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繊細なヤケクソ(前) 『PIECE OF MY SOUL』(1995年 CD/4thアルバム) WANDS

邦楽ロック史上、屈指の名盤と考えて差し支えないと思う。

個人的にひいきのアーティストは他にもいるし、もっと言ってしまうなら、そもそも自分はWANDSのそれほどまで熱心なファンというわけではない。(いや、当時普通に好きだったけど)
しかしこれはそんなこと度外視してしかるべき歴史的傑作であり、『PIECE OF MY SOUL』を聴くことができたのは本当に幸運だ、とあらためて心から感じるだけだ。誰だよそういうもので腹は満たされないとか言ってる奴は!五臓六腑に染み渡っとるわ!形なきものをなめんな!(しずまれ)

まあメンバーの音楽性の違いとか、レーベルとの間にいろいろあったんだろうな…とか、その後の成り行きからも多難さが随所に垣間見えるわけだが、とにかくこのアルバムの何がすごいって、その時の彼らの方向性とか世界観は存分に伝わるのに、コアな層だけでなく多くの人が耳にする可能性がしっかり残されていたことなんじゃないだろうか。絶妙なライン。いや~…これいまだに気を抜くとただ唸るだけになりそうである。

とはいえ、やはりそれまでのWANDSの、電子ビートの効いた軽やかな印象(以前からそういう曲ばっかりやってたわけでは決してないんだけど…)が好きで期待していた人達からすると、にわかに音も重くなった上に不穏な空気が立ち込めまくっている本作に対しては、アレ…?となったのも無理はないのかもしれない。元々そういった作風にはなじめない感覚の人もいるだろう。

筆者はそこそこ生きてきた過程において、新型ウイルスなど襲来していないにもかかわらず精神状態がなかなか最悪だったのが中学~大学生時代だが、もう浮上するしかないと無意識的に気づくところまでおそらく来ていた時期だったのはあるとしても、その頃ちょうど哲学者・中島義道氏の著作をふと読み、氏が「どうせ死んでしまう!」とか連呼されているのを心から痛快に感じて、他の学生がどういう生活を送っているかなど本当にどうでもよく、家でひとりその破壊力に抱腹絶倒していたような、そういう感性の人間だ。(友人はいたとはいえ、だからそうはならないとかそういうことじゃないんだよね^^;)

であるからして、精神状態がよろしくない時に負のナニカが漂う本作を聴いても『WANDS…ていうか上杉さん…やってくれたな…』と思うのみ。むしろこの孤独で繊細な自棄糞は、より不調の時に響いてきた。個人的にロックは特に、内省だけじゃなくそこにヤケクソを感じられないと、はまらない笑
ただ、そういったものに触れて清々するというタイプでなく、逆にメンタルが不安定になるかたにはあまりお勧めできないところはあるかもしれない。

ちなみに筆者はそういう場合に「時には大変なことや嫌なこともあるよね、けどゆっくり進もう、きっとハッピー」(単なるイメージです)的なものを見聞きすると、
「…………………………あ?????」
(ごほっごほ!え~不適切な眼光があり大変失礼いたしました)となるほうなので、処方箋が違ってるというか、それでは元気にならないのであった…人によって体質に合うお薬って違いますからね…
(むろん現実生活でしょっちゅう他人に負をなすりつける大人からは距離を取らせていただく。それはただの礼節知らずだと思う。芸だからこそ輝く。ドライですいません^^;)

音楽上の専門的なことはわからない。だが、このアルバムに終始ただならぬ説得力を持たせる音が鳴っていることだけはわかる。一曲目のワンフレーズを聴いた瞬間、『あ…これはなんかすごいのきたな、やってやるからなって感じできたな』とその気迫が聴いている者にシンプルに伝わるというのは、もちろん技術的にしっかりしてないと話にならないところはあるだろうが、音にそれだけ思いと力があるということだ。人間って本来そういうのを感じ取れる生き物だからこそ、あらゆる人の心を動かす可能性があるんだろう。

そしてボーカル上杉昇(敬称略で申し訳ない)の歌声、あれは反則である。歌がうまいとか迂闊に言えないぐらいの、歌うために生まれてきた人なんだとしか感じられない表現力。華はあってもクソ真面目かつ投げやり、色っぽいのに無味乾燥と何とも多彩で奥行きのある世界を見せてくださり、その上全体的には統一感まであるという珠玉の仕上がりに、長年聴いていても全く飽きない。

ともかく、ここに至るまでの彼らを知らない人のほうが、却ってすんなり聴けるんだったりして…なんて思う部分もある。もしかすると、この後にフロントマンが替わってからのWANDSしかご存知ないというかただっていらっしゃるかも…?ただ人間って、時代が変わろうが、古いとか新しいとかいうだけの概念には左右されないで共有できるものがあると実感を持って生きてきた。

後編では、全10曲を聴いて感じたことをそれぞれに記してみるつもりだ。
よろしければ、そちらもお暇な時にでもふらっとのぞいてみていただけたら幸いである。それでは本日はこのへんで、ごきげんよう。


妙なもん見たけどなんか元気になったわ…というスポットを目指しています