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日米「ハクション!」の違い


日本語では何て言うの? え???ないの?

数日前のこと。
いつも通りベーカリーで働いていると、日本に興味があるアルバイトのアメリカ人の女の子がニコニコと近づいていきました。
そんな、彼女からの質問がこちら。
「きっと、❝Bless you❞ にあたる日本語があるんだよね。何て言うの?」

一体、何のことですか?って感じでしょうか。
アメリカでは、誰かがくしゃみをすると、周りにいる人がくしゃみをした人に「Bless you」と言います。「Bless you」というのは「(God) bless you」ということで、日本語では「神のご加護がありますように」となります。宗教的なことなのかと思ってしまいますが、必ずしもそういうことでもないようです。調べたところによると、くしゃみをするとその人の体から魂が抜けだして病気になるという迷信があって、それを防ぐためにくしゃみをした人に「Bless you」と言うようになったのが始まりとのこと。とはいえ、うちの旦那さんの言葉を借りるならば、くしゃみをした人に「Bless you」と言うのはCourtesy (礼儀)らしいですね。そう言われると確かに、マナーや習慣というよりも、礼儀の印象かも。友達や家族と一緒にいる空間、職場はもちろん、例えば一人で買物中にくしゃみをしたときにも、たまたまそばに居合わせた人が「Bless you」と言ってくれます。
アメリカにおいては、当たり前すぎる礼儀のひとつであって、当然のように日本語では何て言うのだろうと興味津々だった彼女に「日本では、❝Bless you❞は言わないの。そういう考え自体がないんだよ」と説明すると、全く予期していなかったことを聞いた驚きと、理解に苦しむ微妙な表情をしていました。最終的にはフ~ンと納得しているようでしたが、それでもどこか腑に落ちないというか、信じがたい思いを払拭できずにいる様子。かわいい。

❝Bless you❞ にはどう答えるの?

アメリカでは、くしゃみをした人に「Bless you」と言うのが礼儀だと書きましたが、思うにこれは西洋圏ではごく一般的なことなのではないでしょうか。一方、アジア圏では聞いたことがないですけどね。
とにかく、少なくもアメリカでくしゃみをすると、見ず知らずの人から突然「Bless you」と言われる可能性があることは確か。知らなければ意味不明で対応に困るかもしれませんが、そんなときは「Thank you」と返せばOK。「こんにちは」に「こんにちは」で返す感覚なので、その後に話しかけられることもまずなければ、それ以上の反応を求められることもありませんので、ご安心を。

ちなみに「Bless you」はスペイン語では「Salud (サルー)」となるようで、南米系の同僚からは、くしゃみをすると「Salud」と言われることもたびたび。そんな時は「Gracias (グラシアス)」と返すようにしています。スペイン語の「ありがとう」。これも礼儀のひとつかなと。

この日本には存在しない礼儀ですが、アメリカで生活していると自然に『そういうもの』として、それなりに身についてくるものです。知っている人はもちろん、見ず知らずの人のくしゃみに遭遇しても「Bless you」と自然に声をかけられるようにはなりました。
でも、くしゃみって単発ではなく複数回続くことがありがち。これは万国共通。なので、「ハクション」「Bless you」「ハクション」「Bless you」「ハクション」「Bless you」ということになってしまったり…
まぁ、知っている人ならば笑い合っておしまいなのですが、自分がくしゃみをする方の場合は、極力2度目のくしゃみを堪えたくなってしまったり…(笑)

アメリカ人にとっては意外と大事だったりする ❝Bless you❞

以前、日本に住む外国人が日本でくしゃみをしても、誰も「Bless you」と言ってくれない…と複雑な気持ちになったという話を聞いたことがありました。日本人にそのような習慣がないなんてことは思いもせず、なんでなんだろう?自分が外国人だからだろうか?歓迎されていないのだろうか?と気に病んでしまったのですね。きっと時が経って、この人もその理由を知るときが来たことでしょうが、この人のような外国人は意外と多くいるのかもしれません。これを当たり前のこととして生きてきた人たちにとっては、たかが❝Bless you❞、されど❝Bless you❞ なのでしょう。
興味があったら、そして勇気があったら、日本で(主に西洋圏出身と思われる)外国人のくしゃみ場面に遭遇したときに「Bless you」って言ってあげてみてくださいね。

