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LIBYA UPDATES: April 2020 Week 4 (4/24-30)


こんにちは🕊
今週もリビアを巡る主な動きをまとめました。

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これまでのリビア
リビアでは、2011年に40年続いたカダフィによる独裁体制が崩壊。その後、新たな政府樹立を巡り国が分断状態にある。
現在は、二つの「政府」が正当性を主張し合っている構図。首都トリポリを拠点し、国連の仲介で作られた国民合意政府 (以下GNA)と、東部の都市トブルクを拠点とする政府(以下HoR) だ。
2019年4月、HoRとつながりを持つハフタル将軍率いる勢力が、首都トリポリへ向かって侵攻を開始。GNAに忠誠を誓う民兵組織などがこれに応戦し、軍事衝突へと発展した。 GNAにはトルコ、ハフタル勢力側にはUAE、ロシアなどがつき、軍事支援などを行ってきた。

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1. ハフタル、「リビアを支配」宣言

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ハフタルは27日、自身の率いる民兵組織LNAが「人びとからの委任を受ける形」でリビアを支配することを宣言した。

声明では、2015年に国連仲介のもと行われたリビア政治的合意 (Libyan Political Agreement: 以下LPA)が「この国を壊した」と主張。この合意により樹立され、ハフタルが交戦状態にあるGNA政府を認めない立場を明確にした。
ハフタルは2017年12月にも「LPAは終わり」と宣言しており、一貫して同合意を認めない姿勢を貫いている。

LNAの後ろ盾となっているのが、東部の都市トブルクを拠点とした文民政府HoR。
今回の宣言は事実上、トブルク政府を排除する格好となるが、実際に今後両者の関係がどうなるかは明らかとなっていない。


GNA政府は28日、ハフタルによる宣言を「クーデター」であると非難した。


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ハフタル勢力は2019年4月より、首都トリポリへの軍事侵攻を開始。これに同都市を拠点とするGNA政府を支持する民兵組織などが応戦し、戦闘が続いてきた。
「首都からイスラーム主義勢力を排除する」とハフタルは訴えているものの、GNA政府はこれを否定。欧州とテロ対策で協力していることなどを根拠に挙げている。

国際社会の仲介のもと、今年初めには和平交渉が進められたが、停戦は実現していない。ハフタル勢力は1年で、大きく勢力を拡大している。

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リビア国内の勢力図。左は赤がGNA勢力、緑がハフタル勢力。右は赤がGNA勢力、グレーがハフタル勢力の支配地域を示している。
(出典: BBCをもとに筆者加筆)


多くの市民も巻き込まれている。
国連人道問題調整事務所OCHAによると、今年に入ってから市民の死者は64名、負傷者は67名にのぼる。
2019年4月に軍事侵攻が始まって以来、20万人以上が家を追われたという。


対立する両勢力ともに市民の犠牲を生んでいるものの、ハフタル勢力側による被害がより大きいことが分かっている。


2. 宣言に対する国際社会の反応

各国は27日の宣言をうけ、各国は声明を発表。
概ね、ハフタルによる宣言を退け、LPAを支援する姿勢を示している。

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トルコ外務省は29日、ハフタルが「軍事独裁を築こうとしている」と批判。今後もGNA政府を擁護し続ける意向を表明した。


トルコの関与
トルコはGNA政府を支援する姿勢を貫いており、今年1月には軍事支援を開始。地中海、中東地域での影響力を維持することが目的だと見られている。
今年はじめにはロシアとともに、ハフタルとGNA両勢力の和平交渉を仲介。


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ハフタル勢力を支援してきたロシアも、宣言を支持しない方針を示している。
同国外務省は今回の宣言について、「予期していなかった」と話した。


