が未婚であることに内心とても焦っていた。
親友を始めとする既婚者の左手の薬指に嫉妬していた。
結婚はゴールじゃないと頭では分かっていても、やはりそれは分かりやすい一つのゴールだった。
今ならよく分かる。
結婚は本当に、本当に、ゴールなどではない。
結婚=安心でもないし、結婚=幸せでもない。
完璧な結婚など存在しないし、完璧な結婚相手などいない。
その後しばらくして親友とは、なんとなーく仲直りして現在に至る。
あの時の話はお互い照れくさくて一度も触れていない。
今なら、当時の親友の気持ちが分かる気がする。
結婚生活1年目。
親友は完璧な結婚生活なんてものが存在しないことを、身をもって感じていたのだろう。
成就しなかった思い出だけはいつまでも夢のようにキラキラと光っている。
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