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『埋立地の仕事』


まだ日が昇るまえに

新都市鉄道の終着駅で降りて

改札の先にはバスが待っている


そのバスになだれこんだら

埋立地のなかを巡回して

物流倉庫やら

港の設備やらを経由して

これまた終点まで揺られる


まだ眠気が残っているから

意識が遠のいたころに

目当てのバス停に着く


海風が強い

遮るものがないから

耳に刺さる

空き地の雑草が靡く


「じゃコレ」


”カカリインさん”から

茶封筒を手渡される


この仕事のイイところは

日当が手渡し前払いっていう


だから色々と

事情が込み合った連中が

われもわれもと


「きょうはちょっと手間かもしれない」


そう言われてみれば

茶封筒がふだんより厚い

覚悟をしないと


まぁとはいえ

日が暮れたらまたバスが来て

自宅に帰ることができるんだから

このうえない話


「じゃ1班の区分は豚汁」


ということで私も含めて

目の前に用意された簡易厨房で

大量の材料を捌く


水泳ゴーグルを持参していたのが

ちょうど私だけだったこともあり


私は玉葱をひたすら剥いて

短冊切りにする担当となった


雑談をするものたちもいるが

私はあまりそれを好まないので

もくもくと作業に取り組む


何も考えることをせず

ひたすらに集中できるので

時間の経つのも早い


日が高くなった頃

数百個の玉葱が捌けた


鍋に投入し

じきに数千人ぶんの

豚汁が煮立った




向こうの地下トンネルのほうから

ざわざわと人の波が寄せてくる

”オキャクさん”がやってきたわけ


作った班がそのまま

その献立の配膳も担当するので


私はオキャクさんに

スチロール製のお椀に盛られた

豚汁を渡す担当となった


これは案外大切な役目で

黙って複数回受取ろうとする

ずうずうしいものを

排除する役割があったり


だから食券制などを導入すれば

話は済むのではとも思うが


日雇いの身分で

業務改善など提案しても

割に合わないので黙っている


日がななめに傾き始めたころ

ようやくすべての配膳を終えた


オキャクさんたちは

続々と地下トンネルのなかへ

戻っていく


すでに食べガラも山となり

これをトラックに載せて

きょうの業務は終了


避けてあった人数分の賄い

豚汁などはほぼ冷え切っているが

それを頂いて解散となる


心地よい疲れが

全身を襲う


帰りのバスではすっかり

揺れに身を任せていたら

眠りこけてしまった




気が付いたら

駅ではなく

元の埋め立て地へ

戻って来ていた


「あんた晩のシフトもか」


カカリインさんが驚く


いいえ違うんですよ

寝過ごしただけなんですって

そう言ったんだけど


「せっかくならやってく?」


そういう提案を受けたので

じゃあ稼いで帰ろうと

急遽ではあるけど

晩のシフトにも参加することに


今夜のメニューは

餃子だそうだ


私はちまちまと

餡を皮に包む担当になった

ぜんぶで15人はいるだろうか

例によって私は

誰とも話すことなく

もくもくと作業をすすめる


手がかじかんで

思うようにすすまない


「少し遅れてるぞ」


カカリインさんから檄が飛ぶ


これって給食センターで

作ってから配達するんじゃ

だめなのかと

そんなことも考えるものの


日雇いの身分で

業務改善など提案しても

割に合わないので黙っている


昼と同じオキャクさんが

ぞろぞろと出てきた

まだ餃子は焼かれていない

焦る私たち




ところで前から疑問なのだが

このオキャクさんは

いつも同じ(だと思う)

メンバーがそろって

地下トンネルから出てくるけども


どこに住みどんな仕事をして

どんな理由であそこにいるのか

皆目見当がつかない


カカリインさんにそのことを

訊いてみようかななどと

思ってもいるのだけど


日雇いの身分で

仕事の理由などを聞いても

意味がないので黙っている


けっきょくきょうは

2シフト分の賃金を得て

帰宅することができた


疲れ切ってはいるけども

おかげで妙にテンションが高く

その足でパチンコに向かった


結果はさんざんで

きょうの実入りをすべて

使い果たしてしまった


明日も埋立地に

向かうことにしよう

























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