ラブロフ外相は「例外なく、リビアの紛争の全ての当事者とやりとりをしなければならない」とも述べている。


ロシアの関与
プーチン大統領とのつながりが強いとされている民間軍事会社(PMC)ワグナーグループが、約数千人規模の傭兵をハフタル勢力側に送っているとされている。
ロシア政府はハフタルとの関与を否定。だが昨年10月にはハフタルとモスクワで会談を行うなど、同勢力側との強いつながりを持っていることは明らかだ。


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米国大使館は29日、LPAで樹立されたGNAはじめとした政治機関が、同国の「唯一の国際的に認められた統治及び政権移行の枠組み」との立場を強調した。
ハフタルによる「支配」宣言を認めない方針だ。


米国の関与
米国はGNAを支援する立場を取ってきた。
他方、2019年4月にはトランプ米大統領はハフタルとの電話会談を実施。大統領はハフタルがリビアでの「テロ対策」と石油資源の確保のため重要な役割を持つと話した。


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🇬🇧英国
英国は大使館を通して、LPAで樹立を合意したGNA政府などの政治機関を支持する立場を表明。



🇮🇹イタリア
イタリア外務省も28日に声明で、国際社会により認められたGNAなどの機関を「全面的に支持する」という見方を示した。


同国はドイツやフランスなどとともに25日、リビアの紛争当事者らに対して改めて停戦協議の再開を求める声明を出した。
ムスリムにとって神聖なラマダンの時期に合わせたもの。

他方、イタリアをはじめとしたEU諸国は、リビアを経由して欧州を目指す移民・難民の越境を阻むため、同国での移民・難民に対する人権侵害を黙認してきた。


🇫🇷フランス
フランス外務省は28日の記者会見で、「リビアの紛争は国連のもとでの対話でのみ解決される」と言及。

同国は直接的な関与はしていないと見られるものの、ハフタル勢力とのつながりを持っていると考えられている。GNA政府はフランスに対し、明確にハフタルに反対の立場を取るよう訴えてきた。


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国連リビア特別ミッションUMSMILのウィリアムズ暫定特使は28日、GNAのシラージュ首相と電話で会談。
「LPAが国際社会により認められた唯一の統治の枠組み」であることを強調したという。

UNSMILは27日のハフタルの宣言に対する明確な立場は表明しなかった。

ハフタル勢力を支援するエジプト、UAEからは現段階では正式な声明を確認できていない。

【追記】
UAEは30日、トルコの介入を非難し、ハフタルを称賛する旨のコメントを出したとのこと。
ただし月曜日の宣言についてはコメントせず。1月に開催されたベルリン和平会議に基づく政治的解決を引き続き支持することを表明した。


3. 新型コロナの感染状況と医療施設への攻撃

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リビアの新型コロナ感染者数は、30日(現地時間)時点で61人。先週から1名増えた。死者も1名増え、2名となった。

GNA政府は17日より、10日間のロックダウンを宣言していた。

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今週は、少なくとも2件の医療施設が攻撃の被害に遭った。
写真はトリポリ近郊のタジューラのクリニック。

今年に入ってから、医療施設への攻撃は10件以上起きている。


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ハフタル勢力は30日、ラマダン期間中の停戦を宣言した。

ただし、ラマダン後は軍事侵攻を再開するとのこと。また、停戦期間中にも攻撃を受けた場合は報復を行う意向を明らかにした。


GNA政府とハフタル勢力は新型コロナ感染拡大を受け、3月中旬にも一度、停戦に合意している。
だがニューヨークタイムズの映像記者らによると、ハフタル勢力は停戦に合意した直後の3月21日に、市民の暮らす地域への爆撃を行ったことが分かっている。


参考

Bloomberg. "Haftar to Press Tripoli War Despite Cease-fire Calls, Aide Says."


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今週の記事は、パンデミックのなか戦い続けるリビアの人びとの姿を映した写真で締めることにします。


BBCの北アフリカ特派員、Rana Jawadさんは、ハフタルが宣言を「人びとの意思」によるものだと述べたことについて、「長きに渡り銃と戦争が、リビアの"人びとの意思"を黙らせてきた」と述べています。


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