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「もっとのびのび生きようぜ!」(松本哉『貧乏人の逆襲!』を読んで)

松本哉さんによるアジテーションの書。松本さんは、既存のイメージに囚われない斬新な社会運動を立ち上げ、「素人の乱」というリサイクルショップの店主をしている自由人。

本書には、彼の運動にまつわる爆笑エピソードが満載。彼らが六本木で「クリスマス粉砕鍋集会!」を計画した時の話なんか最高だった。当日は、たくさんの私服警察が張り込みしていたという。

「「貧乏人大反乱集団」のことを刑事は「貧乏」と略して言うことが多かったので、たまたま通りかかった貧乏そうな人に向かって「おい、オマエ貧乏だろ!鍋でもやるんだろ?とっとと家に帰れよ!」とか怒鳴りつけて、大ショックを与えたりした。ちなみにこの人、本当にまったく知らない人。せっかく田舎から頑張って遊びに来たんだろうに……。警察はなんてヒドイことをするんだろう!」

いきなり見ず知らずの人にこんな暴言を吐かれたら、一生のトラウマになるかもしれない。「おい、オマエ貧乏だろ!」。さすがの僕でも傷心モノだ。

松本さんの運動は、哲学的・社会学的な視点から見ても刮目すべきものがあると思う。マルクスの共産主義の思想や、フーコーの指摘した「生政治」への抵抗として読み解くことだってできるだろう。もちろん本人に聞いたら、「いや、好き勝手やってるだけ」と言うだろうけれども。

彼らは、人間に不自由を強いる社会への不満を率直に表現し、「もっとのびのび生きようぜ!」と言う。彼らの活動が、ドイツなど海外の社会運動と響き合っているのも決して偶然ではない。そこには人間の根源的な欲求があるのだから。

「街中、見渡せば貧乏人だらけなのに、なんだか知らないが一人一人でウロウロしており、そのおかげでまんまとくだらないボッタクリ職場でコキ使われたり、中流階級のふりをして代官山あたりにムリヤリ遊びに行ったりしてきた」

ここには資本主義社会の構造が象徴的に現れている。コミュニティを失った「個人」は、近代的な「自由」とひきかえに、自分たちの社会を主体的に創造する力を失った。それを取り戻すための運動、それこそが『貧乏人の逆襲!』なのだと思う。


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