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表現の不自由展から5年、『平和の少女像』に会いに行く Museu de l’Art Prohibit(禁止アート美術館)訪問記

はじめに

 2019年、愛知県を主体とした国際芸術展「あいちトリエンナーレ2019」内の企画展「表現の不自由展・その後」に抗議が殺到し、開催から3日後に中止になりました。このニュースは各メディアでも大きく取り上げられ、2021年に名古屋で開催された展示会でも、会場近くで激しい抗議活動が行われたり、同展示会の開催に反対する市民団体が向かいの展示会場で「あいちトリカエナハーレ2021」を開催するなど、物議をかもしました。
 その展示作品の1つだったのが、韓国の彫刻家キム・ソギョン-キム・ウンソン夫妻作の『平和の少女像』です。企画展の中でも特に注目された作品で、表現の不自由展と聞くとこちらの作品を連想する方も多いのではないでしょうか。『平和の少女像』は2021年の展示会の後、スペインの実業家であるタチョ・べネトが購入し、2023年にバルセロナにオープンした「Museu de l’Art Prohibit」(以下美術館)にて常設展示されています。2024年1月にバルセロナに行く機会があり、報道でこちらのオープンを知ったため、美術館を訪問しました。

美術館の概要

 美術館はバルセロナのグラシア通りから1本路地に入ったカタルーニャ広場から徒歩10分程度の場所にあります。近くには有名なガウディ建築の邸宅カサ・バトリョがあり、バルセロナ観光にも組み込みやすいです。美術館は「Casa Garriga Nogués」というスペインの文化財に指定されたアートギャラリーの中にあり、展示室の随所にその歴史を感じさせる建築デザインが残されています。

アラブ系キリスト教団体から抗議され展示を中止された『MCJESUS』とステンドグラス

 入場料は大人14€、学生および65歳以上11€、13歳以下は無料です。公式サイトで事前購入すると2€安くなるため、事前購入をおすすめします。入場料には、作品や解説パネルにスマートフォンをかざすと作品の詳細な解説が表示されるデジタルガイドが含まれています。また、今回は利用しませんでしたが、事前予約の上有料でガイドを付けることもできます。館内での写真撮影も可能です。

展示内容

  美術館は1階と2階部分合わせて200以上の時代や地域、禁止された理由も様々な作品が展示されています。展示作品の横には作品名や作者名のほか、どのような背景で作品が禁止に至ったのか説明が添えられており、デジタルガイドを参照するとより詳細な背景を知ることができます。説明はスペイン語とカタルーニャ語、英語の3言語で書かれています。禁止アートをテーマにしている以上、説明文の読解は美術館を楽しむうえで必要不可欠ですが、テーマがテーマだけに難しい単語も多く解説の読解には手こずりました。また、作品数も比較的多く、足早に見て1時間、じっくり鑑賞する場合は2~3時間程度は見込んでおいた方が良いと思います。


アンディ・ウォーホル『マオ』


 著名な芸術家の作品も数多く展示されており、中国国内の展覧会でキャンセルされたアンディ・ウォーホールの『マオ』や発売後すぐに圧力で販売を止め時の王に献上されたゴヤの『ロス・カプリチョス』をはじめ、バンクシーやピカソなども他の展示作品と並んで展示されていました。

ゴヤ『ロス・カプリチョス』の一部

 絵画・版画作品のみならず、立体作品や映像作品もいくつも展示されており、『平和の少女像』は複数ある展示室の1室を全て使う形で展示されていました。日本での展示会では、少女像の隣にある椅子に来場者が腰掛け写真を撮ったりすることもできていたようですが、美術館においては立ち入り・接触禁止の注意書きがあり、実際に像に触れることが出来なくなっていました。様々な作品がある中で『平和の少女像』は広い展示スペースが確保されており、ミュージアムショップに少女像をモチーフにしたノートが販売されていたりガイドブック内で「あいちトリエンナーレ2019」の際の抗議活動がピックアップされていたりと、美術館の注目展示の1つとして扱われていました。

表現の不自由展で展示されていた『平和の少女像』

 センセーショナルであればあるほど検閲・禁止されるアートになり得るため、美術館内は露骨な性的描写のある作品も多く展示されています。当然のことながらモザイク処理等はされていないため、かなりショッキングな作品もあるため、そういった作品が苦手な方にはお勧めできない美術館でもあります。

エロティックな作風で知られるピエール・モリニエのポートレート

 開館して間もないこともあり、老若男女問わず多くの人が美術館を訪れていました。センセーショナルな作品は多いですが特に騒いだりする客もおらず、静かにじっくりと作品と向き合っている方ばかりでした。外国人観光客らしき客は私たち以外にいませんでした。

おわりに


 展示作品がキャンセルされた理由としては主に、宗教・政治・性的描写のため当然のことながら扇情的な作品も多く、人を選ぶ美術館であることは間違いありません。しかし、世界各地の、そして近代から現代に至るまでの作品や検閲・禁止された背景を通し世界中の価値観の衝突や表現の自由の在り方を考えさせられる見どころの多い美術館でした。


政治的な作品をLEGOブロックで制作したことで、LEGO社からブロックの販売をキャンセルされたアイ・ウェイウェイの『FILIPPO STROZZI IN LEGO』

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