一方、アメリカ生活で、このくしゃみをめぐる ❝Bless you❞ に慣れたとは言ったものの、あくまでも他国の礼儀として理解している私は、例えば私のくしゃみに対して、誰にも「Bless you」と言われなくれなくても、全く気になりません。これ、いいこと。ていうか、そこまで礼儀とか言っておいて、言ってもらえないことなんてあるの?と思うかもしれませんが、言ってもらえない理由は、多くの場合、その人が私のくしゃみをくしゃみとして認識しなかったということなのだろうと思っています。「あれ?今のはくしゃみ?」と判断しかねているのではないかと。
というのも、人それぞれ、くしゃみの仕方も違いますが、日本人にありがちなのは何と言っても「ハクション!」でしょう。一方で、アメリカ人のくしゃみはにありがちなのは「Achoo (アチュー)」ってやつ。なんじゃそれ?ですよね。
そう、「ハクション」に慣れている私たちにとっては「アチュー」とかされても、それこそ「ん?今のは何?」となるのです。ということは、「ハクション」がくしゃみとして認識されないと考えるのも妥当です。かといって、長年してきたくしゃみを、アメリカスタイルの「アチュー」に変えるなんてことはまず不可能で、多少意識しても「ックション」ってところかな。それに対して誰かが「Bless you」と言ってくれれば、「あ、分かったんだね」と思いながら「Thank you」と返し、何も返ってこなければ「あ、分からなかったね」と思うまで。ある意味、楽しい。

私が好きな、日本ではあたりまえの礼儀

くしゃみをした人に「Bless you」と言い、それに対して「Thank you」と返すやり取りは、アメリカ人にとっては、極々当たり前のこと。深く考えることもない『そういうもの』なのですね。強いて言うならば、日本人が「いただきます」という感覚に似ているのかもしれません。「いただきます」にあたる英語は存在しないし。日本人にとって「いただきます」が大切なことだと考えれば、アメリカ人にとっての「Bless you」も、しっかりと尊重すべきものなのでしょう。

最後にひとつ。
日本人の接客は、時として外国人からはロボット的と言われたり、そんな印象を与えることもありがちなようです。お客さんの来店を知らせるピンポーンが鳴ればとりあえず「いらっしゃいませ~」で、レジでの一連のやり取りにしても、ひたすらマニュアルにのっとっている印象が残りがちなよう。
まぁ、お客さんの買物内容を見て「今夜は何作るの~?」なんて具合に話を始める、妙にフレンドリーなアメリカ式接客スタイルに慣れていれば、そう感じるのも分かりますけどね。どちらがいいという気はサラサラありませんが、少なくともお互いの国の『そういうもの』に違いがあるということを理解していれば、お互いにストレスや不信感は減るのではないでしょうか。

そんな中で、実は結構日本ならではなのかもと感じる、私が好きな日本人の礼儀があります。それは、飲食店を後にするときに、お店の人に「ごちそうさまでした~」と一声かけること。日本ではそれこそ『そういうもの』と認識している人も多いかもしれませんが、実はこれ、とても日本式なんじゃないかなぁ。アメリカでは接客の最後にウェイトレスさんがお客さんに「Have a nice day!」と声をかけることはあっても、お客さんが帰り際に「Thank you」と言い残して店を出ていく姿は見ないですからね。

先日、かなり久しぶりに旦那さんと日本人が経営するラーメン屋さんでお昼をいただく機会がありました。店内の雰囲気やメニューの内容は、それなりにアメリカっぽくアレンジされていましたが、店長さんとお見受けするお兄さんは日本人。おいしくいただいてお店を出るときに、うちの旦那さんがその日本人店長さんに向かって、私が驚くほど自然に「ごちそうさまでした~」と声をかけたのです。私も「ごちそうさまでした~」と声をかけ、店を出てから、その真意を訪ねると、「日本だったらそうするでしょ?」と。
ほっこりの瞬間をありがとう!


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