小説家の連載 妊娠中の妻が家出しました 第14話(最終話!!)

〈前回のあらすじ:浩介はありったけの思いを華につたえる。海路と口論になるが、突然華が海路にビンタ。反省と後悔の念を口にし、やり直したいと言った。浩介は妻を抱きしめる。いよいよクライマックス!〉

 華を抱きしめた後、浩介は涙を流しながら妻に言った。
「俺はずっとやり直したいと思ってた。赤ちゃんのためにも再構築しよう」
「いいの?私、家出なんかしたのに、許してくれるの?」
「もちろんだよ。華を愛しているし。華を不安にさせた俺にも責任がある。一緒に家に帰ろう」
「浩介・・・!愛してる」
「俺もだよ。華、愛してる」
 互いに泣きながら、若夫婦は和解した。浩介は三日月と青桐に向き直って、
「大変お騒がせしました。離婚はしません。でも相談にかかった料金はしっかり払いますので」
 と言った。
「離婚しないに越した事はありませんよ」
 青桐はにっこり微笑みながら答え、三日月は照れくさそうな表情で、
「ま、これで丸く収まったっすね。・・・じゃ、あんたはもう帰ってもらっていいっすか」
 と、海路をつまみ出そうとした。海路は最後の抵抗で、
「ま、待て!華ちゃん、俺と一緒に帰ろう!」
 と叫んだが、華が、
「悪いけど、あなたは自分の思い通りにしたい年下の女が好きなんでしょ。私、人妻の妊婦だから、あなたの思い通りにはならない。だって、これからママになるんだから」
 と清々しい笑顔で言い放ったので、絶望の表情で、三日月に追い出されるようにして弁護士事務所から出て行ったのだった。

 その後。自宅に帰って落ち着いた後、若夫婦は、両家の親を呼んだ。
 華は同性の友人のところにずっと家出していたという事にして、心配をかけた事への謝罪と、今後について話すためだ。
 浩介の両親は、見つかって良かった、今後は今までと変わらず二人を見守っていくよというスタンスのまま。
 華の両親は、ずっと家出していた娘に怒りと、見つかった事への安堵で、顔を真っ赤にしてぼろぼろに泣きながらも、娘を抱きしめた。華も泣きながら謝った。母親になるんだからもう2度とこんな事はしない、と何度も何度も約束していた。
 浩介は、こんな事態になったのは、自分が至らなかったからだ、と述べて、
「妊娠で不安定な華を一人にしたのが間違いだったんです。今後は初めての育児でより不安になると思う。だから・・・」
 もう今更病院を変える事はできないので、里帰り出産はできないが、華は産後しばらく実家に帰ってゆっくりさせたいと言った。そして、B市に戻ったら、浩介の両親と同居する。そうすれば華は昼間1人にならずに済むし、嫁姑も浩介の母と大の仲良しだから問題は無いだろうと。ただ一軒家での同居は厳しいだろうから、二世帯住宅に一緒に住まないか、と。浩介が全額そのためのお金を出すのは厳しいので、両親にも少し出して欲しい。そう交渉したのだ。
 同居は、両親を呼ぶ前に二人で話し合った。華が言い出した事でもある。
「何かペナルティを与えて欲しい。不貞行為は無かったとは言え、元カレの家に住んでたんだから」
「じゃあ、うちの親と同居は?それなら昼間一人にならないから、ノイローゼにならなくていいし、ペナルティとしては、元カレに連絡する隙が無くなって、いいんじゃないか」
「それいいね。あなたのお義母さん大好きだし」
 という訳なのだった。
 互いの両親はびっくりしていたが、
「まあ、親と同居するなら今後の心配も無いだろうし」
 という結論に至ったらしく、反対してこなかった。
 
 ところで、心配していた家出中の妊婦検診だが、実は華はちゃんと行っていたらしい。
 B市で通っている産婦人科に電話で相談したらしい。
「夫と喧嘩してしばらく横浜市内に滞在するのだが、その間妊婦検診はどうすればいいか」と。
 で、医師が、その医師の先輩の医者が経営している産婦人科がたまたま横浜市内にあるとの事で、先輩医者に事情を話して、華のデータなども送り、特別に家出期間の間だけ見てもらっていたのだと。
 ただ、いつ産まれてもおかしくない時期=生産期に入ってからは危ないし、先輩医者の病院でも突然分娩になったら大変なので、必ず生産期までには帰ってくるようにという限定的な許可をもらっていたのだと言う。
 華は離婚覚悟で戻ってきたので、もし離婚になったら、とりあえず出産が終わるまではB市に居て、出産後また横浜に帰ろうと思っていたのだそうだ。
 妻の体が心配だった浩介は、生産期までに戻って来てくれた事に心の底から安堵した。
 華の妹・雪も、姉が無事戻ってきて、この騒動も終わった事を知って安心したのだった。

 
 それから1か月程して、華は生産期に入り、予定日のあたりで無事出産。元気な男の子を出産した。浩介も両家の親ももちろん喜び、涙を流して喜び合った。
 新生児を連れて新幹線に乗る勇気は無かった華は、退院時両親に車で一時間半かけて病院まで迎えに来てもらい、生後3か月ぐらいまで実家でぐうたらした。
 浩介は入院時からもちろん何度も妻子に会いに行ったし、妻の実家にもしょっちゅう顔を出した。実家訪問時は父親らしくおむつ替えやミルクを与え、我が子に存在を認められようと頑張った。華は実家でゆっくり休む事ができた。
 華が家出から戻ってきてすぐから、浩介は二世帯住宅を必死で探していた。そして華が出産後里帰りしていた頃、親戚で二世帯住宅を訳合って手放すという人から、中古だが家を買い取らないかという話をもらい。
 両親と相談し、親戚とも話し合って、二世帯住宅を買い取る事ができた。  中古なので、新築より、さらに一般の中古の住宅よりも、安く、マイホームを手に入れたのだ。
 浩介は華に、里帰り期間を延長してもらって、その間に二世帯住宅に住む手続きと、引っ越しを済ませた。
 華がB市に戻ってきた時には、浩介の両親と、可愛い我が子と共に暮らせる家を手にする事ができたのである。
 華は今では、離婚の事は一ミリも考えていない。子育てで忙しいからだ。浩介は仕事と育児に奮闘しているが、あの空っぽのアパートの部屋で妻の帰りを待っていた時に比べれば、どうという事も無い。両家の親も、初めての子育てに奮闘する娘と息子を、温かく見守っている。
 人は孤独にさいなまれた時、間違いを犯す事もある。夫婦でも互いに間違いを犯す事がある。互いに傷つけあってしまう事もある。
 でも、必ずしも離婚しないといけない訳じゃない。お互いにまだやり直したいという気持ちさえあれば、たとえ時間がかかっても、再び互いを愛せるようになるのだから。

 きっとね。
 都合のいい時だけ助けてくれる元カレにはそんな事はできない、
 覚悟を持って籍を入れた夫だからこそ、最後まで妻を信じることができるのだから。
                             
                                完

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