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『楽しく暮らしています』


「ちょっとコンビニ行ってくる」


そう言って

弟が帰宅しないまま

3年が過ぎようとしています


直後は

大きな捜索の網が張られて

マスコミ各社でも報じられました


わたしも姉として

出来る限りのことを

したつもりです


だからSNSからも

捌ききれないほどの情報が

連日寄せられて


--


そんなことも

いまや昔


都会ともド田舎ともいえない

そこそこの郊外の

ごくごく平凡な住宅街で

中肉中背の成人男性が

攫われるなんて

考えにくいのです


あるいは弟は

自らの意志をもって

出かけていったのでしょうか


父はその当時

癌の末期で入院をしており

ほどなくして逝ってしまい


母はその看病疲れと

弟の件でまったく

寝込んでしまったまま


わたしはというと

やはりこの事件を引きずり

ほそぼそと地元の会社で

事務仕事をしつつも

恋人をつくることもせず

趣味ももたない生活を

淡々とこなしています


いっそ


いっそ弟など


はじめからいなかった


そういうことにしてしまえば

母もわたしも

救われるのかもしれない


不謹慎と言われるかもだけど

そんなふうに

考えることだってあるんです


弟の部屋と私物は

きれいさっぱり

片付けて


--


見知らぬ携帯電話の番号から

不在着信があったことに

昼休みに気が付いて


最近では”電話”なんて

ましてや

個人のケータイから

かかってくること自体

めったにってないし

これはもしかして

なんて思ってしまいました


折り返すべきなのか


けっきょく帰宅して

母に相談しようと思いつつ

そのままその晩が過ぎて

そしてその翌日も

その次も

ずっと折り返せないまま


一方で向こうからの着信も

ないままに過ぎていき


あぁきっと誰かの

かけ間違いだなって


--


その数日あと

ちょうどわたしの退勤時刻

こんどは最寄りの警察署から

電話がかかってきました


「弟さん、いらっしゃいましたよ」


そのしらせは

にわかには信じがたくて


「えぇ身元は間違いありません」


喜びよりも

戸惑いの気持ちが

勝ってしまったことに

大きな罪悪感を覚えました


「署までお迎えに来ていただけますか」


どうしようか


判断がつかないまま

わたしは帰宅

母に相談を

でもきょうは疲れているし

突然のことで

母が逆にショックを

そんなことを考えているうちに

何日も過ぎてしまいました


また警察からは

それ以降なんの連絡もないのが

不思議です


もう面倒なので

これからしばらく

知らない電話番号は

着信拒否を

することに決めました


弟の使っていた部屋は

外国人留学生に貸しています


実は最近

わたしは母と

カナダからの留学生デイジーと

オンナ3人で

楽しく暮らしています


ウェーイ!

って

母が言っています

デイジーの影響です


ウェーイ!



(続編が書けました)


























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